フランス哲学者が松川るい・今井絵理子らに苦笑…「パンがなければお菓子をお食べ」を体現した日本の特権階級の愚鈍さ

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 フランス哲学者の福田肇氏は、「フランス研修に赴いた松川るい、今井絵理子の両氏は、まるでフランス革命でギロチン処刑されたマリーアントワネットのように公人としての自覚がない」と一喝する--。

松川るい、今井絵理子に対する茂木健一郎、三浦瑠麗の見解

 あなたは、地方在住のしがないサラリーマンである。朝から晩まで身を粉にして働いても給料は月に手取りで20万円もいかない。あなたには妻がいる。あなたは、妻から、その薄給のほとんどを「生活費」の名目で妻名義の口座に入れるよう命じられている。あなたの手元に残るのは、月3万円の昼食代だけ。そこで、少しでもこのお小遣いを節約しようと、あなたのランチは、いつも会社近くの立ち食いそば屋の380円のかけそばか、コンビニのパン1個とジュースだ。

 他方あなたの妻は、多少のパート収入はある。ある日、彼女はあなたに「東京で資産運用のセミナーがあるから行ってくる。今後の家計の参考にもなるから」と告げる。あなたの妻は、往復の運賃2万円を使い、1時間のセミナーに出席。その後、ブランドもののショッピングを楽しみ、銀座で3万円のディナーを食べ、スカイツリーの下でポーズを取った写真を、SNSにアップする。

 あなたは、その写真を見つけ、「オレが毎日あくせく働いて、大変な節約生活を強いられているというのに、そのぜいたくはなんだ !?」と妻を詰問する。すると、妻は、「セミナーは有意義だった。運賃もディナーも買い物も、私の収入から捻出したのよ。もちろん、プールしている生活費からちょっとはもらったけど、どっちにしても今後の家計のためになる勉強してきたんだからいいんじゃない?」と悪びれず返答する。

 さて、この妻の行動を不適切だとして責めるあなたは、「写真一枚で目くじらを立てて」「底の浅い義憤」をぶつける「余裕なさすぎ」な男なのか? 妻のセミナー参加とその後のショッピング、ディナーは、「仕事をいきいきと楽しんでやって」いるほほえましい行動なのか? 前者は脳科学者茂木健一郎氏の見解、後者は国際政治学者三浦瑠麗氏のそれだ。

パリ研修自体は悪いことではないのだが

 松川るい、今井絵理子両議員を筆頭に、自民党女性局の約40名のメンバーが、7月24日(月)~28日(金)にかけて3泊5日のフランス〝研修〟旅行に参加した。これが、多くの国民の非難にさらされている。

 もちろん、国会議員たちが海外を視察し、見識を深めるのは悪いことではない。実際に、自民党女性局のメンバーたちが、パリ滞在中に〝研修〟らしきいくつかの活動に従事していることは確認できる。それ自体は充実した有意義なものだったかもしれない。また、研修の合間の自由時間に、おみやげを買ったり名所を訪れたりすることじたいは、とがめられることでもない。

今回のフランス研修がはらんでいる問題…そもそも研修なのか

 しかし、彼女たちのフランス〝研修〟旅行は、整理すると三つの問題をはらんでいる。

 第一に、彼女たちの今回の旅行が〝研修〟旅行と呼称するに値するものであるかどうかという問題である。

 7月25日(火)~7月27日(木)の三日間の滞在のなかで、いわゆる〝研修〟といえるものは、次の6項目(保育園視察希望者は7項目)であり、実働6時間(同希望者は7時間)である。

7月25日(火)

10:00~11:00 国教育・青少年省課長補佐レミー・ギヨ (Rémi Guyot, Adjoint à la cheffe du bureau des ecoles chez Ministère de l’Éducation nationale et de la Jeunesse)との会見(在仏日本大使館) 13:00~14:00 国民議会議員 (文化・教育委員会委員)ベアトリス・ピロン (Béatrice Piron, Députée des Yvelines à l’Assemblée Nationale)および国民議会議員(国家防衛・武力委員会委員)アンヌ・ジュヌテ (Anne Genetet, Député à l’Assemblée Nationale) との会見(ブルボン宮殿) 14 :30-15 :30 上院(元老院)議員ナデージュ・アヴェ(Nadège Havet, Sénatrice du Finistère)との会見(元老院) 15 :30-16 :30 元老院の施設見学

7月26日(水)

09 :00-10 :00  (希望者のみ)保育園視察 14 :40-15 :40  家族手当国立金庫国際関係顧問ローラン・オルタルダ (Laurent Ortalda, Conseiller en relations internationales chez CNAF)講演(在仏日本大使館) 16 :00-17 :00  高崎順子(パリ在住ジャーナリスト)講演(在仏日本大使館)

 自民党女性局のメンバーは、7月24日(月)夕方にパリに到着して27日(木)にたっている。宿泊先はEvergreen Laurel Hotel(4つ星)。到着日と出発日は、さすがにあわただしすぎて研修を入れるのは無理だろう。〝4つ星〟ホテルというと日本人の感覚からして豪奢な感じを受けるかもしれないが、仮に1部屋1人で4泊した場合、Evergreen Laurel Hotelではこの時期の宿泊料が380ユーロ程度(日本円にして約60,400円)であり、特別にぜいたくをしているという印象は受けない。セキュリティ面や40名という宿泊人数を顧慮しても、このクラスのホテルの利用は妥当であると思われる。

1日目は遊びに6時間、研修4時間。2日目も遊びに6時間、研修2時間…やはり遊びがメインじゃないのか

 では、実質2日間で6~7時間という〝研修〟時間をどう評価するか。パリ滞在中のそれ以外のイベントに充てられた時間と対比してみよう。

 1日目。11:45-13:00昼食(1時間15分)、17:00-19:30観光(2時間30分)、20:30-23:00セーヌ川ディナー・クルーズ(2時間30分)、総計6時間15分。それに対して〝研修〟時間の総計4時間00分。遊興と〝研修〟の比率は訳3対2である。

 2日目。09:30-13:00自由行動(3時間30分)、18:00-19:00アペリティフ(食前酒)の集い(1時間00分)、19:00-21:00在仏日本大使との夕食会(2時間00分)、総計6時間30分。それに対して〝研修〟時間の総計2時間00分(保育園視察希望者は3時間00分)。遊興と〝研修〟の比率は約3対1である(保育園視察希望者の場合、約2対1)。2日目のアペリティフパーティと夕食会の3時間を〝公務に準じる〟とみなしたとしても、なお遊興に充てられた時間のほうが多い。

 はたして、遊興の合間に申し訳程度に〝研修〟が組み込まれた日程で構成されている旅行を、〝研修〟旅行と呼びうるのか。食事を取る時間を確保することは必要だ。しかし、あえてセーヌ川をクルーズしながら1人1万4000円~2万円のディナーを取らなければならないのか? 〝家計のために資産運用を学ぶ〟名目で1時間のセミナーを受けに上京し、その何倍もの滞在時間を観光とショッピングと豪華なディナーに費やす妻に対して、「有意義な勉強をしてきたね。ご苦労さま!」と労をねぎらう、毎日かけそばをすする夫がいても決して悪くはないと思う。かといって、反対に、そんな妻の行動に「目くじらをたてる」男の言い分を「余裕なさすぎ」と一蹴することもまた、決してできない。

研修旅行の経費は国民の血税…松川るい、今井絵理子はそれをわかっているのだろうか

 第二に、この〝研修〟旅行の経費の出所はどこか、という問題である。松川るいは、「費用は党費と各参加者の自腹で捻出しています」(2023年7月31日付Twitter(X))と釈明。だから問題はないというわけだ。

 「自腹」というのは自己負担金20万円のことである。「党費」つまり党からの出費が残りの旅費ということになるが、そもそも党の収入の一定の部分は政党交付金で賄われている。自民党の政党交付金は、2022年度で159億8200万円であり、国民の血税がそれに充てられている。毎月3万円のこづかいで昼食代を切り詰めている夫が、「生活費」の名目で妻に預けているお金で豪遊する妻に対して、「『いきいきと楽しんでやって』くれてうれしいよ」とエールを送ってあげても、それを悪いとはいわない。しかし、反対に、夫の惨めな節約生活を尻目に夫の金の一部を充てて享楽を満喫する妻を責める夫を、ねたみ深いケツの穴の小さい男として断罪することもまた、決してできない。

松川るい、今井絵理子は公人としての自覚、国民への共感が致命的に欠如している

 問題の第三は、自民党女性局のメンバー、とりわけ松川るいや今井絵理子の〝公人〟としての自覚のなさ、および生活苦にあえぐ多くの国民に対するシンパシーの致命的な欠如である。物価高、少ない年金、増税などが少なくない数の国民を困窮と絶望に陥れている状況を傍観し、エッフェル塔を背景に能天気なポーズを写真に撮ってSNSに投稿する〝観光気分〟の女性国会議員たちの、みずからの特権性に対するこっけいなまでの無自覚さ。あるいはみずからが支援すべき社会的弱者に対する驚くほどの無神経さ。ワーキングプアの夫の涙ぐましい生活事情に対する配慮を欠落させたまま、東京での豪遊の模様をSNSにアップする妻の姿勢は、モラルの面で、もっといえば〝人として〟問題がないといえるのだろうか。

 松川るいは、やはりTwitter(X)上で、こうコメントしている。「今回、フランスを訪問してフランス文化もパリの街も素晴らしかったという感想を持ち、皆様にそれを伝えたいと思い投稿しました」(2023年7月31日付)。

 そうか。「フランスの文化もパリの街も素晴らしかった」のだな? それでは、国民が政治権力を監視し批判することが正当な権利として周知され、しっかりと行使されている「フランスの文化」こそ、〝国会議員〟という要職にあるあなたから日本国民に伝えてほしい。

 あなたが所属しているような極右団体には、それがいかに台頭してこようと、決して政治権力をわたさない、自由と平等と博愛の精神を死守する「フランスの文化」をこそ、伝えてほしい。あなたがその立場で伝える使命をもっているものは、観光名所のモニュメントの前ではしゃぐあなたのまぬけなポーズでは決してないはずだ。

 18世紀終わり、フランス革命の折、「我々に日々のパンを!」のスローガンのもとに結集する飢えた民衆勢力の抗議運動を見下ろしながら、王妃マリー・アントワネットは悠然とこうつぶやいたと言われている。

「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」

 特権階級に属する人物の悪意のない無邪気さは、その致命的な愚鈍さをしばしば露呈してしまう。