日本では6割の夫婦が陥るといわれるセックスレス。「男性にとって、行為のうえでやっぱり見た目が大事なのでしょうか」と語るのは聡美さん(仮名・50代)です。抗がん剤治療によって長期入院を強いられ、夫との溝は深まるばかり。だれにも話せなかった辛い気持ちを理解してくれたのは、身近なママ友でした。

がん治療で心が折れた妻。「自信がもてなくて…」

1年前、50代でおなかが痛くて病院へ行ったら、大腸がんと診断された聡美さん。長期入院の最中に夫が風俗通いをしていました。

●懐かしいママ友からLINEで連絡がきた

「幸い、直近で使った抗がん剤がよく効いて、快方に向かっています」と語る聡美さん。毛髪が抜け落ち、初めて会ったときに比べると、体重もだいぶ落ちてしまったのか、かなりやせた印象でした。

「この間スタバでお茶を飲んでいたら、遠くに以前よく一緒に出かけていたママ友を見つけたんです。仲がよかったし、会いたくないわけじゃないのですが、この姿をみたらびっくりさせちゃうかなと思って、思わず目をそらしてしまいました」と聡美さん。

そのときは複雑な感情が入り混じり、どうしていいのかわからないままやり過ごしてしまったそうなのですが、そのあとすぐにそのママ友のAさんからLINEで連絡がきたといいます。

「うれしかったですね。お互い、若い頃は子育てのこととか夫の浮気の話とか、本当にいろんな愚痴をおもしろおかしくおしゃべりしながら笑いあった戦友のような存在ではあるけれど、私だけ見た目もこんなに変わってしまって…。でも、子どもから私の病気のことを聞いていたらしくて。遠くで心配しながら応援してくれていたこと知り、『会いたいと思っていた』『会っておしゃべりをしたい』と伝えてくれたことに胸がいっぱいになりました」

●夫にも親にも見せられなかった涙

抗がん剤によって見た目が変わってしまったことで「もう自信がなくなってしまった」という聡美さんでしたが、それを表に出すことはなかなかできなかったと言います。

「LINEをくれたママ友のAさんと久しぶりに会ったんです。以前も連絡をくれていたんですが、スルーしちゃったりしていて。『なかなかLINEのお返事もできなくってごめんね』って謝ったら『もし私も逆の立場だったら、人に会いたくなくなっちゃうと思う。じつは、私の母親もガンで同じような状況だったから、すごく気持ちわかるよ。親友なんだから、私に変な気を使わないで』って言われて、ハッとしました」

聡美さん自身はAさんのことをずっと仲のいい“ママ友”だと思っていたけれど、Aさんは聡美さんを“ママ”という立場は関係なく“親友”だと思っていると言ってくれたそう。

「Aさんは私にどう思われていようと、『私は聡美さんの親友だから』と。子育てが終わってからも、今までおしゃべりの話題といえば家族のことばかりだったけれど、『つらいときはなんでも話して。しゃべるだけでもストレスは発散できるから、そういうときは私をどんどん使って』とまで言ってくださって。そんなに人づきあいが得意なほうではなかったので、まさか50代になってからこんななんでも話せる人ができていたことに気がついて、ホッとした気持ちになりました」

聡美さんは、病気のことだけでなく、夫との関係に悩んでいることを全部話したと言います。

「そしたら『男はずるいよね』って、Aさんも一緒に泣いてくれました。もともと夫が女にだらしない話をしたことがあったので、病気になったと聞いたときからAさんはそこをいちばん心配してくれていました。1人でずっと抱え込んでいたので、本当に救われました」

ガンを告知されてから、人前で涙を流したのはこのときが初めて。夫の前でも気持ちの糸を張りつめさせて、ずっとこらえていたものがあふれてしまったのでしょう。

●経験した者にしかわからない辛さがある

Aさんは、じつのお母さんを大腸がんで亡くされたという悲しい経験をされていました。そのときの主治医に遺伝性の大腸がんについて警告されいます。

「うちの母は50歳のときにガンになったんだけど、先生から『娘のあなたもガンのリスクが高まるかもしれないので、今から十分予防してくださいね。人間ドックでもなんでも、2年に1回くらいは大腸内視鏡検査を受けて』って言われてさ。だから、けっこう若いときからもしも自分がガンになったら…って考えることが多かったんだ。
夫婦関係のこともいろいろ考えたよ。うちの夫の場合は、私が入院とかしたら私を悲しませないように配慮もできると思うけれど、やっぱりレスにはなるだろうな」とAさん。

2人で話したのは、女の人は、見た目よりも愛情があれば行為ができるけれど、男の人は無理だろうねということ。Aさんもお母様の闘病中のときのことを振り返りながら、ガンという病気は、配偶者側の負担やストレスも大きいという話でした。

ガンで夫婦の絆が深まったという美談は広まりやすいけれど、逆に別れましたというパターンは、みんな積極的に言わないから知らないだけで、じつは数は多いのかもしれないと感じたと言います。

「うちの場合は、話し合いをしたわけじゃないので実際のところはわかりませんが、夫はビジュアルから入るのかなと思うので、今の状況でレスを解消するのは難しいと思っています。そこの価値観が合わない夫とこのまま添い遂げられるのかという疑問が沸いています。長年連れ添っていると、尊敬や感謝、いろんなものが絡み合って、私はもう体の関係がなくてもいいなと思うけれど、夫があからさまにそういうお店に行くのはやっぱりつらいです」

●気持ちがあったとしても、見た目が変わるとできないのか?

「死」が脳裏をリアルによぎって以降、聡美さんは夫との関係に終止符を打つときがきたのではないかと感じているそう。すでに投薬は終わっているので、時間が経てば髪も生えてくるし、しっかり食べて早く以前のような健康な体を取り戻したいと話します。

「元に戻りたいのは、夫のためではなく自分のため。夫が私の内面をまったく見ていないわけじゃないとはわかっているのですが、こういう状況でレスになり、風俗通いをしたという事実は一生消えません。許す許さないというより、自分の人生にとって夫はどういう存在なのか考えざるを得なくなりました。
ガンを患ったことは運が悪かったけれど、一生つき合える親友に出会えたことは、私にとって幸運なことだったと信じて、前向きに生きていこうと思っています」

気持ちがあったとしても、見た目が変わるとできないのか? これはレスに悩む夫婦にとって永遠の課題なのかもしれません。