福田正博 フットボール原論

■開幕数試合を終え、代表ウィークによる中断に入った欧州サッカーだが、日本人アタッカーたちの活躍が目立っている。鎌田大地、三笘薫、久保建英ら、結果を出している選手たちのプレーぶりを福田正博が評価した。


三笘薫の今季は「世界的に注目される存在」と福田正博は評価する

【鎌田大地はラツィオでどう進化するか】

 ヨーロッパサッカーの各国リーグが開幕し、開幕節から多くの日本人選手が躍動している。

 そのなかで今季気になっていたのが、鎌田大地だった。昨シーズン限りでフランクフルト(ドイツ)を退団し、その後は所属がなかなか決まらなくて気を揉んでいたが、セリエA開幕2週間前にラツィオ(イタリア)への移籍が決まった。

 ラツィオは2021年にマウリシオ・サッリ監督が就任。昨シーズンは2位でフィニッシュした。サッリ監督は激情家のイメージがあるが、サッカーへの熱量が大きい監督なのは間違いない。

 戦術面で独創的な監督なだけに、チームに加わるのが遅かった鎌田は、適応するのに時間がかかるだろうと思っていた。そのなかで開幕から3試合連続でスタメン起用され、第3節ナポリ戦では初ゴールも決めた。だが、やはり戦術的にもチームメイトとの連係面でもフィットしていない印象は少なからずあったし、コンディション的にもまだ不足している感じがした。

 ただ、これはチームに合流して間もないだけに仕方ないことだ。鎌田の持つ技術やフィジカル強度は十分にセリエAでも通用するだけに、ここからコンディションや戦術理解、連係面が高まっていけば、これまで以上の結果を残すと見ている。

 鎌田に限ったことではないが、選手が環境を新しくするのはリスクもある半面、刺激を得て飛躍するきっかけにもなる。27歳で、ここからベテランの域に向かっていく鎌田にとっては、サッリ監督と仕事をして得られる経験は計り知れない。

 シンプルに味方を生かすプレーを最大の特長にする鎌田が、サッリ監督の下でどう変化していくのか。ラツィオは今季、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)を戦い、リーグ戦では1999−2000シーズン以来のスクデッド獲得が期待されているだけに、その行く末は鎌田が充実したシーズンを送れるかどうかにかかっているだろう。

【三笘薫は世界的に注目される存在】

 三笘薫(ブライトン/イングランド)は日本代表の海外組という枠組みをはるかに超え、世界的に注目される存在になっている。今シーズンは開幕戦でアシストをマークし、第2節のウォルバーハンプトン戦では50mのドリブル突破からゴール。

 圧巻のプレーで世界中を驚かせたが、いまの三笘なら今シーズン中に何度もああいうプレーをしてくれるのではという期待感がある。それだけにケガなくシーズンを送ってくれることを願うばかりだ。

 三笘のすごさで言えば、ウォルバーハンプトン戦でマークしたドリブル突破に目が向きがちだが、その試合でアシストをマークしたシーンも見逃せない。逆サイドからのボールが三笘のもとに流れ、そのままシュートを打つことも可能だったなかで、斜め後方にいた味方にパス。

 何気ないプレーだが、これは攻撃の選手にとっては簡単なことではない。「得点を決めたい」という欲求が攻撃的なポジションの選手には少なからずあるからだ。シュートを打てるチャンスがあれば打ってしまいがちだし、それが許されるポジションなのだが、三笘のあのアシストシーンには、「ゴールは誰が決めてもいい。確率の高いほうを選べばいい」といった感じがあった。

 三笘のプレー選択を見ていると、シュートシーンさえもDFとの駆け引きを楽しんでいるように感じられるから不思議だ。「遊び心」とは少し違うのだが、相手と味方を見ながらプレーするなかで、わざと相手の気をそらすようなプレーを選択していると思うシーンが少なくない。

 ブライトン戦の中継をご覧になっている人ならわかるだろうが、三笘にボールが渡って「ここはドリブルでの仕掛けどころ!」と思っていると、あっさりパスをまわすことがある。

 なんでもかんでもドリブルというわけではないし、強引にシュートという感じでもない。かといって、そこへの欲がないわけでもない。そのバランス感覚がほかの選手とは違っているように映る。

 きっと三笘は、試合の「いま」だけを見ているのではなく、「90分間」だったり、「シーズン」を通じたなかで、いかに自分の持ち味を発揮するかを考えているのだと思う。だから、現在のシーズン序盤はDFに撒き餌をしているようにも映るのだろう。

 また、三笘は相手との間合いの取り方が抜群にいい。そして、合気道のように相手の力をうまく流してかわしていくこともできている。これができている間は、相手と絡み合ってケガをすることはないと思う。

【ひと皮むけた久保建英、復活の南野拓実】

 三笘と同じくらい鮮烈な輝きを放っているのが、久保建英だ。レアル・ソシエダ(スペイン)に移籍した昨シーズンに覚醒し、どの試合でも自分の力をしっかり発揮できるようになった。迎えた今シーズンは、さらにひと皮むけた印象を与えている。

 久保がボールを持った時に、ゴールにつながるプレーをしてくれるという期待感が大きいし、チームやサポーターからの信頼も厚く見える。加えて守備面でも強度が十分に通用しているのがすごい。Jリーグからスペインへ移籍した3シーズンは、守備面の課題を指摘されていたが、そこで取り組んだことが昨季花開き、今季はさらにそれが高まったように感じている。

 それほど久保は、試合のなかで"違い"をつくりだしている。ケガなく今シーズンを終えた時には、さらなるステップアップが現実味を帯びてくるだろう。

 今回のドイツ戦、トルコ戦の日本代表メンバーからは漏れてしまったが、開幕から圧倒的な存在感を示している南野拓美にも触れたい。モナコ(フランス)移籍1シーズン目となった昨季は、リーグ戦18試合で1得点と寂しい結果に終わり、カタールW杯の日本代表でも主力の立ち位置からは外れた。悔しいシーズンを送っただけに、今シーズンはどうかと心配していたが、そんな心配を開幕から結果で吹き飛ばしてくれた。

 開幕4試合で3ゴール3アシスト。ようやく南野らしい活躍ができたことに、本人も自信を深めているだろうし、今シーズンへの大きな手応えを感じていると思う。まだ28歳で、いまの力をここから維持していければ、当然ながら日本代表復帰は視野に入ってくる。

 森保一監督にすれば南野の実力はすでに織り込み済み。監督のこれまでのチームマネジメントからすれば、新たな選手を使いながら新しいチームへと移行しつつも、必要な時はタイミングを見計らって主力を務めてきた選手を招集するだろう。南野にもそのタイミングは必ず訪れるだけに、その時にしっかりと存在感を放ってもらいたい。

【オランダリーグのFW2人は共にゴール】

 FWでは今季から上田綺世がセルクル・ブルージュ(ベルギー)からフェイエノールト(オランダ)へ移籍し、小川航基が横浜FCからNECナイメン(オランダ)に移籍した。1学年違いの同世代のストライカーが、オランダリーグでどのような成長を遂げていくかは楽しみなところだ。

 小川は初めての海外移籍なため、まずは海外での生活に慣れるところからのスタートと見ていたが、開幕から2戦連続でゴールを決めるなど攻撃で存在感を発揮している。身長の大きな選手が揃うオランダリーグで空中戦の強さに磨きをかけてもらいたい。ただ、きっと彼が目指す場所はもっと高いところにあると思うので、来シーズンにステップアップの移籍ができるように、しっかりと語学面を含めた準備をしてもらいたい。

 上田は昨季のベルギーリーグで得点ランキング2位の結果を残し、オランダの名門に移った。直近の第4節では初ゴールを決めている。フェイエノールトは今季のCLを戦うが、鎌田大地のいるラツィオ、古橋亨梧らがいるセルティック(スコットランド)と対戦する。

 昨季に続いて、日本人選手が所属するクラブ同士がCLグループリーグで当たるが、これは日本サッカーがレベルアップしている証でもあるだろう。その舞台で上田にはプレミアリーグをはじめとする5大リーグの上位クラブへの移籍を狙うためにもしっかりアピールをしてもらいたいと思う。

福田正博 
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。