フレッシュオールスターMVPは出世する? 鶴岡慎也はジンクスを実感「潮目が変わった」
「フレッシュオールスターのMVPは出世する」というジンクスがある。これはイチローや青木宣親、中田翔、岡本和真らが、フレッシュオールスターのMVPをきっかけに球界を代表する選手へと飛躍したことに由来しているのだろう。はたしてフレッシュオールスターMVPは、その後の野球人生に何をもたらすのか。2005年のフレッシュオールスターでMVPに輝いた鶴岡慎也氏に話を聞いた。
── 鶴岡さんは2005年のフレッシュオールスターでMVPに輝きました。その後はジンクスどおり、捕手として現役19年間で7度のリーグ優勝、4度の日本一。ベストナイン、ゴールデングラブ賞にも選出されています。
鶴岡 あの年のフレッシュオールスターは宮崎で開催され、当時の日本ハムに宮崎出身の選手はいませんでした。私は社会人出身3年目だったのですが、九州出身(鹿児島)という理由で出場し、プロ1年目のダルビッシュ有(現・パドレス)とバッテリーを組んだわけです。そして、その試合で本塁打を放ち、MVPに選んでいただきました。
── 「フレッシュオールスターのMVP選手は出世する」と言われているのを知っていましたか?
鶴岡 フレッシュオールスターでの活躍をきっかけに、その後、一軍で飛躍した選手の記事を何かで読んだ時、「自分には関係ない」と思っていました。それが「ダルビッシュ投手とのバッテリー」「捕手の人数が足りなかった」「九州出身」という要素が重なり、出場しました。私はドラフト下位指名(8巡目)で、世間的にも注目されていませんでしたが、球団スタッフの方が気を遣って出場させてくれたんです。
── プロ入り3年目での出場だったのですね。
鶴岡 そういう意味ではすごく幸運でした。"フレッシュオールスターのMVP"ということで知名度が上がり、周囲の見る目が変わってきました。その後、イースタン・リーグの試合でも打席に多く立てましたし、ほかのチームの選手が「おめでとうございます」と話しかけてくれたり。私のプロ野球人生の"潮目"が変わったことを、ものすごく実感しました。
── フレッシュオールスターのMVPは賞金100万円ですが、みんなガツガツ狙っていくのですか。
鶴岡 私以外が、みんな「MVPの賞金100万円を狙う!」という意気込みだったと思います。私は「無事に終わればいいや」と、そういう野望は1ミリもありませんでした(笑)。
【野球人生初の確信歩き】── 本塁打を打った投手は誰だったのですか。
鶴岡 中日の長峰昌司投手です。その後、セ・パ交流戦でも対戦して、何本かヒットを打つなど相性がよかったんです。いま振り返ると、フレッシュオールスターのホームランは「人生で一番の当たり」でしたね。サンマリンスタジアムのレフト上段まで飛ばしましたから。手応えもバッチリで、プロに入って初めての"確信歩き"でした(笑)。
── オールスターでは、投手はストレートを投げなくては......という雰囲気があって、どうしても「打者有利」の雰囲気があります。実際、投手のMVPは2000年の河内貴哉投手(広島)以来出ていません。
鶴岡 打者はバッティングマシンで練習できますし、最近の打者は160キロ近くのボールでも弾き返しますからね。ストレート中心の配球だと、やはり打者が有利になりますね。
── その年、フレッシュオールスターが7月末に行なわれ、9月に一軍初出場を果たします。
鶴岡 それまで一軍とは無縁でしたが、ヒルマン監督に呼ばれ2005年は4試合に出場。翌年はダルビッシュ投手の"専属捕手"的な役割をきっかけに76試合に出場することができました。そしてチームもヒルマン監督のもと、44年ぶりの日本一を達成することができました。私が現役を19年間も続けられた大きなきっかけとなったシーズンになりましたね。
── その後、鶴岡さんは一軍のオールスターにも出場しています。
鶴岡 2012年と2013年に出場しました。捕手というのは特殊なポジションですので、他球団の選手でも親近感が湧き、里崎智也さん(ロッテ)と技術的なことやキャッチャーの苦労についての話をした記憶があります。
今年のフレッシュオールスターで3安打3打点の活躍でMVPを獲得した阪神・森下翔太
── かつては中田翔選手や岡本和真選手がフレッシュオールスターでMVPを獲得し、それをきっかけに飛躍しました。今年は阪神の森下翔太選手がMVPに輝き、さらなる活躍が期待されます。
鶴岡 中田選手や岡本選手の活躍は、当然かなと思います。今年の森下選手にしても、MVPを狙って獲れる選手ですし、僕と違ってドラフト1位の入団です。すでにレギュラーとしてやっていますし、フレッシュオールスター後の試合を見ていても、ようやくプロの球に慣れてきた印象があります。近い将来、チームを背負って立つ存在になるのではないでしょうか。
── そのほか、フレッシュオールスターの思い出はありますか。
鶴岡 2打席目に二塁打を打ちました。3安打すればMVPは確実でしょうが、ほかの捕手も試合に出さなくてはいけない。それで打席に立つために、一塁を守らされました。岡本哲司監督(日本ハム)の気遣いを感じました。ただ、エラーしてしまいましたが......(笑)。
── ちなみに、賞金の100万円はどうされたのですか。
鶴岡 あの時は試合後すぐ解散だったので、誰かに「おごれよ」と言われることもありませんでした。運よくいただいた賞金で、親にねだられたテレビを購入しました。奮発して30万円ぐらい。ただ、MVPの賞金の振り込みは10月とか11月だったんです。支払いがやばかった記憶があります(笑)。
── フレッシュオールスターでMVPを獲ったことに関して、あらためてどんなことを思いますか。
鶴岡 獲ったあとの反響は大きかったですし、注目を浴びたことをきっかけに一軍昇格。自信になりましたし、先程も言いましたが、周りの見る目が変わってくる。そのあとも長くプロ野球の世界でやれたわけですから、私としてはジンクスを破らなくてホッとしていますし、少しでも歴史に名を残せてよかったです。
鶴岡慎也(つるおか・しんや)/1981年4月11日、鹿児島県生まれ。樟南高校時代に2度甲子園出場。三菱重工横浜硬式野球クラブを経て、2002年ドラフト8巡目で日本ハムに入団。2005年に一軍入りを果たすと、その後、4度のリーグ優勝に貢献。2014年にFAでソフトバンクに移籍。2014、15年と連続日本一を達成。2017年オフに再取得したFAで日本ハムに復帰。2021年オフに日本ハムを退団した