長谷川唯と長野風花、なでしこボランチコンビの信頼関係 セカンドボールを回収してゴールへ!
女子ワールドカップ決勝トーナメントで、なでしこジャパンに前回大会のラウンド16を超える勝利を呼び込んだのは"セカンドボール"の回収だった。ノルウェー戦でケアすべき最大のポイントは、彼女たちの高さ。前線は170cm以上の長身揃いで、日本が高さで競り勝つことは難しい。相手を揺さぶり、セカンドボールをどこに落とすのかを見極め、それを拾い、攻撃に転じるーーそれが日本の狙いだった。
アイコンタクトひとつで連係を取るボランチの長谷川唯と長野風花
最終ラインや最前線で競り落とされたボールを90分間回収し続けたなでしこジャパンの中心にいたのが、長谷川唯(マンチェスター・シティ)、長野風花(リバプール)のボランチコンビだ。
「話し合いをしなくてもアイコンタクトでわかる」(長谷川)というほどの連係と相性のよさ。長野がやや引いて守備的に、長谷川は高めに位置取りをして攻撃に絡むのがベストスタンスだった。
しかし、この試合ではあえてふたりとも低めの位置取りからスタート。大会に入ってからルーズボールがどこに出てくるかの予測に磨きがかかっている長野は、ノルウェー戦でも秀逸な動きを見せた。常に相手選手との間に入り、攻守でパスコースを確保しながら、ボールを捌く。
長谷川もしぶとく、鋭くプレッシングに行き、相手の出方を見定めて慎重な立ち上がりだった。しかし、相手が引いてくることがわかると長短を絡めて変化をつけるパスを前線に供給し始める。極めつけは、勝ち越しゴールにつながったペナルティエリア内への飛び出し。「意識していた」という長谷川の動き出しから一度はボールを奪われるものの、清水梨紗(ウェストハム)のゴールが生まれるプレーとなった。結果は3―1で勝利。準々決勝進出を決めた。
長野と長谷川、ふたりの代表活動が始まったのはU-17世代から。そこからともに海外移籍も経験し、ボランチとして今回の女子ワールドカップの舞台で躍動している。驚くべきは、このコンビがボランチとして初めて揃ってスタメンに名を連ねたのは今年2月のShe believes Cupだったということだ。組んだ当初からふたりの息はピッタリだった。
「後ろで(長谷川を)カバーする喜びがある」と長野が語れば、「うしろに風花がいるから思い切り前に出ていける」と答える長谷川。あっという間にピッチ上での信頼関係が構築された。今もポジションの修正はピッチ上でのひと言、ふた言で済むといい、あとはほぼアイコンタクトで完結している。
U-20世代での戦いを終えた長谷川は、すぐになでしこジャパンに定着し、当時から疑問に思ったことは明確に口にする。
一方、高いポテンシャルを見せながらも即なでしこ定着に至らなかった長野は、ピッチで感じたことをあまり率直に言葉に出さず、どちらかというと味方を鼓舞する激励に変える。
タイプが異なるからこそ、互いの短所をピタリと補い合える。そこから派生する攻守の流れはワールドカップでの一戦ごとに洗練されてきている。
ここからの戦いは中盤の守備能力がゲームの流れを左右する。対峙する相手は世界トップクラスだ。3バックへ変更して以降、"失点の多い守備"、"得点の少ない攻撃"、両方に関わるボランチとして割りきれない想いもあった。右を修正すれば、左に隙が出る。前方を修正すれば、後方に穴が開く。そんな状況から、ワールドカップに入って自分たちの戦う形がハッキリと実像を結び、自信へとつながった。
ひとつは堅守。「今は5バックで引き気味に入っていますが、前からプレスにいきすぎると少しのズレが大きなミス、失点につながっていました。それをミドルゾーンでちょっとブロックっぽくするとリスクを回避できるし、後ろ3枚のDFが強く出られたりもする。ひとつ後ろに引いたところからプレスをかけることでエラーが出ていないと思っています」(長谷川)
もうひとつは決定力。「ボールを失わないようにキープすることが多かったんですけど、そこから(スピードのある宮澤)ひなたを使う意識がある」(長谷川)ことでカウンターが面白いように決まっているのが今の日本の攻撃の形だ。
これらはすべて大会が始まってから現れるようになったプレーばかり。ここにボランチの得点能力が加われば、怖いものなしだろう。まだゴールのない長野だが、特長のひとつであるミドルシュートを貪欲に狙う姿がグループステージでも見られた。また、長谷川の得点力の高さは言うまでもなく、いまだノーゴールであることが不思議なくらいだ。
準々決勝は、ラウンド16で対戦したノルウェーと似たスタイルのスウェーデン。W杯3連覇を狙っていたアメリカを倒しての勝ち上がりで勢いづいている。東京オリンピック準々決勝で完敗した相手ではあるが、今の日本の戦い方をスウェーデンは好まないだろう。ダブルボランチを中心に2度追い、3度追いで焦らせば必ず綻びが生じる。そこを長谷川と長野がどう突いていくのかがカギとなりそうだ。