アントラーズ植田直通が「練習に臨む姿勢が変わった」紅白戦 チーム愛や先輩・昌子源、後輩・関川郁万への思いも語った
植田直通(鹿島アントラーズ)インタビュー後編
◆植田直通・前編>>「今の選手やスタッフたちは、苦しい思いをしながら戦っていると想像できた」
「鹿島のために」──。インタビュー中、植田直通から何度、この言葉を聞いただろうか。
個よりもチームという単位で物事を考えるようになった植田は、4年半に及ぶヨーロッパでのプレーを経て、さらに鹿島らしいセンターバックになって戻ってきた。プレーや背中でその何たるかを示そうとする彼の言葉にも、重さや決意はにじんでいる。
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植田直通がアントラーズの伝統について熱く語る
── ヨーロッパで過ごした4年半の経験を経て、クラブのために戦いたいと思える鹿島でのプレーにやり甲斐を感じているのではないでしょうか。
「その思いは鹿島に帰ってきて、より強く感じています。これだけ試合に負けて、自分が悔しいと思うチームはほかにないし、試合に勝って心の底からうれしいと思えるチームもほかにない。だから今は、その気持ちが増えたというよりも、自分がやらなければいけないと思っています」
── チームのために自分がやらなければいけない、と感じていることとは?
「挙げればキリがないですが、まずは練習や試合、日常生活での姿勢や規律を見せていかなければいけないと考えています。僕自身は、私生活から自分が整っていなければ、練習や試合でも力を発揮することはできないと思っているので」
── 自ら言葉にして、後輩たちに示すようになったところもあるのでしょうか?
「あまり口では言わないようにしています。でも、気になることがあったら、率先して動くようにはしていますね。また、それを見て学んでほしいとも思っています。自分もそうやって先輩たちの言葉ではなく、姿勢を見て学んできたので。
なにより、人から言われてやったことではなく、自分でそれが必要だと思って、自らやったことのほうが、自分自身で行動したと思うこともできるし、必ず周りの人たちのためにもなっている。だから自分も、そういった向上心を促していけるような人になりたい」
── 植田選手自身が、そうやって先輩たちの背中から学び、吸収して、今があるということですよね。
「先輩たちの背中について触れると、今、監督が大樹さんなので大樹さんから学んだことを話しますけど、僕がプロ1年目だった2013年、当時は選手だった大樹さんはスタメンを外れる機会が増え、練習では控え組のCBとして組む機会が多くありました。
これは後々わかったことですけど、プロの世界でもスタメンから外されて、クサってしまう選手や外に言い訳を探す選手もいます。でも、大樹さんは、そうした状況に一喜一憂することなく、常に自分の全力で練習に臨んでいた。
それで、ある時の紅白戦の前に『控え組である自分たちにとって、この紅白戦が公式戦なんだ』と言っていた。自分は大樹さんに勝たなければ、ベンチ入りすることも叶わない。その言葉を聞いて、紅白戦に臨む意識も変わりましたし、自分はまだまだ全然頑張りが足りないし、もっとやらなければいけないと感じました。
そこから練習に臨む自分の姿勢も変わりましたし、練習を全力でやることの重要性を植えつけてくれた言葉なので、今もその思いは大事にしています」
── チームのことを考えるようになった今、ほかにも意識していることはありますか?
「負けた試合のあと、自分がチームに対して何ができるかも大切にしていますが、試合に勝っている時ほど、小さいところを気にするようにしています。
試合に負けた時は、ここが課題だ、ここを修正しなければいけないと、問題点も浮き彫りになります。だけど、勝った試合にも修正しなければならないところはある。ちょっとしたミスをおざなりにすることで、チームはほころびていく。
優勝するチームというのは、小さいところを気にして、勝ったからOKとせず、『もっと』や『さらに』を追い求めていくチームだと思います。また、それができるのが、鹿島だとも思っています」
── 身近な存在として若い頃から刺激を受けた選手としては、同じく今季、鹿島に復帰した昌子源選手の存在もあるのではないでしょうか。
「僕にとっては兄貴のような存在。プロ1年目の時から面倒を見てもらい、ふたりで出掛ける機会も多かった。鹿島に復帰したタイミングは幸運にも一緒ですけど、その関係性は以前も今も変わらないですね」
── 切磋琢磨する部分もあれば、背中を追いかける存在でもある?
「もちろんです。言葉にするのは嫌なんですけど......源くんはずっと試合に出ていて、自分のなかで一番のCB。そこを目指して自分はやってきました。
プロ2年目からは一緒に試合に出る機会も増え、あの人のすごさを一番知っているのは自分だと思っています。だからこそ、自分はまだまだだと、今でも思わされるし、練習をやっていても、ふだんを一緒に過ごしていても、いつもいい刺激をもらっています。
CBとしての強さはもちろん、それにプラスしてチームを導くことができる言葉の力を源くんは持っている。そこは自分がマネをしたくても、マネできない。勝てないところかなと思う」
── 鹿島に復帰した今季のプレーや立ち居振る舞いを見ていると、植田選手自身も言葉でチームを導くことのできる存在になっているのではないでしょうか?
「自分なんて、まだまだです。ただ年齢を重ねただけじゃないですか。でも、今は、チームの勝敗にかかわる仕事をしなければいけないと思っているし、試合の進め方、ゲームの運び方については、かなり意識しています。
自分が選択したプレーが悪ければ、チームの負けにつながるし、よければ勝利につながる。自分の判断次第で、チームのよし悪しが変わってくるとすら考えています」
── 周りを動かすことを意識するようになって、守備への考え方も変わりましたか?
「大前提にあるものは変わらないですね。最終的には、自分たちCBが相手を止めることができたら、試合に負けることはないと思っているし、失点することもないと思っています」
── 今季のリーグ戦では第9節から5試合連続でクリーンシート、第20節を終えてうち10試合が無失点です。試合終盤に失点する機会も減り、守備には手応えを感じられているのではないでしょうか?
「いや、今季は失点が多いのではないかと思っています。自分がチームをマネジメントしていく力が足りず、チーム全体の動かし方も悪いと感じているので、自分がもっと修正していかなければいけない部分が多いと思っています。チームとしての守備の意識や守備のやり方も含めて」
── やはり、そこは自分が担っていかなければと考えているのですね。
「事前に準備しているチームとしての戦い方はありつつも、試合に入れば、相手も自分たちに対して有効かつ効果的な動きをしてくるし、その時にまた、ピッチにいる選手たちで対応できるかどうかが問われている。
一瞬の判断の遅れが失点につながり、試合に負けることになる。だから、ハーフタイムなどに監督からの指示を待つのではなく、試合中に自分たちで対応できるかどうかが大事になってくる。そのための力を自分自身も養いたい」
── CBでコンビを組む関川郁万選手の成長も頼もしいのではないでしょうか?
「郁万が成長したことについて聞かれる機会が多くありますが、個人的には、本来持っている力を発揮し始めただけだと思っています。自分にできることは、彼がチームのことを気にしすぎることなく、自分のプレーを思い切り出せる状況や環境を作ること。試合を重ねて、彼の特徴や癖もわかってきたので、今はもっと自由に、のびのびとプレーしてもらえることを意識しています」
── 守備だけでなく、全体のことを考えるようになった今、課題は攻撃でしょうか?
「GKから攻撃を組み立てていくのは、現代サッカーにおいてはもはや当たり前ですし、DFが守備だけをやっていればいいという時代ではないので、自分も含めて技術の向上に目を向けなければいけないと思っています。守備だけでなく、攻撃につながるプレーでも貢献していかなければならない。そこはまだまだ、自分の課題だと思っています」
── 再び深紅のユニフォームに袖を通してプレーしている今季、感じている鹿島の存在意義とは?
「昔から日本一強いクラブでなくてはならない、日本一であり続けなければならないクラブ。そう思っている選手たちがプレーしてきたから、このクラブは日本で最も多くのタイトルを獲ってきたとも思うし、その気持ちを今も忘れてはいけないと感じています。
自分自身でも、クラブの歴史や伝統を見つめ直した時、今のままでは足りないんじゃないかと、チームに対しても、自分に対しても強く思います。そこは自分が率先して、練習や試合で出していかないと、周りにも伝わっていかない。
鹿島でプレーしている以上、誰ひとりとしてタイトルをあきらめてはいないと思うので、ここから食らいついていくためにも、自分のサッカー人生を懸けた戦いを見せていかなければいけない。
繰り返しになりますけど、自分にとって、そう思わせてくれるクラブは、鹿島以外にないんです」
── クラブ愛とも言える感情を強く抱いたのはいつからですか?
「以前も持っていましたけど、ここまで強く感じているのは、やっぱり鹿島に戻ってきた今季からかもしれません。鹿島のユニフォームを着て、試合に出られる喜びはそれだけ格別で、ファン・サポーターの前でプレーできる幸せを日々感じています。
だからこそ、負けた時にこんなに悔しい思いをしたことはないし、このクラブを勝たせたいとも思っている。そう思わせてくれるクラブは鹿島だということを、戻ってきた今、あらためて日々実感しています」
<了>
【profile】
植田直通(うえだ・なおみち)
1994年10月24日生まれ、熊本県宇土市出身。2013年に大津高から鹿島アントラーズに加入。翌年にJリーグデビューを果たし、日本人屈指のフィジカルを武器に主力へと成長する。日本代表デビューは2017年の中国戦。2018年ロシアW杯メンバーにも選出される。同年7月にベルギーのサークル・ブルージュに移籍。2021年からフランスのニーム・オリンピックでもプレーし、2023シーズンより鹿島に復帰。ポジション=DF。身長186cm、体重79kg。