ビキニフィットネス・廣中れな インタビュー前編(全2回)

 現在、国内ビキニフィットネスの「絶対女王」の座に君臨するのは、JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)主催の最高峰コンテスト「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」163センチ超級で7連覇中の安井友梨(39歳)だ。

 この高い壁に果敢に立ち向かっているのが2022年の「オールジャパン」で安井に次ぐ2位となった廣中れな(33歳)。2023年の同大会は9月10日に栃木で開催。大舞台を前に、次世代女王を狙う廣中を訪ねた。


2022年の「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」で2位になった廣中れな

【仕事の空き時間から筋トレ開始】

ーービキニフィットネスを本格的にやっていこうと思ったきっかけは?

廣中れな(以下同) 30歳の頃ですね。それ以前も仕事の空き時間に毎日40分ほどトレーニングしていましたが、当時通っていた愛知のジムにJBBFのベテランボディビルダーの方がいて、「がんばってるし、ステージに立ったら映えると思うから一緒にコンテストに出てみない?」と誘われたんです。目標があったほうがいいなと考えて、翌日には出ることを決断しました。

ーー愛知といえば、「絶対女王」安井友梨さんが所属するジムもありますね。

「エクサイズ(トレーニングスタジアム)」(名古屋市)ですね。そのボディビルダーの方に安井さんも行っているジムだと教えてもらって、私も同じ柏木(三樹)先生にポージングを習いに行ったことがあります。

 柏木先生にポージングやストレッチの手ほどきを受け、これまで自己流でやっていたものがやり方によってこんなに違うのかと、その奥深さにビックリしました。そうしてトレーニングにすっかりハマっていって、フィットネスでやっていこうと決めていましたね。


兵庫県の「マックスジム」でインタビューに応じる廣中

ーーそれがたったの2年前とは驚きです。初コンテストの結果は?

 2021年8月の愛知県ビキニフィットネス選手権大会でした。そこで3位に入れたので翌月の「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」のクオリファイ(出場権)を獲得できたんです。

ーー結果は18人中16位でした。

 まったく通用せずに、フィットネスでやっていくと決めたのに下から3番目って何やってんだろ......と屈辱を味わって帰りました。

 もっと本気を出さなきゃいけないなって思いました。大会前に離婚をして地元の鳥取に戻っていたので名古屋のジムには通えなくなり、柏木先生から紹介していただいた兵庫の「マックスジム」にすぐに連絡。現在も指導いただいている木下(喜樹)先生と出会いました。

ーー約2年前から「マックスジム」に通われているということですが、鳥取から加古川はかなり遠そうですね。

 車で片道3時間かかります。2週間に1回、大会前は1週間に1回来て、パーソナルトレーニングやポージングの指導を受け、それ以外は自宅近くの施設でトレーニングをする感じです。長時間の運転もキツかったし、金銭的にもなかなかキツかったですが(笑)。


JBBF兵庫県ボディビル・フィットネス連盟理事長も務める木下喜樹の指導を受ける

【大反対の両親に「もう1年ください」】

ーーなんとしても結果がほしい、と。

 鳥取に戻って1年目は両親も「シングルマザーがやることじゃないでしょ」とフィットネスに大反対でした。自分の娘が水着で審査されるのは抵抗があるでしょうし、私には子どもがふたりいて子育てもあります。「フィットネスで食べていけるわけがないし、どうしてそんなに大会に固執するの」って言われました。最初の「オールジャパン」で結果が出なかった時は「もういい加減にしてくれ」という感じでした。

 だから「表彰台で安井さんの隣に並ぶ(2位以上になる)から、もう1年ください」とお願いしました。これが2〜3年かかってしまったら意味がない。両親にも子どもにも心配をかけてしまいますから。1年間マックスジムに通って、これで結果が出なければもう諦めようと。


学生結婚し、大学卒業後すぐに出産した廣中 写真/本人提供

ーーたった1年で結果を出すのは至難の業ですよね。

 他の選手と差をつけるなら、ポージングもそうだけど、表情とかもっと深い部分を磨かないと思っていたので、広島のモデル事務所に入ることにしたんです。その事務所にミセスコンテストに出場した経験のある先生がいたので、パーソナルでウォーキングや女性らしい所作を習ったり、モデル活動やラウンドガールにも挑戦して、とにかく見られることに慣れようと努めました。

ーーポージングだけではなく筋肉も必要ですが、トレーニングは特別なことをしたんですか?

 木下先生のもと、可動域も狭いし硬いということでトレーニングのフォームを徹底的に見直すところから始めました。だから特別なトレーニングをしたわけではないんです。トレーニングは長くても1日1時間半。それ以上だと集中力がもたないし、ケガのもとになってしまう。休息も大事なので週5回ほどです。

ーー1日1時間半の集中力はすさまじいんでしょうね。

 短い時間を集中して、種目ごとのインターバルもなるべく1〜2分に抑え、密度を濃く、基礎的なトレーニングをすると決めています。

【ママはなんで肩だけがゴリゴリなの?】

ーー安井さんは廣中さんにとってどんな存在ですか?

 最初の「オールジャパン」の時に絶対女王ということでもちろん存在を知っていましたし、生で見て、すごくカッコよかったのを覚えてます。

 でも、安井さんの隣に並ぶには、2位を狙うのではなく、超える気持ちでいかないと絶対に無理だと思ってました。精神的にはキツかったけど、自分で決めたんだからやらないとって。

ーーそして2022年の「オールジャパン」ではみごと、安井さんに次ぐ2位を獲得しました。表彰式ではポージングと表情をつくりながらも、必死に涙をこらえている姿が印象的でした。

 目標としていたことだから、安井さんの隣に並んだ時に感極まってしまいましたね......。

ーー安井さんのどんなところがすごいと感じますか?

 ここまでやろうと決めたら必ずやりきる精神力は他の選手より圧倒的だと思いますし、その精神力を7連覇している間ずっと維持することがとてつもないです。体で言うと、ウエストはすごく細いけど、大円筋はすごく大きいし、お尻もきれい。本当にすばらしいアウトラインだと思います。

ーーここは負けないという部位は?

 肩ですかね! 高校までバスケボールの強豪校にいたからかな。先生にも「肩は強みになる」と言っていただきますし、息子にも「ママはなんで肩だけがゴリゴリなの?」と聞かれます(笑)。ウエストを細く見せるためにも肩を極めようと思ってます。


学生時代はバスケットボール部に入っていた 写真/本人提供

ーー確かに間近で見るとすごい肩ですね!

 でも安井さんと比べるとウエストは全然です。去年、表彰式で安井さんと並んで、あらためて自分のウエストの太さが際立ってしまったので、この1年はそこを改善するのも目標としてやってきました。現在、ウエスト56センチ。あと2センチ絞りたかったですが......。

【女王・安井友梨に勝って優勝したい】

ーー他に安田さんを超えるために必要なことは?

「グラチャン(フィットネス ジャパン グランド チャンピオンシップス)」に出た時に審査員の方からもご指摘を受けたんですが、自信のない表情が出てしまっていると。

 もとが自分に自信が持てないタイプでそれを変えるためにビキニフィットネスを始めたんですが、「グラチャン」みたいなふだんインスタで見ているようなすごい選手ばかりの大会だと、どうしても控えめな自分が出てしまうみたいで......。


オーバーオール優勝を果たした2023年8月の西日本ビキニフィットネス選手権 写真/本人提供

ーー自信のない表情は減点対象となります。

 だから最終的には精神力。シーズンオフにはポージングの講習会の講師も何度かやったりして場数を踏みました。トレーニングに関してはできることはもうやったので、あとは精神力を本番までにどこまで高められるかなんじゃないかなと思ってます。

ーーあらためて間近に迫った今年の「オールジャパン」への意気込みをお願いします!

 現状、安井さんは手の届かないところにいる人。正直、いろんな人に「壁が高すぎる」と言われます(笑)。でも、1%も可能性がないわけじゃないと思います。安井さんもいつ引退するかわからない。だから今年こそ、安井さんに勝って、優勝したいと思います。


後編<「ママ、笑ってないよ、毎日つらそう」学生結婚のち出産後に離婚...廣中れなはビキニフィットネスに挑むことで笑顔を取り戻した>を読む

撮影協力/マックスジム(兵庫県加古川市)

【プロフィール】
廣中れな ひろなか・れな 
1990年、鳥取県生まれ。30歳からボディメイクを本格的にスタートさせ、2021年、2022年のJBBF主催「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」ビキニフィットネス・163センチ超級に連続出場し、2022年は準優勝に輝く。