久保建英が象徴する日本代表のカタールW杯後の成長 15分でドイツの息の根を止める
9月9日、ヴォルフスブルク。サッカー日本代表はドイツ代表を、敵地で1―4と完膚なきまでに叩き潰している。「時代の転換点」と言えるような記念的勝利だろう。
カタールW杯のグループリーグでも、日本はドイツを2−1と逆転で劇的に下している。ただ、この時は内容的には苦しく、あくまで相手の拙攻に助けられた形だった。指揮官である森保一監督が選んだ消極的な戦い方によって、前半は選手が怯んでしまい、どうにか守りきれたうえにカウンターがはまっただけで、課題のほうが多かった勝利だ。
しかし今回は、チーム戦術そのものは大きく変わっていないが、日本の選手が局面でドイツの選手に負けておらず、むしろ凌駕していた。たとえば2点目を挙げた上田綺世、攻撃をリンクさせた鎌田大地はチャンピオンズリーガーで、中盤に君臨した遠藤航は元欧州王者リバプール所属。1年足らずの間に戦力は確実にアップし、ドイツにも引けをとらない陣容になった。
時代の変化の象徴が、交代出場でドイツの息の根を止めた久保建英と言えるだろう。
ドイツ戦、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)に所属する久保は、後半30分に出場すると、圧巻の2アシストを記録している。
試合後、ドイツ代表GKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンで握手する久保建英
「100%(先発で)出ると思っていたので、(外れたことには)正直がっかりしました。それだけ競争(のレベル)が高いんだ、ってポジティブに自分に言い聞かせましたね。その意味でも、結果が出たのはよかったです」
試合後、久保はそう語っている。自負心の強さをプレーに転換できるのが、彼の異能と言える。先発から外されると、どうしてもフラストレーションが溜まる。その場合、自負心は毒のようになって、周りを攻撃し、自らを消耗させ、弱らせることもあるのだが、久保の場合、むしろ活力になっているようだ。
実際、たった15分間の出場で、あっさりと試合を決めてしまった。
90分、焦りもあってプレーに雑さが出ていたドイツの隙を、久保は見逃さない。自ら猛然とボールを奪い取る。そして完璧なコース取りのドリブルで相手に打つ手を与えず、最後は浅野拓磨の足元に流し入れた。
【リーガで磨かれた集中力】
「時間的には"引いて守り"、というところだったんですが、ドイツのビルドアップに隙があるのは、ベンチからも見てとれていました。なので、なんとか1、2回と思っていたら、とれそう、という瞬間があって。(ドリブルで持ち込み)後ろを確認した時に相手が寄せてきてなかったので(シュートを打つかどうか)悩みましたが、(アシストして)チームの勝利につながってよかったです」
その攻守の切り替えは、成長の証だろう。獲物の弱点を見極め、容赦なく襲いかかるような獰猛さ。プレーの速さと精度の両立は、まさにラ・レアルで充実させているプレーと言える。彼にとってはルーティーンだ。
そして92分にも、対峙するディフェンスを奈落の底に突き落とす"一対一の強さ"を見せる。縦に行く、中に切り込む、もしくはクロスを上げると変幻自在。ドイツ戦も右サイドで相手ディフェンスと向き合うと、体重移動だけでコースを作り、左足でクロスをディフェンスの背後に落とす軌道で蹴る。これを田中碧が合わせて決めたが、ピンポイントの正確さだった。
「3−1になっていたので、時間を使おうか、とも迷ったんです。でも、中を見たら(田中が)フリーだったので」
久保が言うように、本能に近い電撃的プレーだからこそ、相手も読みきれないのだろう。魔法のようなクロスは、今やラ・リーガの猛者たちが総出でかかっても止められないレベルだ。
それにしても、贅沢な使い方と言える。
久保は昨シーズン、ラ・レアルをチャンピオンズリーグ出場に導く原動力となっている。今シーズンも開幕から4試合連続ゲームMVPの快挙で、レアル・マドリードでゴール量産体制に入りつつあるジュード・ベリンガムと肩を並べるほどである。控えめに言って、今の欧州リーグで日本人として1、2を争う活躍ぶりだ。
その彼に与えられたのが、たった15分だけである。
「(やれる)自信はありますよ」
久保は込み上げる熱さを抑えきれない声音で言っている。交代出場で活躍に満足するような選手ではない。
「(カウンターからアシストしたところで)あのプレーもあそこでの選択になるところ、まず前に仕掛けようと思いましたし、それは自信があるからだと思います。チャンスが二度くらいしかないなかでも、決められました。"自信がある"っていうよりは、それは当たり前だと思っているので」
野心と向上心と集中力で、久保は自分の可能性をどんどん広げてきた。
「自分としては、やれることをやるだけなので。出られない悔しさはありましたけど、カタールW杯の時よりはコンディションもいいので」
9月12日のトルコ戦に向けて虎視眈々だ。