地方競馬のなかで「最高」とされる金沢競馬場の景観に酔いしれ、馬券はさっぱり…
福島から北陸道をゆく「旅打ち」
第5回:風光明媚な金沢競馬場
(4)「旅打ち」の合間、車窓から広がる日本海の美しさに涙>>
本州の日本海側にある唯一の地方競馬場となる金沢競馬場
金沢競馬場へは、JR金沢駅から無料の送迎バスが出ている。この日は平日だったこともあってか、バスの利用者は決して多くなかった。自分が乗った午後一番のバスも、乗客は10人ほどだった。
バスに乗って20分ほど揺られると、やがて競馬場に着く。同じ金沢市ながら、市内の洗練された雰囲気はすっかり消えて、田舎っぽい景色が広がる。
本州の日本海側にある唯一の地方競馬場で、コースは1周1200mのダートコース。秋に開催される交流重賞、GIII白山大賞典(ダート2100m)には、例年中央の一流ダート馬も参戦する。
ちなみに、最近話題となっているのは、デビュー11戦無敗のショウガタップリ(牝)。金沢競馬の「スター」として、地元ファンの多くが彼女の動向に注目している。
日本海側の競馬場と言えば、かつては「日本一小さい競馬場」として知られていた益田競馬場が島根県にあった。新潟県にも三条競馬場があった。そんな消えていった競馬場を思うと、金沢競馬場が存続し続けていることは「奇跡」というのは大げさだが、それに近い「幸運」だと思わずにはいられない。
風光明媚な金沢競馬場
作家の山口瞳氏が書いた競馬の古典的名著『草競馬流浪記』(新潮社)には、ここ金沢が地方競馬では最高の競馬場だと記してある。
その理由はいくつかあるが、氏はそのひとつに「借景のよさ」を挙げている。
確かにスタンドから見て、左に日本海、右に白山連峰とくれば、"役者がそろった"といった感がある。
さらに、スタンド2階からパドックを見ると、その背後には大きな川のような、あるいは沼のような水面が広がっている。これが、河北潟。そこをずっと辿っていくと、やがて日本海につながる。この、パドックとその裏に光る河北潟の眺めも捨てがたい。
金沢競馬場は、このパドック裏の河北潟を埋め立てて造られたもののようだ。その昔、山口瞳氏もこのスタンドから河北潟を眺めたのかと思うと、少しうれしくなった。
同日のレーススケジュールは、第1レース発走が正午。最終の第12レースは18時30分発走。ナイター競馬ほど遅くはなく、薄暮競馬といったイメージか。
競馬場に着いたのは、第3レースの少し前。とりあえず、場内を見て回り、1枚400円のお好み焼きを食べて腹ごしらえをした。
競馬には、第4レースから参加。金沢駅行きの帰りのバスは、17時の便のあとは最終レース終了まで待たなければならない。さまざまなことを考慮した結果、17時の便に間に合う第8レースまでの5つのレースで勝負することにした。
結論から言うと、第4、第5レースはハズレたが、その後の第6〜第8レースは連続して当たった。初めての金沢競馬にしては上々の戦果だ......が、あまり自慢にはならない。
第6レースは見事なトリガミ。第7、第8レースもギリギリ浮いた程度で、第4、第5レースの負け分を回収できず、まったく儲からなかったからだ。
この日の収支は、およそ2000円のマイナス。おそらく、その理由はこうだ。
金沢競馬は基本的に出走頭数が少なく(フルゲート12頭。この日の最多出走は11頭)、馬の能力もわりとはっきりしているから当てやすい。しかしその分、絞らなければ儲けにくいのだ。
この日は交流レースがあり、中央の今村聖奈騎手らが参戦していた
そういえば、この日の第7レースは中央との交流レースで、中央から3歳の未勝利馬が6頭出走。それらに騎乗するため、今村聖奈騎手ら何人かの若手ジョッキーが訪れていた。
その第7レースで勝ったのは、私の好きなドゥラメンテ産駒。当然、この馬から馬単馬券を購入し、見事に的中した。ところが、馬単よりも馬連のほうが配当がよかったのは、笑えない冗談のようだった。
競馬場の正門を入って左手に、金沢競馬専門の予想紙を売るブースがある。私も入場してすぐ、一部500円の『競駿カナザワ』という予想紙を買った。いつもなのか、この日だけなのかはわからないが、この予想紙が実によく当たった。
馬連に限らず、3連単まで第5レース〜第8レースまで連続的中。そのなかには、万馬券が2本もあった。
「ああ〜、予想紙の言うとおり買っとけばよかった」としみじみ思ったが、それこそ、あとの祭りである。
思えば、山口瞳氏も金沢競馬を絶賛する理由のひとつに「競馬予想紙の充実」を挙げていた。でもそのことに気づいたのは、競馬を終えて、かなりの時間が経過してからだった。
金沢競馬で敗れたあと、市内の屋台村で海の幸を堪能し鬱憤を晴らした
その日の夕食は金沢市内の屋台村で、地元産のアジのなめろうとイカの刺身を肴にして、そこの店主の出身地だという輪島の地酒をいただいた。
嫌なことを忘れるには、飲むに限る。明日はいいことがありますように――。
(つづく)