今季の宮城大弥は、なぜ好不調の波が激しいのか? 星野伸之が指摘する「緩急投球術」の生命線と弱点
パ・リーグを連覇し、今シーズンも首位を走るオリックス(7月27日時点/以下同)。チームを支える強力なピッチャー陣の中で、入団2年目の2021年からローテーションの一角を担っているのが、緩急自在のピッチングが特長の宮城大弥(21歳)だ。
7月26日のソフトバンク戦では5失点で負け投手になり、今シーズンはここまで6勝4敗という成績だが、防御率2.75はリーグ6位と上位をキープしている。同じように、球史に残る"緩急の使い手"として並み居る強打者たちを翻弄し、長らくオリックスのエースとして活躍した星野伸之氏は、宮城のピッチングをどう見ているのか。
緩急を生かしたピッチングが特長のオリックス宮城
――まず、今シーズンの宮城投手の出来をどう見ていますか?
星野伸之(以下:星野) 山本由伸に一生懸命ついていこうという姿勢は変わりませんし、頑張ってくれていると思います。ただ、今シーズンはビッグイニングを作られるケースが見られます。特に交流戦のDeNA戦(6月11日)では5回8失点でしたが、変化球ばかり打たれていました。
宮城には素晴らしいクロスファイヤー(利き腕とは対角線上のコースに投げ込む真っ直ぐ)がありますが、常にストライクを取れるわけでもない。投球フォームがちょっとクロスする分、角度がよくなりすぎてボールに見えるのかもしれません。クロスファイヤーが決まりだすと、バッターは変化球を待っていてもほとんどファウルになるのですが、DeNA戦の時はクロスファイヤーが決まりませんでしたからね。
――クロスファイヤーを見極められ、変化球を狙い打たれていた?
星野 クロスファイヤーは際どいコースにいくので簡単に見極められる球ではないはずなのですが、DeNAのバッターは手を出さなかった。角度がすごいので打ってもファウルになると見込んで打たなかったのか......。
あと、DeNA戦ではカーブやスライダーを投げる時に、いつもより腕が緩んでいてわかりやすかったかもしれません。カーブは相手打者が"ためて"打つこともありましたから。緩いカーブは、手からボールを早く離さないと大きなカーブにならないので、さじ加減がなかなか難しいんです。
――主に右バッターに対してのチェンジアップも効果的ですね。
星野 彼の場合、ちょっとパームっぽい握りで投げるので、指のかかり具合によって球がスライダー回転になったりします。右バッターの懐に入っていく球ではなく、できれば縦に真っ直ぐに落とせるようになれば、よりいいかなと。バッターが追いかけないといけない球になれば、カーブやスライダーなど(右バッターの)内に入っていく球とのコンビネーションがやっかいになりますから。
――クロスファイヤーの精度が課題になりますか?
星野 そうですね。ストライクを取るために何を投げるかと考えた時、真っ直ぐの連投というわけにはいきません。そこで、クロスファイヤーがストライクになるか、ボールになるかは彼のピッチングのポイントです。
――抑えている時は、クロスファイヤーがよく決まっている?
星野 僕はそう見ています。クロスファイヤーが、よりマークしなければいけない球になれば、バッターはなかなか踏み込めませんからね。そうなると、外のチェンジアップも生きてきます。
―― 一方、左バッターに対しての生命線は?
星野 左バッターに対してもクロスファイヤーだと思います。左バッターの場合、外角に決まればかなり遠く見えると思うんです。「遠いな」と思った球をストライクと言われると、バッターは追いかけなきゃいけなくなるので。それが決まったあとは、スライダーなど全部外に逃げる球で攻めてもいいぐらいです。
外に意識を持たせたら、インコースは少々甘くても大胆にいける。右バッターに対しても左バッターに対しても、クロスファイヤーが決まるか決まらないかがポイントです。
――宮城投手といえば「緩急」が特長のひとつですが、星野さんも現役時代は90〜100km台のスローカーブを織り交ぜ、120〜130kmの真っ直ぐを速く見せていました。星野さんから見て、宮城投手の緩急はどうですか?
星野 緩急のつけ方はうまいですよ。150km台の真っ直ぐを投げた後、80km台のスローカーブをよく投げられるなと。ただ、これだけ球速差があるにもかかわらず、カンカン打たれる時もある。やはり、腕の振りが遅くなる分、相手も「スローカーブが来る」とわかっているのかもしれません。ただ、腕の振りを早くすると、球が上のほうに抜けたりもするので難しいところなのですが。
――投球フォームについてはどう見ていますか?
星野 クロスする分、「縦の動き」というよりも「横の動き」というイメージはありますね。でも、ポンと上に浮くカーブがあるので、バッターの目線を一度上に上げることができるのは強みだと思います。それと、宮城の場合は僕と違って真っ直ぐが速いので(今季の最速は151km)、120km台中盤のスライダーでも十分に緩急がついていると思います。
――DeNA戦で8失点を喫して以降のピッチングはいかがですか?
星野 いい時と悪い時がはっきりしていますね。交流戦では中日戦で完封勝利を挙げた後にDeNA戦で8点取られ、その後の2試合は無失点。次の楽天戦で4失点し、ソフトバンク戦で8回1失点と好投したかと思えば、直近のソフトバンク戦では5失点。
今後も打ち込まれる試合があるかもしれませんが、気持ちを切り替えて投げていってほしいです。今シーズンは切り替えという意味ではうまくできていると思いますし、なんだかんだ6勝4敗で2つの貯金をしてくれているので。
繰り返しになりますが、やはり宮城の場合はクロスファイヤーが生命線。そこがしっかりすることで、カーブやスライダー、チェンジアップといった変化球が生きてくると思います。
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。