Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由

浦和レッズ アレクサンダー・ショルツ インタビュー 中編

来日して2年が経った、浦和レッズのアレクサンダー・ショルツをインタビュー。実は子どものころからの読書好きで、多くの日本の文学作品も読んでいるという。そんな彼に日本という国はどう映っているのか?

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アレクサンダー・ショルツは大の読書好き。多くの日本の文学作品も読んでいるという

【子どものころから本が大好き】

「漱石、太宰、大江、そして川端。私のお気に入りは川端だ。彼の美しいスタイルが好きなんだ」

 そう話すのは浦和レッズの守備の要、アレクサンダー・ショルツだ。そう、ドイツ人の両親のもとデンマークで生まれたプロフットボーラーが、日本の文学について語っているのだ。

 当メディアでJリーグの外国籍選手にインタビューするこのシリーズは、最初のジェイ(当時北海道コンサドーレ札幌。現在は引退)から数えて、もうすぐ5年目に突入する。その間、10カ国出身の12人に様々な話を聞いてきたが、日本の文学がトピックになったのは、これが初めてだ。キャプテン翼などの漫画やアニメなら前例はあるが、川端康成が「フェイバリット」と語る外国人プロアスリートには、会ったことがない。

 でも小さな頃から自分の考えを持ち、自ら思考したうえで行動し、欧州以外の文化に興味を抱き、インドなどに一人旅したこともあるショルツなら、それも頷ける。

「子どもの頃から本が大好きなんだ。もともとはドイツやフランスの小説を読んでいたんだけど、ある時から、自分が訪れた場所で書かれたものを読むようになった。例えば、休暇でスペインやポルトガルに遊びに行ったとしたら、そうした国の物語を読んできたんだ。

 その習慣は日本に来てからも続いている。そしてこの国には、世界最古のひとつと言えるほど長い歴史を持つ文学があり、それがとても面白いことを知った。日本にはすばらしい物語が、本当にたくさんある。

 ここに住み始めて2年ほどが過ぎ、多くの日本の文学作品を読んできた今、私の好みも明確になってきている。それは現代の作品ではなく、少し前の時代の作家が書いたものだ。今の小説はモチーフがよくわからないものが多いけど、漱石や川端などの時代の作品はシンプルに美しいし、意味もよく理解できる。もちろん個人的な好みだけどね」

【日本のすばらしいことのひとつは忍耐力だと思う】

 幼少期からの夢は「自分の書店を開くこと」というほど、ショルツは本に親しんできた。時代の流れによって、今になってそれを実行に移すには「一考の余地がありそうだ」と自身も認めているが、彼は読書によってかけがえのないものを得てきたと明かす。

「多くの書物を開き、物語に没入し、知らなかった事柄に出会い、心が動く。そうした読書体験を重ねると、自然と固定観念がなくなっていき、開かれた人間になっていくと思う。自分はもともと、何事にも中立的な立場を取るようにしているから、そんなパーソナリティによるところもあるかもしれない。もちろん私にも好みはあるけど、最初に持つのは観察者の視点だ。これは本を読んできたことで、身についたものだと思う」

 そんな観察眼を持つショルツに、日本はどう映っているのだろうか。

「忍耐力。これはこの国のもっともすばらしい事柄のひとつだと思う。欧州をはじめ、日本以外の国では、何か物事を進める時に、それぞれが自分の考えを強く主張して、言い争いになったりすることも多いけど、日本でそんなことは滅多に起きない。それをどう感じるかはひとそれぞれだけど、私には好ましいことだ。自分も常々、他者に敬意を払うようにしているからね。

 生活面では、すべてのクオリティが高い。とくにこの国で受けられるサービスは、世界一だ。他の国では、絶対に味わえないものだよ。それから人々は概して、自らの職業に誇りを持っているように見える。プライドを抱きながら仕事に従事することの意義は大きいと思う。加えて、労働を尊ぶ文化も素敵だ。

 ただ、日本人は少し働き過ぎているとも感じるよ。この国ではお盆と正月の一週間ほどの休暇が、最長なんだよね? それはあまりにも少なすぎる。もっと長い休暇を取って、人生を楽しまないと」

【今は寿司が大好き】

 ショルツ自身は日本で、もっと自分を楽しめるようになったという。

「自分は今、30歳だけど、これまではどちらかというと真面目なタイプだった。でも少しずつ、人生は大いに楽しむべきだと思うようになった。そして日本には真面目な人が多いので、私は逆によりリラックスできるようになったような気がするよ」

 また現在の日本が、外国人にとって以前より暮らしやすくなったこともあるようだ。かつては物価の高い国として知られた日本も、今や他の先進国や富裕国と比べて、生活にかかるコストはかなり安くなっている。なかでもショルツの出身地であるデンマークのコペンハーゲンは、物価指数でトップに来ることもある都市だ。

「デンマークなどと比べると、日本はとくに外食が安いよね。日本のレストランのクオリティの高さと値段の安さには驚いたよ。逆にスーパーマーケットでは、(野菜や果物などの)値段が高いから、外食することが多い。私のお気に入りは、餃子、天ぷら、うどん、そばと移り変わってきて、今は寿司が大好きだ。ウニ、アワビ、そしてもちろんトロも」

 自身の性格に合う国での生活とヘルシーな食事──。ショルツの好パフォーマンスを支える要素だ。そして浦和の最終ラインに不可欠な守備者は、自身の独特のフットボール観についても話を続けた。

後編「ショルツが語る日本サッカーの課題」へつづく>>

アレクサンダー・ショルツ 
Alexander Scholz/1992年10月24日生まれ。デンマーク・コペンハーゲン出身。浦和レッズ所属のDF。身長189cm、体重84kg。母国のヴェイレBKでキャリアをスタート。アイスランドのストヤルナンを経て、2012年からベルギーのスポルティング・ロケレン、スタンダール・リエージュ、クラブ・ブルッヘでプレーした。2018年からはデンマークに戻り、FCミッティランで3シーズンプレー。この間CL出場やデンマークリーグのMVPを獲得。2021年シーズンの途中から浦和へ加入し、プレーしている。