大混戦のJリーグ優勝争い 頂点を狙う7チームの強みと課題を水沼貴史が解説
後半戦に入っているJリーグは、大混戦の優勝争いになってきている。8〜9月と暑いなかでの戦いが続き、その動向から目が離せない。そのなかでJ1の今後の展望を水沼貴史氏に解説してもらった。
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J1上位の攻撃を引っ張るキャスパー・ユンカー(左・名古屋)、大迫勇也(中・神戸)、アンデルソン・ロペス(右・横浜FM)
7月の中断期間が明けてJ1の後半戦が本格的にスタートした。ここまでのリーグを振り返ると、ヴィッセル神戸の躍進は一番の驚きだろう。首位に値する強度の高いサッカーをしているし、大迫勇也や武藤嘉紀など、代表クラスの中心選手がしっかりと活躍していることが違いを生んでいる。
連覇を目指している横浜F・マリノスは、第22節を終えて神戸と勝ち点44で並び、地力の強さを見せてはいるけれど、ケガ人もあってここへきてやや失速気味だ。名古屋グランパスは長谷川健太監督が2年目はどのクラブでも結果を出しているように、彼らしくチームをよくまとめあげて、神戸、横浜FMに食らいついている。
浦和レッズもマチェイ・スコルジャ監督になって守備が安定して簡単には負けないし、鹿島アントラーズも趣向を変えながら、ようやく昔のようなソリッドで強い鹿島の形を取り戻しつつある。上位陣が拮抗していて、今年のJ1も非常に面白いなと感じる前半戦だったと思う。
その一方で、優勝争いという視点で考えると、はっきりと"本命"と言えるクラブはない。優勝の可能性がありそうなラインで考えると、ポイント的にはかなり厳しいけれど、現在7位の川崎フロンターレまでだろう。
川崎の残り12節で首位と12ポイント差は、首の皮一枚つながっている位置だと言える。同ポイントでアビスパ福岡も並んではいるが、川崎は調子さえ取り戻せば何連勝も狙えるだけの力と経験があるので、川崎がギリギリと見ている。
【ヴィッセル神戸の初優勝へのポイントは?】改めて上位陣を見ていくと、神戸は第22節で横浜FCに敗れたものの、大崩れはしないだろう。大迫、武藤のコンディションは相変わらずいいし、汰木康也も個に走らず、周りを生かしながらやれている。中盤の中央では山口蛍と齋藤未月の2人が非常に安定していて、崩れる気はしない。
それに加えて、菊池流帆など最終ラインにケガ人が出てもそこを埋める選手たちが力を示していて、簡単には崩れない強さの要因になっている。とくに本多勇喜のパフォーマンスは大きく評価できる。
あとは終盤になるにつれて優勝争いのプレッシャーがかかってきた時に、引き分けなどがどれだけ出てくるか。そこで勝ち点の取りこぼしをどれだけ少なくできるかが、初優勝という大きな壁を越えるためのポイントになってくるだろう。
連覇を狙う横浜FMは、優勝争いの経験値は神戸よりもあるけれど、相手に対策をだいぶ練られていて、今はそこを打破する形を模索している感が否めない。前線はアンデルソン・ロペス、エウベル、ヤン・マテウスの3人で固めているが、やや個に走り、以前のようなコンビネーションで崩す形が少ない印象を持っている。
暑さによって前からのプレスがかかりづらくなっているので、どうしても個に頼らざるを得ない側面はあると思う。だからこそ、個を止められた時に崩しきれず、やや失速気味という状況につながっている。爆発したら相変わらず強力な前線なだけに、そこをどう改善してコンビネーションの形を作っていくかが、後半戦はカギになってくるだろう。
【補強後の様子に注目の名古屋、浦和】名古屋はマテウス・カストロがサウジアラビアのアル・タアーウンへ移籍し、その代わりにサンフレッチェ広島から森島司が電撃的に加入した。このキャラクターの変更は、少なからずチームへの影響があると思う。
マテウスはスピードと突破力が強みだったが、森島はパスの出し手になれるタイプだ。キャスパー・ユンカーは動き出しがいいので、森島のパス能力とは非常に相性がいいはず。さらに、前田直輝の復帰も大きい。カウンターを警戒されて相手にブロックを作られ攻撃が停滞した時に、前田のドリブルでの突破力は打開の糸口になる。
長谷川監督は今の名古屋の良さを消された時に、どうやってそれを上回るかを考えているはずで、そのオプションとして森島の司令塔としての能力と、前田のドリブルは必要と考えたのだろう。
浦和は安部裕葵や中島翔哉という前の選手を獲得したけれど、彼らがどのような形でチームに入っていくのか。それに伴って、前線のほかの選手にどのような影響が出るのか気になっている。今季は安居海渡がトップ下で台頭しているが、中島が入るとしたらおそらくトップ下だろう。
その場合、安居はボランチに下がる選択肢もある。伊藤敦樹とは流通経済大で一緒にプレーしていたので、信頼関係のある2人のコンビは楽しみだ。安居はうまいし、献身性もあるので、個人的に非常に注目している選手の一人だ。
ほかにも小泉佳穂、関根貴大、早川隼平、大久保智明と選手が充実しているなかに、安倍、中島をどう組み込んでいくのか。いずれにしても浦和は得点数の少なさが喫緊の課題で、点が取れる中島は大きい存在になるかもしれない。それとホセ・カンテと相性の良い組み合わせをいかにして見つけるかだ。守備は抜群なだけにそこがポイントになるだろう。
【強度の高い鹿島が戻ってきている】鹿島がここに来て非常に調子がよく、チームのクオリティが上がっている。鈴木優磨、垣田裕暉の2トップにボールが収まった時の2列目のサポートがとにかく素早く、それが攻撃の迫力につながっている。
今は後方からのビルドアップの質を上げている段階。植田直通と関川郁万は決してそれが得意なタイプではないけれど、できるようになれば相手は前からプレスをかけざるを得ない。そうなると、そこをひっくり返す鈴木・垣田へのロングボールがより活きてくることになる。むしろそこをより活かすためにビルドアップの向上に取り組んでいるのかもしれない。
さらにセットプレーの脅威は、今のJリーグでは一番だろう。鈴木、植田、関川がエリア内に並んだ時の迫力は凄まじく、そこに樋口雄太の高いキック精度がある。第22節の北海道コンサドーレ札幌戦で、相手2人に体を当てられながらも豪快に決めた植田のゴールは強烈だった。冒頭でも述べたが、強い時代の強度の高い鹿島らしいチームを取り戻しつつある。
セレッソ大阪は奥埜博亮の離脱は非常に痛手。清武弘嗣が手術をしたというのも心配だ。しかし、チームはまとまりがあり、崩れるようなチームではない。加藤陸次樹が広島へ移籍して、藤枝MYFCから渡邉りょうを補強したことで、得点の期待値は上がると思う。
今季のC大阪は勝っても負けても1点差ゲームが多く、どれだけ負けを引き分けに、引き分けを勝ちにできるかが順位を大きく左右する。そういった意味で渡邉にかかる期待は大きい。
【暑い8〜9月をどう乗りきるかも大切】川崎はこれまでのシーズンを考えると、これほど苦戦するとは思わなかった人も多いだろう。ケガ人も多く、試合に出る選手の入れ替わりが多いので、我慢の年になっている。ただ、力のある選手は揃っているので、あとはどう爆発するかだけだと思う。その勢いをどう作り出すか。
谷口彰悟の移籍から始まり、今年はとにかく変化が多かった。そのなかで鬼木達監督も試行錯誤をしながらここまでやってきている。山田新や宮代大聖、高井幸大など、若い選手たちは奮闘していると思う。そういった選手たちが後々に「このシーズンがあったから」と言えるような年にできるか。
それだけではなく、終盤にその経験を勢いに変えられるか。なにが起爆剤になるかはわからないが、離脱している選手が戻ってスカッドが揃った時に、本来の調子を取り戻したいところだろう。
本命がないとは最初に述べたが、混戦だから面白いと捉えることもできるし、抜け出す要素がどこにもなかなか見出せないという捉え方もできる。いずれにしても8月から9月いっぱいまでの暑い時期をどう乗りきり、10月の中断明けのラスト5節をどれだけいいポジションで迎えられるかだ。
9月後半からは横浜FMと川崎、プレーオフを勝ち上がれば浦和もACLが始まり、疲労や場合によってはケガ人が出ることもある。また、第22節で神戸が横浜FCに負けたように、なにが起こるか予測不可能なのがJリーグの魅力でもある。ここからの真夏の熱戦がどう繰り広げられるのか注目したい。
水沼貴史
みずぬま・たかし/1960年5月28日生まれ。埼玉県出身。浦和南高校、法政大学で全国優勝を経験。JSL日産自動車でも数々のタイトルを獲得し、チームの黄金時代を築いた。日本代表では国際Aマッチ32試合出場7ゴール。Jリーグスタート時は横浜マリノスで3シーズンプレー。引退後は、横浜F・マリノスのコーチや監督を務めた。現在は解説者として活躍中。