京大野球部が本気で目指す「リーグ優勝」頭脳派チームは再び快進撃を起こせるか?
東京大と京都大の運動部は毎年夏場に「双青戦」という定期戦を行なっている。日本を代表する難関国立大同士のプライドをかけた戦いは野球にも及ぶ。今年は東大球場を舞台に両校の野球部が火花を散らした。
東大も京大も所属リーグでは下位に低迷しているが、野球にかける熱量は絶大だ。プロ注目選手を多数擁するライバル校を時に慌てさせ、独特な存在感を放っている。
だが、今年の双青戦は意外なワンサイドゲームになった。
京大打線が4本塁打と爆発し、15対2と大勝。しかも、京大は遊撃手の細見宙生(ひろき/2年・天王寺)、主砲の中井壮樹(外野手/2年・長田)と主力野手2名を関西学生野球連盟1・2年生選抜の招集で欠いて、ベストメンバーではなかった。
選手たちにアドバイスを送る京都大・近田怜王監督
それでも、試合後の近田怜王(れお)監督からは景気のいい言葉は聞けなかった。
「東大さんは明日から企業チームとのオープン戦が入っていて、投手を少し温存されていたようですから。ホームランが出たのも、グラウンドが狭いという事情を考えないといけません。それに、ウチの野球は上からドンと構える戦い方ではなく、相手に少しでもスキを見せたら足をすくわれる。キャンプから振り込んできた成果が出たからといって、おごることなくやっていくだけです」
近田監督と歩調を合わせるように、試合後に満足そうな表情を浮かべる選手はいなかった。彼らが目指すものは「リーグ優勝」なのだ。
【昨年春は優勝争いを演出】昨年春、京大は本気でリーグ制覇を狙える位置にいた。関西大、立命館大と優勝候補から勝ち点を奪取。近畿大からも1勝を挙げた。
原動力になったのは、当時3年生だったエース右腕・水江日々生(ひびき/洛星)ら投手陣である。その投手陣の起用権限を近田監督から委任されていたのが、学生コーチの三原大知(灘/現・阪神アナリスト)。三原は野球経験が皆無で、中学・高校時代は生物研究部に所属した変わり種。MLBのデータサイトに入り浸り、投手のアナライズをするのが趣味という「野球ヲタ」だった。三原のアナライズをひとつのきっかけとして、京大の投手陣はめきめきと力をつけていた。
学生球界最高峰の頭脳派軍団は異色の人材まで戦力として取り込み、群雄割拠の関西学生リーグで侮れないチームになっている。三原と近田監督を取り巻く物語は、拙著『野球ヲタ、投手コーチになる。元プロ監督と元生物部学生コーチの京大野球部革命』(KADOKAWA)をご一読いただけたら幸いだ。
今年の双青戦で先発を任されたのは、4年生右腕の染川航大(郡山)だった。
染川は身長188センチの大型右腕で、最速146キロと京大屈指のスピードを誇る。東大打線に対峙した染川は6回を投げ、2失点と先発投手の役割を果たしている。
「これまでは変化球のコントロールが課題で、ストレートに絞られて打たれる悪循環だったんです。変化球でカウントをとれるようになって、よくなってきたと思います」
昨春のリーグ戦で染川は悔しい思いを味わっている。勝ち点2で迎えた関西学院大との1回戦。京大は残り試合で3勝を挙げれば勝ち点4となり、リーグ2位に浮上する可能性を残していた。
関西学院大との1回戦も水江が好投し、京大が3対0と優位に試合を進めていた。だが、7回に水江をリリーフした染川が高波寛生(現・大阪ガス)にタイムリー三塁打を打たれ、逆転負けを喫する。この試合を落とした京大は残り試合も全敗し、リーグ5位に終わっている。
染川は関西学院大戦について、「正直に言って(交代時に)自分じゃないだろうと思ってしまって、びっくりして気持ちの準備ができないままマウンドに立ってしまいました」と悔いを残していた。最上級生になり、今年にかける思いはなおさら強い。
「悔しい思いはいっぱいしてきましたから。リーグ戦で結果を残さないと、また『京大は水江だけ』って言われるんで。水江が投げていない試合でも、勝てるところを見せたいですね」
【学生最後のシーズンにかける思い】学生生活最後のシーズンにかける思いは、ほかの4年生も同じだ。
小田雅貴(茨木)は昨春のリーグ戦で二塁手のベストナインに輝いたほどの実力者。だが、昨秋以降は故障や打撃不振に苦しみ、不本意な結果が続いている。そんな小田も東大戦では2安打を放ち、復調をアピールした。
「もう野球はこれが最後なんで、できることを全部やって、活躍して、チームのリーグ優勝につながればいいかなと思います」
工学部電気電子工学科の小田は、部内で「野球と実験しかしてない」と評判が立つほど文武両道を貫いてきた。この夏場は大学院に進むための試験勉強にも追われていた。
「かしこい人は本当にすごいんで......。研究室にいて『かなわないな』と感じてしまいます。でも、院試もようやく終わったんで、あとは野球を頑張ります」
大川琳久(りく/済々黌)は昨秋に外野のレギュラーに定着すると、最終戦の近畿大戦で逆転サヨナラ満塁本塁打の離れ業をやってのけた。昨秋はベストナイン受賞、今春も打率3割台とチームの中心選手として君臨している。
この日の東大戦では右打席で泳ぎながら放ったライナーが、ライトフェンスを越える本塁打になった。
「あれは球場が狭かったから入ってくれただけで、近田さんからも『ライトフライや』って言われました。春も打てたのは自信になりましたけど、4回生(4年生)は打てなくて、下回生(下級生)に重責を背負わせてしまっていました。最後は4回生が意地を出して、下回生が気楽に打てるようにしたいですね」
今春のリーグ戦、京大は関西大との開幕戦を細見の逆転サヨナラ本塁打で制したあとは10連敗。最下位に沈んだ。
それでも主将であり、エースでもある水江は「優勝という目標はぶらさず、地力をつけることをテーマにやってきました」と胸を張る。
「確実に伸びていると思います。春よりも野球がうまい、強い京大になってきています」
秋に向けて役者は揃いつつある。リーグ優勝を本気で目指し、京大野球部は9月2日の秋季リーグ開幕戦(近畿大戦)に臨む。