メンズフィジーク・直野賀優 インタビュー前編(全2回)

 ボディコンテストの代名詞とされるのが、筋肉量の多さや脂肪の少なさを究極レベルで競う「ボディビル」。一方で、海やボードショーツといった"水着が似合う男"をコンセプトに、筋肉量はもちろん、そのバランスや美しさといったトータルパッケージが求められるのが「メンズフィジーク」だ。

 メンズフィジークは、ボディコンテストのなかでは比較的新興の競技だが、その一般ウケのよさと挑戦しやすさから、競技人口が拡大している人気カテゴリーだ。

 そんなフィジーク界のスター選手である直野賀優(なおの・よしまさ/32歳)は、国内最大の競技団体であるJBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)が主催する最高峰のボディコンテスト「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」の階級別で3連覇を達成した王者である。

 しかし、直野は2023年を「背水のシーズン」と語る。その理由とは? 9月10日に開催される「オールジャパン」を前に、本人にインタビューした。


「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」3連覇中の直野賀優

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【オンとオフの体重差は30キロ近く】

ーー現在、シーズン真っただ中。苦しい減量期かと思いますが、現在の体重は?

直野賀優(以下同) 87キロくらいですね。(8月4日の)「スポルテック カップ」の時が83.9キロでした。8月下旬にレバノンで開催されたアジア選手権(「IFBB アジアン チャンピオンシップス」)では83.6キロでした。

ーー増量期の体重は?

 一番重かった時期で111キロですね。2021年の時、オンとオフでの体重幅は5カ月間で29キロありました。

ーー29キロ!? いったいどのような食生活なのでしょうか?

 当時は1日全卵20個にお米を3合、鶏の胸肉450グラムを1日4回に分けて食べることをベースにして、あとはサプリメント。減量期以外はこれにハンバーグや焼肉、ジャンクフード、お菓子にアイスといった嗜好品を食べるといった感じですね。

 ですが今は栄養素に対しての価値観が変わってきて、ローカーボ(低糖質)にしたり、脂質をとるためにMCTオイルを追加したり。卵の値段が上がっているのもあって、変化している部分も大きいですが。

ーー昔から体のサイズは大きかったのですか?

「ベストボディ・ジャパン」というボディメイクコンテストに出てみようと思ったのが大学4年生の頃だったんですが、当時は70キロでした。一応、学生時代はトレーニングが身近な環境だったのですが、今思うとガリガリですね(笑)。


大学時代はモデルとしても活動していた 写真/本人提供

【絶対王者のイメージを植えつける】

ーー2022年は「オールジャパン」で新設された180センチ超級を制し、コロナ禍で大会のなかった2020年をまたいで階級別3連覇を達成(2019年、2021年は176センチ超級)。「ガリガリだった」という大学時代から、本格的に"魅せる体"をつくるためにトレーニングを始めて約10年。今シーズンも盤石かと思います。

 いえ。まったくそんなことはなくて、むしろ背水のシーズンだと思ってます。

ーーと、言いますと?

 オーバーオール(※無差別級。「オールジャパン」など主要コンテストでトップ3に入った選手に参加資格が与えられる「JBBFフィットネス ジャパン グランド チャンピオンシップス」にて競われる)では、(176センチ以下級王者の)伊吹主税選手に敗れて2位でしたし、あらゆる大会で優勝するような状況をつくらないと、負ける可能性がある選手というイメージが、審査員にもついてしまう。

ーー負ける可能性がある選手?

 ボディメイクのコンテストは記録や点数ではなく審査競技。人間が審査するから好みやイメージに左右されることもあると思うんです。

 だから勝ったり負けたりしていたら、審査員から「負けを与えてもいい選手」という印象になって不利になる。伊吹選手も「グラチャン」での優勝は1回目だし、まだまだ巻き返せる。絶対王者というイメージを審査員やお客さんに植えつけることを考えると、今年は勝負の年であり、背水のシーズンになるという意味ですね。

ーー審査競技ではイメージが大事なんですね。

 自分なりの最善のトレーニングや食事で、毎年必ず前年よりもいい体をつくれている自信は持っています。それをもってしても、審査員から一番いい評価をもらえるわけではないんです。それどころか、前年よりも評価が下がることもあって、それがメンタルに一番こたえます。

 だから評価というものは分けて考えるようにしていて、評価されないことへのフラストレーションは、努めて飲み込むようにしています。正直、結果が出なかった時に言い訳したいことはいっぱいあるのですが、負け惜しみに聞こえてダサいので(笑)。ここでは言いません!

【優勝しないと満たされない、一番に飢えている】

ーー昨年の「オールジャパン」180センチ超級では予選、決勝ともすべての審査員が1位とする満票優勝。他を圧倒しました。

 去年は単純に気持ちをしっかりのせて減量したし、体のしぼりの部分もよく仕上がっていたからいい評価につながったんだと思います。

 僕はJBBFのメンズフィジーク競技界のなかでボリューム、バルク(重厚感)、ポージングに関しては、ある程度満たしつつあるんじゃないかと。でも、人によっては僕以上の選手がいると思う人もいるだろうから、その時点では絶対王者じゃない。そこは追求したいですね。

ーーしかし、今年8月4日の「スポルテック カップ」ではオーバーオール4位、8月28日まで開かれていたアジア選手権でも4位となってしまいました。

 必ず優勝する気持ちで臨んだだけに、負けがこんでいるのはまずいですね。とにかく、これからも一つひとつのコンテストで勝ちにいく。それだけです。


8月の「スポルテック カップ」に出場した直野 写真/本人提供

ーー今後の目標は?

 いずれは世界選手権のオーバーオールを勝ちたい。それが僕のなかでの、達成しなくてはいけないタスクに近いものになっていて、意地になっている。

 だから現状は競技を楽しめている実感もないし、つらいことばかり。世界一を達成してはじめてトレーニングを楽しむとか、新しく何かに向けてがんばるとかって目標や欲求が生まれてくるんだろうなと思います。

ーーあくまで1位にこだわる、と。

 僕は今まで一番になったことがない、劣等感の塊のような人生だった。階級別でいくら優勝しても「グラチャン」やアジア、世界選手権で優勝しないと満たされない。それくらい一番に飢えているんです。

ーー後編では、自身が「劣等感の塊」と語るその人生をさかのぼります。

後編<「劣等感の塊」だったガリガリモデル→フィジーク王者に! 直野賀優「見返してやるぞって気持ちでやれているんです」>を読む

【プロフィール】
直野賀優 なおの・よしまさ 
1991年、宮崎県生まれ。筑波大学在学中からトレーニングを始める。JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)主催の「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」フィジークカテゴリーで2019年、2021年は176センチ超級で優勝、2022年は新設された180センチ超級で優勝。