道路脇の「街路樹」誰のもの? ビッグモーター″除草剤″事件で注目 邪魔で無くせはNG、「泣き寝入り」の実態も
道路脇に植えられている「街路樹」。たいていは車道と歩道のあいだに植えられていることが多いですが、あれは一体誰のもので、どこが管理しているのでしょうか。
街路樹はれっきとした道路の一部
中古車大手ビッグモーターをめぐり、店舗前の街路樹が不自然に伐採され、いくつかの場所では除草剤の成分が検出されていることなどが問題となっています。この街路樹、たいていは車道と歩道のあいだに植えられていることが多いですが、そもそも一体誰のもので、どこが管理しているのでしょうか。
街路樹のイメージ(画像:写真AC)。
まず、車道と歩道の間は道路区域にあたり、道路管理者の土地になります。街路樹は道路施設のひとつとして、その道路管理者が管理するものです。
道路の構造を決める「道路構造令」には「植樹帯」としてしっかり規定されており、さらに「第4種第1級、第2級の道路には植樹帯を設ける」と、道路の一部として設置することが義務として明記されているのです。
ちなみに第4種道路は「高速道路ではない道路のうち、都市部のもの」であり、さらに等級が計画交通量などによって分けられますが、第1級・第2級とは、一般国道ならすべて、県道・市道等なら計画交通量4000台以上に該当します。
道路に植樹帯を設置する理由について、国土交通省は「主に都市部における良好な公共空間の形成、沿道における良好な生活環境を確保するため」としています。
街路樹管理の実態
関西のとある土木職員は「毎年4月に新年度が始まると、その年度に管轄道路の植樹管理を行う業者の入札発注を行います。管轄道路が膨大なので、おおかた2〜4のエリアに分けて、それぞれ担当の業者と契約します」と話します。
内容は、年複数回の剪定や防虫対策、雑草抜きの作業。剪定にもマニュアルがあり、例えば「街路樹剪定マニュアル」では、街路樹を「自然樹形」「人工樹形」の2カテゴリに分け、それぞれ「育成・維持・縮小・樹形再生」の4タイプに分けて、剪定方法を細かく規定しています。
防虫対策は、毛虫やアブラムシなど、木を枯らす原因となる虫を除去する薬剤散布で、虫の繁殖などのサイクルを考慮して、年2〜3回行われるといいます。
維持にはかなり手間がかかるうえ、「歩道が狭い、街路樹を無くして人が歩けるスペースにしてほしい、といった地元要望も数多くいただき、地元の市会議員が陳情にくる場合もあります」(同)。
その場合、街路樹は撤去されるのでしょうか。先述の職員は「道路構造令にはただし書きとして『地形の状況等の理由によりやむを得ない場合はこの限りでない』とあり、これを適用して『視距が遮られて歩行者の安全が阻害される』などの理由付けで撤去を決定する場合もあります。しかし、そもそも街路樹の設計にもそういった視距については考慮されているため、規定を逸脱することなく撤去を行うのはなかなか難しいです」どのこと。
横浜市青葉区は「道路自費工事における街路樹撤去」についてマニュアルを公開しており、沿線住民から希望があった場合、「青葉区には街路樹に愛着をもっている区民の皆さんも多く、まずは街路樹の撤去を伴わない建築計画の検討をお願いしています」として、建築計画の承認にあたって、自治会長への相談、近隣住民への相談をするよう呼びかけ、地元トラブルを避けることとしています。伐採後は、ほかの植樹ますに「捕植」しなければなりません。
沿線住民が勝手に街路樹に手を加えていいの?
では、前出のビッグモーターの問題で「街路樹に除草剤を撒いて、木そのものを枯らしてしまった」といった報道が上がっていますが、これはどのような問題があるのでしょうか。
市で道路施設を管理する部署の職員は「まず、公有財産を無断で傷つける行為は、器物損壊に当たる可能性があります」と話します。
沿道にコンビニを開業するために、歩道の切り下げや防護柵の撤去、街路樹の伐採などを行う際は、承認が必要(画像:写真AC)。
「たとえば一般的に、沿道へ新たに商業施設を開発するため、歩道縁石を切り下げて道路への入口を新設したいという場合は、道路法24条に基づく工事として、公共物を道路管理者以外が形状変更する行為への承認を得る形で行うことになります。その場合、もしそこに街路樹がかかってくる場合は伐採せざるを得ませんが、伐採した分の代わりに捕植したり、樹木費という金銭補償を行う必要がでてくる可能性があります」(同)。
「しかし、単に『道路から店舗が見えない』というだけの理由で、街路樹伐採だけを行いたいという申請については、24条工事の承認が下りることはなかなか無いでしょうね」(同)。
勝手に撒いて枯らしていた、という事実については「個別の事象については背景がわかりません。ただ一般的に、道路管理者はこうしたトラブルを未然に防ぐため、おおかた毎日、管轄道路のパトロールを行っています。もし特定の街路樹だけが急速に枯れつつあれば、『あれ?おかしいぞ』と気づくのではないでしょうか」と訝しむように話します。
「ましてや、道路管理者が『枯れたのでこの街路樹は撤去します』とするのなら、必ず『なぜこの街路樹は枯れたのか?』と調査を行うはず」だそうです。薬剤で急速に枯れたのであれば、不自然な点が明らかになるだろうといいます。
ただ、実際にそこまで厳密に“追及”するかといえば、そうでもないこともあるようです。「道路管理者が沿道住民に『変な枯れ方をしましたが、心当たりありますか?』と聞いたところで、『さあ?』としらばっくれられれば、それで終わり。道路管理者が警察に被害届を出せば、警察が捜査権限で枯死の要因を追求することになりますが、大規模な被害でなければ道路管理者もそこまでの手続きへ踏み込むケースは多くないでしょうね」(同)。