イタリアに来て以来、ローマの街を回る時間さえもなかった鎌田大地が、イタリア王者のゴールに左足からのシュートを叩き込んだ。このゴールのおかげで鎌田大地には新しいニックネームがつけられた。「Daje'ci(ダイエ・チ)」だ。「Daje(ダイエ)」とはローマ弁で「がんばれ」とか「行け!」の意味。一方「ci(チ)」は親しみを込めて相手に呼び掛ける時に使う。つまり鎌田大地はここローマで、「鎌田ダイエ・チ」になったのだ。

 土地の言葉でニックネームをつけられたということは、すでにラツィアーレ(ラツィオサポーター)に受けいれられたということ。これはとても大事なことだ。なぜならローマっ子は一度気に入ったら、とことん贔屓するからだ。人々は鎌田がスタジアムから出てくるたびに彼の肩を叩き、道で出会えばクラクションを鳴らす。こうした行動はすべて、ひとつの言葉に集約される。愛情??それも心の底から自然に湧き上がる愛情だ。

 鎌田は数試合で人々の心に入り込んだ。最初のレッチェ戦、ジェノア戦は少し遠慮がちだったが、ナポリ戦では突然、偉業を成し遂げた。角度のある左足のシュートは、20年前にパベル・ネドベドがローマ戦で決めたゴールを彷彿させると話題になった(ネドベドは1996年から2001年までラツィオでプレーしていた)。


ナポリ戦で初ゴールを決めた鎌田大地(ラツィオ)photo by PA Images/AFLO

 鎌田のゴールは、背番号10のルイス・アルベルトのおかげもあって生まれた。彼がフェリペ・アンデルソンからのボールをスルーし、うまく鎌田の目隠しとなったことは大きかった。そのルイス・アルベルトはこの日のラツィオの1ゴール目をヒールで決めた立役者でもあったが、試合後、鎌田のゴールについて聞かれると、カトリックの国(彼はスペインの出身だ)の人間らしい表現でこう答えた。

「彼のゴールは僕が決めたものよりもずっとずっと難しかったよ。まるでマドンナ(聖母マリア)みたいなゴールだった!」

「マドンナ」とは、何か驚くべきことを成し遂げた時に我々が引き合いに出す言葉だ。つまりルイス・アルベルトは暗に、8シーズンで69ゴールを決めたセルゲイ・ミリンコヴィッチ・サヴィッチの抜けた穴を、鎌田が十分埋められると示唆しているのだ。彼の後継者というポジションは非常に重いものだが、鎌田はその荷を堂々と受け止めている。

【「ファーストタッチが最大の長所」】

 たとえ時間はかかっても、鎌田は指揮官マウリツィオ・サッリの重要な戦士になる。そんな印象をこの試合から受けた。開幕から2試合、鎌田はスタメンとしてプレーしたが、ほとんど目立った活躍はなく、サッリはナポリ戦では休ませようかと考えたこともあったようだ。しかし、試合に出た鎌田はそんな疑いを払拭し、机をどんと叩いてこう答えたかのようだった。

「OK、今から本気を出していきます」

 サッリという監督のサッカーは、慣れるまでには思ったよりも多くの時間がかかる。鎌田自身もそのことについては現地でのインタビューで認めている。

「自分はこれまで多くのことを学んできた。しかし今は新しい国でサッカーをしている。すべてゼロから学び直している感じだ。サッリのような戦術家はなかなかいない」

 鎌田は皆に期待されている。クラウディオ・ロティート会長は彼のことを気にかけているし、チームメイトはすでに彼を気に入っている。メディアも興味津々だ。

「Cronache di Spogliatoio」(クロナケ・ディ・スポイアトーリオ。「ロッカールームニュース」という意味のSNSによる配信)は、従来のメディアとは異なる切り口で、選手やチームのバックステージを配信しており、すでに120万人のフォロワーがいる。その編集長ジャコモ・ブルネッティは、鎌田についてこう書いている。

「彼はいつもリラックスした足どりでプレーする。ファーストタッチは彼の最大の長所で、常に試合の先を読んでいる。一見テンポが遅いようにも見えるが、ナポリ戦ではラツィオの選手のなかでトップ5に入るスピードを持っていた。それは誰よりも早く先を読むことで、いち早く次の展開にふさわしいポジショニングを取ることができるからだ。おかげでマークを外すのもうまい。

 そのテクニックはすばらしく、ボールコントロールも秀逸、中盤の前方でいつもいい動きをする。特に右足からも左足からも自在に繰り出せるアシストはとても危険だ。彼の足の間にボールがあれば何かしてくれる。そんな期待を抱かせてくれる」

 また、オリンピコの記者席では、すでにあちこちからこんな声が聞こえてくる。

「鎌田は今後、ラツィオに何年も残りプレーするだけの力を持っている。新たな環境にもうまく順応していて、少なくとも5、6ゴールは決められるだろう。ラツィオの新たな天恵となるかもしれない」

 ディフェンディングチャンピオン、ナポリのホームで鎌田は輝いた。「ディエゴ・マラドーナ」の名を冠されたピッチで、彼は恐れることもなく、聡明さと冷静さで難しい試合を乗りきった。

  そんな彼のラツィオでのチャンピオンズリーグデビュー戦は9月19日。対戦相手は奇しくもかつてラツィオで活躍したディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリードだ。シメオネは2000年にリーグ優勝した時のメンバーで、いまだサポーターから愛されている。鎌田はこの試合もスタメンスタートすると思われる。

 だが、その前にはリーグ再開直後のユベントス戦がある。この試合は"サッリズム"を彼が本当にものにしたかどうかを知るための、2度目のテストとなるだろう。まさに「Daje 'ci?(ダイエ・チ)」だ。