ウェブサイトなどのさまざまなデジタル情報を記録・保存してインターネット上に公開する非営利団体・インターネットアーカイブは、2020年3月にデジタル書籍を図書館のように借りて読むことができる電子図書館「National Emergency Library(国立緊急図書館)」を発表しました。この国立緊急図書館に対して大手出版社が「インターネットアーカイブによる国立緊急図書館は著作権侵害」と訴訟を起こし、ニューヨークの連邦地方裁判所が出版社側の主張を認めました。これを受けて、インターネットアーカイブ側は控訴する姿勢をみせています。

Our Fight is Far From Over | Internet Archive Blogs

https://blog.archive.org/2023/08/11/our-fight-is-far-from-over/

Publishers, Internet Archive agree to streamline digital book-lending case | Reuters

https://www.reuters.com/legal/litigation/publishers-internet-archive-agree-streamline-digital-book-lending-case-2023-08-11/

Internet Archive’s Copyright Battle with Publishers Leads to Lending Restrictions * TorrentFreak

https://torrentfreak.com/internet-archives-copyright-battle-with-publishers-leads-to-lending-restrictions-230813/

国立緊急図書館で公開されているおよそ140万冊には、著作権が失効した作品のほか、「ハリー・ポッター」シリーズなど出版中の作品も含まれており、ユーザーは一度に最大10冊までを借りることができるというシステム。本物の図書館と同じように、貸し出された本は一度につき1ユーザーしか読むことができないようになっています。この国立緊急図書館は新型コロナウイルス感染症の流行に伴う都市封鎖を受け、自宅待機中の人々にも学習の機会を与えるために開設されました。

無料で読める140万冊の本をインターネットアーカイブが公開 - GIGAZINE



しかし、国立緊急図書館はインターネットアーカイブによって図書館として運営されていますが、出版社とライセンス契約を結んでいるわけではなく、単に物理的な本をスキャンし、独自のシステムに基づいてそのデータを貸し出すというスタイルです。そのため、大手出版社のアシェット・ブック・グループ、ペンギン・ランダムハウス、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ、ハーパーコリンズが「インターネットアーカイブの国立緊急図書館は著作権を侵害している」とニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に訴えました。また、6000人以上の作家が出版社の主張を支持しています。

「無料で約140万冊の本が読めるインターネットアーカイブの電子図書館は著作権侵害だ」と出版社が訴える - GIGAZINE



インターネットアーカイブ側は「通常の図書館と同様に図書館として本を貸し出しているだけ」と主張し、「図書館による本の貸出を犯罪化する試みである」として出版社の主張を棄却する申し立てを連邦地方裁判所に提出。さらに、2022年7月8日には電子フロンティア財団がインターネットアーカイブの申し立てを支持する概要を連邦裁判所に提出し、「インターネットアーカイブのデジタル貸出プログラムは著作権法の対象となるフェアユースの範囲内であり、デジタル世界の図書館貸出サービスは維持可能です」と主張しています。

そして、2023年3月に連邦地方裁判所のジョン・ケルトル判事は「インターネットアーカイブの電子書籍の利用は、国立緊急図書館を展開する際だけでなく、貸出図書館の幅広い利用においてもフェアユースの基準に準拠していない」と述べ、インターネットアーカイブの国立緊急図書館は著作権を侵害しているという出版社の主張を認める略式判決を下しました。この判決にはインターネットアーカイブ側が権利者の許可なく「対象書籍」のデジタルコピーを複製または配布することを事実上禁じる永久差し止め命令も含まれています。

インターネットアーカイブが電子書籍の著作権を巡る大手出版社との著作権訴訟の一審で敗訴 - GIGAZINE



特にインターネットアーカイブで問題視されているのが、国立緊急図書館やその他出版物の公開で、新しい会員を集めて寄付を募っている部分です。インターネットアーカイブの寄付プログラムは非営利的とは言えず、商業的行為であるというのが連邦地方裁判所の判断です。

また、連邦地方裁判所は原告と被告の双方に、インターネットアーカイブ独自の貸出プログラムをどのように変更するかを話し合うよう指示しました。2023年8月11日にこの合意案が裁判所に提出されました。これにより、インターネットアーカイブ側は控訴を行えるようになります。



海賊版に詳しいニュースサイト・TorrentFreakは、判決に含まれる「対象書籍」の定義がどうなるのかについて、インターネットアーカイブ側と出版社側で意見が一致せず、第2審ではこの定義が論点の1つになるだろうと指摘しています。

インターネットアーカイブは公式ブログの中で「私たちの戦いはまだ終わっていません。私たちは、図書館が一時的に許可されたアクセスの範囲外でデジタル書籍を所有・保存・貸出できるようにすべきだという信念を堅く持ち続けています」と述べ、控訴する予定であることを明らかにしました。

インターネットアーカイブの創設者であるブリュースター・ケール氏は「今日、図書の持ち込み禁止から資金提供の停止、図書館に対する訴訟のような過度に熱心な訴訟に至るまで、図書館はかつてない規模の攻撃にさらされています。これらの努力は、我々の民主主義の重要な時期に、一般市民が真実にアクセスすることを遮断しています。私たちは強力な図書館を持たなければならず、だからこそ控訴するのです」とコメントしました。