8月6日から第105回全国高校野球選手権記念大会が開幕する。佐々木麟太郎(花巻東)と真鍋慧(広陵)の二大巨頭に代表されるように野手に好素材が揃う一方、めぼしい投手は地方大会で敗退してしまった印象が強い。

 今夏は残念ながら聖地を踏めなかった選手のなかから、とくに潜在能力の高い逸材をピックアップしていこう。


大阪大会決勝で履正社に敗れ、甲子園を逃した大阪桐蔭のエース・前田悠伍

【まさかあの前田悠伍が...】

 まずは世代ナンバーワン投手の呼び声の高かった前田悠伍(大阪桐蔭)だ。高校1年秋の衝撃デビュー時には「向こう2年、甲子園は前田の時代がくる」と予感させたものだが、まさか高校最後の夏に甲子園に進めないとは想像できなかった。

 高校生投手として、これほど勝てる要素を持った存在も珍しい。球速表示は140キロ前後でも、スピード感がほかの投手とまるで違う。弾力性のあるゴムまりがビヨーンと伸びてくるように、捕手のミットを突き上げる。スライダー、チェンジアップなどの変化球も一級品で、ピンチを迎えても動じないマウンドでの佇まいや相手打者の顔色を見ながら投げられるクレバーさも併せ持つ。

 だが、今春のセンバツ以降は登板機会が極端に減り、故障説もささやかれた。今夏は大会中に左手親指の皮がめくれ、わずか2試合の登板。履正社との決勝戦ではバックの拙守もあり、8回3失点(自責点2)と不本意な内容だった。

 とはいえ、体調さえ万全なら夏の甲子園終了後に開催されるU−18ワールドカップの代表に選出される可能性は高い。国際舞台で野球ファンを「さすが前田」とうならせ、秋のドラフト会議を迎えてほしいものだ。

 同じく左投手では、東松快征(とうまつ・かいせい/享栄)、武田陸玖(たけだ・りく/山形中央)も甲子園まで肉薄しながら届かなかった。

 東松は凄まじい馬力を生かし、最速152キロの剛球を投げ込む。今春のU−18代表強化合宿では貪欲に前田にアドバイスを求め、ストレートと同じ腕の振りで変化球を投げる術を学んでいる。大藤敏行監督のもと、充実した戦力を揃えて28年ぶりの甲子園を目指した今夏は愛知大会準々決勝で敗退。東松は先発しながら愛工大名電打線につかまり、2回を持たず7失点で降板している。多くのスカウト陣の前で見せた乱調が、ドラフトにどんな影響を及ぼすのか。素材としてまだ底を見せていないだけに、大化けできる環境に進むことを祈りたい。

 武田は体格的に恵まれているわけではないが、投打とも本能でプレーする天才型。投手としてはキレのあるストレート、野手としては身体能力の高さと打撃面の順応性が際立つ。矢澤宏太(日本ハム)と近いプレースタイルだ。今夏は強敵・鶴岡東戦で完投勝利&高校通算31号本塁打の大暴れも、決勝戦では日大山形に4対6で敗戦。本人は高校卒業後も二刀流継続を希望しているが、野手としての才能が突出しているだけにプロ側からどう評価されるか。


今夏の兵庫大会準決勝で敗れた滝川二・坂井陽翔

【将来性抜群な右の本格派6人】

 右投手では坂井陽翔(滝川二)、木村優人(霞ヶ浦)と本格派の好素材も、甲子園には届かなかった。いずれも140キロ台後半の快速球を投げるだけでなく、変化球も高い精度で操れて、打撃力が高い点でも共通している。

 坂井は苦しい戦いを潜り抜けながら兵庫大会ベスト4に進出したものの、準決勝で明石商に1対2と惜敗。指にかかった角度のあるストレートは攻略困難のキレと球威があるだけに、肉体と技術が成熟すれば大化けする可能性が高い。

 木村はエースとして茨城大会決勝まで牽引し、決勝戦も土浦日大を8回まで無失点に抑える好投。3点のリードを得て甲子園は目の前だったが、9回表に被安打7、失点5と崩れた。とはいえ、ストレートの軌道から曲げられるカットボール、スプリットに、打者に意識させるカーブと高校生とは思えない変化球を扱える点を評価したい。

 190センチ台の大型右腕として存在感を放ったのは、日當直喜(ひなた・なおき/東海大菅生)、篠崎国忠(修徳)、平井智大(駿台甲府)の3人だ。

 日當はその巨体から剛球右腕に思われがちだが、実態は変化量からコースまで自在に操る"フォーク使い"。今春のセンバツでベスト8に導いた投球は記憶に新しい。今夏は5回戦で駒大高と対戦し、延長10回タイブレークの末に4対6で敗れた。

 篠崎は今春の公式戦を故障で登板回避し、今夏に賭けていた。192センチ、100キロの巨漢ながら、カーブ、スライダー、フォークと変化球を器用に操れるのが魅力。番狂わせが続出した東東京大会では準々決勝に進出したものの、岩倉に1対8で敗退。今後はプロ志望届を提出する予定だ。

 平井は今夏に最速151キロをマークし、株を上げた。大型投手でも投球フォームにぎこちなさはなく、その日の体調に応じて最適な腕の振りを見つけられる繊細さもある。今夏は山梨大会準決勝でセンバツ王者の山梨学院戦に先発し、6回4失点。チームは延長10回タイブレークの末に勝利する番狂わせを演じた。だが、この試合で右手指のマメを潰した平井は、決勝戦で先発を回避。東海大甲府に2対6で敗れている。

 今夏にプロスカウト陣の評価を高めた投手といえば、河内康介(聖カタリナ学園)がいる。身長180センチ、体重72キロの長身痩躯で、抜群のリリース感覚から放たれたストレートは最速150キロをマーク。強烈なバックスピンのかかった好球質で、今夏は愛媛大会ベスト4に進出した。


今春のセンバツで準優勝を果たした報徳学園・堀柊那

【今後も続く世代最強捕手争い】

 捕手では、今春のセンバツで輝いた堀柊那(ほり・しゅうな/報徳学園)、鈴木叶(すずき・きょう/常葉大菊川)が地方大会で涙をのんだ。

 堀は強肩ばかりがクローズアップされるものの、捕手として守備全般がハイレベル。余計な力みのない構え姿、ストライクゾーンいっぱいでも巧みに捕球できるキャッチング。投手が安心して投げられる要素が揃い、今春センバツは3投手をリードして準優勝に導いている。打撃面で非力さが目立っていたが、今夏の兵庫大会では本塁打を放つなど復調気配があった。5回戦で強敵・神戸国際大付に2対3で敗れたものの、堀個人としては評価を高めた夏と言えそうだ。

 鈴木はセンバツで初戦敗退したが、二盗を阻止する猛烈なスローイングでインパクトを残した。4月のU−18代表強化合宿では堀を凌ぐパフォーマンスを披露。とくにパンチ力抜群の打撃力は高校生捕手としてトップクラスだろう。今夏は指の故障で出遅れ、準々決勝の東海大静岡翔陽戦は6番・捕手で出場。3打数0安打に終わり、チームも3対5で逆転負けを喫した。堀との世代最強捕手争いは今後も続いていくだろう。


京都翔英のスラッガー・小笠原蒼

 今夏の甲子園は佐々木と真鍋だけでなく「一塁手のスラッガー」が数多く出場する。その並びに加わってほしかったのが、小笠原蒼(おがさわら・そう/京都翔英)と明瀬諒介(みょうせ・りょうすけ/鹿児島城西)の左右両門である。

 小笠原は泰然とした構え姿が印象的で、柔らかく運ぶようなスイングができる左打者。今夏は京都大会決勝まで進出し、高校通算29号をライトスタンドに放り込んだ。チームは6対7で立命館宇治にサヨナラ負けし、甲子園へあと一歩及ばなかった。今年のドラフト戦線に佐々木、真鍋、佐倉と「右投左打の一塁手」がひしめくなか、プロスカウトからどんな評価を受けるのか気になるところだ。

 明瀬は高校通算52本塁打を放った右の大砲で、投手としても最速152キロを計測する馬力が魅力だ。バットの芯でとらえればどこまでも飛ばせる長打力がある反面、コンタクト能力に課題を残す。今夏の鹿児島大会は0本塁打に終わり、準決勝で鹿屋中央に1対5で敗れた。とはいえ、右投右打の明瀬の希少価値は評価されそうだ。

 甲子園に出場しようとしまいと、卒業後には横一線になる。プロには晩成型の選手も多く、今春のWBC日本代表メンバーの半数は高校時代に甲子園を経験していないのだ。

 今夏の甲子園に不出場だった逸材たちが、これからどんな野球人生を歩むのか。希望をふくらませながら見守っていこう。