「小さな高級車」って誰が買うの? プチプチレクサス「LBX」の狙い そこにある“悲しい現実”
レクサス最小、エントリーモデルながら「小さな高級車」をうたう新モデルLBXに注目が集まっています。“高級車といえば大きなクルマ”という認識は、もはや古いのかもしれません。
「小さな高級車」はたくさんあります!
せんだってレクサスから新型「LBX」が発表され、日本でも2023年秋から販売されるとのアナウンスがありました。この「LBX」というのは端的に言えば「小さいけれど高級なクロスオーバー」。価格もそこそこお手頃らしく、もしかすると300万円台からという噂もあるほど。トヨタの高級ラインであり、価格もそれに見合ったモデルばかりであったレクサスが、そうした小さいモデルをリリースするのには、どのような理由があるのでしょうか。
レクサスLBX。Lexus Breakthrough X(=crossover)」の意味(画像:レクサス)。
まず、そもそもの話として、こうした「小さな高級車」に対するニーズは、大昔から存在していました。「高級」とリアルに謳わなくとも、「他よりも良い」というコンセプトのクルマたちです。
トヨタで言えば、「プログレ」「オリジン」「SAI」といったモデルが、「小さいけれど高級」として売り出されていました。「プログレ」は、5ナンバーサイズの車体に2.5リッターや3リッターのエンジンを搭載し、「クラウン」以上と言われるほどの上質さを売りにして1998年に生まれたコンパクトセダンです。「オリジン」は、トヨタの累計生産台数1億台突破を記念して2000年に作られた1000台の限定車で、「プログレ」をベースに初代「クラウン」をイメージしたデザインをまとい、「センチュリー」生産ラインで丁寧に作られました。「SAI」は「プリウス」をベースに、その上位モデルとして2009年に誕生。これはレクサス版の「HS」も生まれています。
また、トヨタの“マイクロカー”である2008年の「IQ」も、サイズを超えた「マイクロプレミアム」を謳いました。3mを切る、超ミニマムな車体でありながら、チープさではなく、上質さを売りにしたのです。その質感の高さは、なんとアストンマーチンにも認められるほどで、アストンマーチン版の「シグネット」が販売されています。マツダのロングセラーモデルであった「ベリーサ」や、観音開きドアを持つ「MX30」も、サイズを超えた特別さが売りにされたクルマ。「小さな高級車」のひとつと言っていいでしょう。
現行のクルマだと、日産の「ノートオーラ」も同じ。さらに言えば、「ノートNISMO」や「ノートAUTECH」、そしてスバルの「STIグレード」といったバージョンも、高級とはベクトルが異なりますが、「他グレードよりも上」を意味するモデルとなります。
高級=デカいの時代じゃない?
クルマのヒエラルキーを考える上で基本となるのが、クルマのサイズです。しかし、実際のところ、その基本から離れた「小さいけれど高級=他よりも良い」クルマは、これまでも数多く世に送り出されていました。
では、「小さいけれど高級」なクルマを求めるのは、どのような人方でしょうか。
当然、ダウンサイジング志向のユーザーはあるでしょう。お金を持っていて、大きく高額なクルマも買うことはできるけれども、「取り回しのよい小さいクルマがよい」という人たちです。そのような人であれば、小さいクルマの中でも、できるだけ良いクルマを選ぶのは間違いありません。「LBX」も、そうしたダウンサイジング志向のユーザーを狙う意図が見え隠れします。
「LBX」のリリースには「本物を知る人が、素の自分に戻り気負いなく乗れるクルマを目指した」とあります。「本物を知る人」というのは、「経験を積んだ=高齢かつ裕福な人」を指すと考えていいでしょう。そうした人のための小さな高級車が「LBX」であると言えば、完全にダウンサイジングのニーズへ当てています。
新型アルファード。最安グレードでも550万円を超えるラインから(画像:トヨタ)。
もうひとつ、クラスごとの価格差が広がってきたのも理由にあるかもしれません。かつては日本車で500万円もあれば、いろいろと選ぶことができました。300万円を超えるラインでも高級車といえ、それで肩身の狭い思いをすることもなかったのです。ところが、今ではクルマ全体の価格が上がってきました。
特に日本国内だけでなく、世界市場をベースにするグローバルカーは、世界基準にあわせて価格が高騰しています。高級車と言えば、500万円以上で当然になっています。新型ミニバンの「アルファード」と「ヴェルファイア」は、500〜900万円にまで価格をあげてきているのです。
アルファードなんてもう買えない…嘆きのファミリー層
これでは、若いけれど、少し余裕のあるファミリー層に、高級車は手の出しにくい存在になってしまいます。特にレクサスは、現行で一番小さいSUVの「UX」でさえも400〜500万円台という価格です。
「家族は4人だし、でも軽やコンパクトは嫌でちゃんとしたクルマに乗りたい、でも高すぎる」というヤング・ファミリーへのアピール力が弱かったのは事実でしょう。そこに300万円台という手ごろな価格で「LBX」が登場すれば、買い物リストのひとつに入ってくるのは確実です。
長らくレクサスのエントリーモデルだったCT(画像:レクサス)。
また、レクサスは、これまで長いことエントリーであったコンパクトハッチバックの「CT」が2022年10月をもって生産終了となりました。いまはレクサスのエントリー・モデルが不在という状況です。そこに「LBX」が登場することになります。
レクサスにとって新型「LBX」は、ダウンサイジング層と、子育て層の取り込みを狙うのがミッションと言えるでしょう。また、昨年に生産終了となった「CT」の代わりになる、ブランドのエントリー・モデルという役割も担うことになるはずです。