飛行機の離着陸を支えるタイヤ、一見クルマ用と大した違いがないように思えますが、実はほとんど別モノなんだとか。しかも、表面のトレッドがなくなってもゴムを貼り付けて使い続けるのだそうです。

横ミゾなくてもスリップしない工夫とは

 夏休みが始まり、旅行や帰省などで飛行機の利用者数が増える季節になりました。飛行機にもクルマと同じくタイヤがついていますが、クルマ用とは違い、接地面に刻まれたトレッドパターンはシンプルな縦ミゾのみ。こんな単純なパターンで、スリップなどしないのでしょうか。

 クルマやバイク用のタイヤには、複雑な形でトレッドパターンが刻まれていますが、その主な目的は、接地面と路面との間に入り込んだ水を素早く排出してグリップを確保するためです。具体的には、縦ミゾが後方に排出し、横ミゾが側方に排出する役割を担っています。


着陸するボーイング737旅客機(咲村珠樹撮影)。

 これに対し、飛行機用のタイヤは直線の縦ミゾのみと非常にシンプル。大きな理由としては、飛行機のタイヤは駆動輪ではなく転がるだけということ、そして基本的にまっすぐ走行するだけだから、という点が挙げられます。

 また飛行機がスリップしない工夫は、飛行場の舗装にも設けられています。滑走路には排水のために細かな横ミゾ(グルービング)が施されており、これでタイヤのグリップ力を補助する形になっています。

 なお、ハイドロプレーニング現象が起こりやすい高速域では逆噴射(スラストリバーサ)での減速がメインになっているほか、万一スリップしてもABS(アンチロックブレーキシステム)が作動してグリップ力を確保する仕組みとなっています。

ライバルメーカーでタイヤ再生することも

 飛行機用タイヤ独特といえる点はほかにも。着陸時、静止状態からいきなり速度200km/h以上で回転し始めるという過酷な環境も、そのひとつです。飛行機が滑走路に接地した際、白い煙のようなものが上がりますが、これはタイヤが摩擦によって発煙しているからです。

 クルマで例えるなら、速度200km/h以上からフルブレーキングしているようなもので、その分接地面は削れていきます。このため、走行距離に比較すると消耗しやすいのも飛行機用タイヤの特徴といえるでしょう。


羽田空港に着陸するボーイング787。主脚のタイヤから白煙が上がっている(咲村珠樹撮影)。

 ただ、削れていくのは接地面だけなので、大型機では消耗したら丸ごとタイヤ交換するのではなく、接地面のみを貼り替える「リトレッド」という手法で数回リサイクルすることもしばしばだとか。リトレッドされたタイヤを見ると、グッドイヤーのタイヤにミシュラン、ミシュランにダンロップなど、タイヤ本体とリトレッドされたブランドが異なっている場合も見受けられ、なかなか興味深いものです。

 今ではボーディングブリッジでの搭乗が多く、地上から飛行機に近づく機会は少なくなってきていますが、LCC(格安航空会社)などを利用する場合は、タラップ車で乗り降りすることもあるため、旅客機のタイヤを見るタイミングがあったりします。また各地で行われる航空祭やエアフェスタなどのイベントでは実機が展示されたりもします。

 もし機会があれば、タイヤの方にも注目してみてください。普段なら気付かない、面白い発見があるかもしれません。