勉強に取り組む時間は、自分の特性を知ることができる「実験タイム」(写真:すとらいぷ/PIXTA)

宿題に取りかかるのに時間がかかる、集中力が続かない、姿勢がすぐにだらんとなる、なかなか理解できない……。そんな悩みを抱える保護者の方いらっしゃると思います。発達障害のある子どもにとっての勉強とは? 『発達障害&グレーゾーンの子の「できた!」がふえる おうち学習サポート大全』より一部抜粋し再構成のうえお届けします。

勉強に取り組む時間は「実験タイム」

発達障害のある子どもたちは、障害物競走をやっているようなものです。勉強をするときの自分の特性(どんなときに集中できるか、気がそれやすいか、何があるとがんばれるかなど)、どんな環境だと勉強がはかどるか(温度や明るさ、音、場所、周囲の人や道具など)を知っていると、障害物を意図的に減らすことができます。

そこで、生徒と勉強するときには、私が見つけたその子の特徴を必ず伝えるようにしています。

「○○ちゃんは、おしゃべりしてから勉強したほうがはかどるね」

「△△くんは、勉強のあとにボードゲームで遊べるとがんばれるね」

「□□ちゃんは、来てすぐ勉強を始めたほうが集中できるね」

こうやって、勉強をツールにしながら、子どもたちは自分に合うやり方、自分に合う環境を知っていくのです。そう考えると、勉強や宿題に取り組む時間が実験の時間のように思えてきませんか? 

● 自分にとって動きやすい環境、動きにくい環境とはどういうものか?
● 能力を発揮できない状況や言葉は?
● 元気になる状況や言葉は?
● がんばりすぎるとどうなるか?
● 困ったとき、人に助けてもらうといいのはどういうことか?

これらを知るための貴重な「実験タイム」が、勉強や宿題に取り組む時間なのです。

しかし、家庭では勉強や宿題がむしろ親子の関係悪化の引き金になっていることもあります。「宿題がなければこのいざこざがなくてすむのに」「家で勉強を一緒にやると必ケンカになる」とおっしゃる保護者のかたも多くいます。

私とのセッションが「できれば金曜日だと助かります!」と言われることもしばしばあります。そうすると、土日に宿題が残っておらず、穏やかな休日を過ごせるからだそうです。

私にとって、一緒に勉強する時間はチャンスタイムです。なぜなら、見ているだけで子どもに関するいろいろな情報を得られるからです。勉強や宿題の時間を「イライラに耐える苦行」ではなく、「子どものことを知るチャンス!」と捉えることができると、子どもと一緒に勉強に向かう時間が気持ちよく過ごせるようになるはずです。

親子で子どもの取扱説明書をつくっていこう

この「実験タイム」を積み重ねることで、勉強を通じてその子の取扱説明書をつくっていくことができます。実際に、私は生徒にノートを1冊準備してもらって、そこに学習記録と生徒一人ひとりの集中ポイント、よくやる間違い、うまくできたこと、最近力がついてきたところなどを書くようにしています。

おうちでも、子どもを観察していて気づいたことがあったら、子どもと共有してみてください。「立って勉強したほうが宿題が終わるの早いね」とか「おなかがすいていると集中力が切れちゃうから、途中でおやつ休憩してみるのはどう?」などと話してみるのです。


(出所:『発達障害&グレーゾーンの子の「できた!」がふえる おうち学習サポート大全』)

勉強などの学びは、姿を変え、形を変え、一生続くものです。今後、資格試験を受けたり、免許を取ったりするとき、「自分がどういう状況なら理解できるのか」「どんな先生を選ぶといいのか」「どういう覚え方や解き方の練習をすると思い出しやすくなるのか」など、自分自身の取り扱い方がわかっていれば、一生役に立つはずです。

私の嫌いな言葉の1つに「愛情不足」があります。

「お母さん、お子さんは愛情不足でこんな困った行動をしていますよ。もっと愛情を示してあげてください」と言われて、「一生懸命やっているのに何も変わらない」「これ以上何をしたらいいの?」と泣いているお母さんを何人も見てきました。愛情不足を口にする人に、「お父さん、愛情が足りないですよ」と言う人がいないのも気になります。

ほとんどのお母さんは、心身をすり減らしてがんばっています。愛情は不足していません。ただ子どもにとってわかりにくい、届きにくい、受け取りにくい、意図と違うものが届くパターンに陥っている可能性があるかもしれません。

「ポジティブな例外」を見つける

保護者の皆さんは、子どものことをよく見ています。「〇〇をやったあとだと落ち着いて取り組んでいるな」「私が△△な言い方をすると荒れることが多いな」など、パターンが見つかれば必要のない争いが減り、勉強に集中できるヒントが見つかります。

たとえば、学校から帰って宿題のことを聞くと、すぐに不機嫌になってしまう子どもがいたとします。保護者は、その様子を見てイライラしたり、「もしかしたら勉強が難しいのではないか?」と心配になったりします。

そして、子どもが学校で困らないように「ほら、早く! 宿題をやってから遊びなさい」と言ったりします。この子と保護者のパターンは【学校から帰る→保護者が宿題をやるように言う→子どもが不機嫌になる→保護者も不機嫌になる→保護者にイライラされながら宿題をやる】です。

ある日、たまたま子どもが学校から帰ったあとに、おやつを出しておしゃべりをしたとします。そうすると、なんとなく「宿題でもやるか」という雰囲気になり、子どもが宿題をやったとします。これは、いつものパターンから外れた「例外」ということになります。

そこで、今度は保護者が意図的に、学校から帰っておやつを出しておしゃべりをしてみたら、やはりなんとなく宿題に向き合える。この場合、この子にはもしかしたら【学校から帰る→おやつを食べながらおしゃべり→宿題をする】というパターンが合っているのかもしれません。

これは、説得したり、教示したり、子どもの性格が変わったりしたのではなく、パターンを変えたことによって行動や心持ちが変わったのだといえるでしょう。お互いのイライラや不機嫌もなくなるので、そのあとの夕ごはんやお風呂、明日の準備、就寝にもよい影響を及ぼしそうです。

「いやいや、それくらいでうまくいくなら、とっくの昔にできているはず」「うちの子はそれくらいじゃ全然変わらない」。そう思ったかたも多いのではないでしょうか。はい、これはあくまで完全にうまくいった場合の例です。

「うまくいったとき」といわれると、「完全にうまくいったとき」をイメージするかたがほとんどではないでしょうか。実は、そこに落とし穴があります。

変化をもっと細かい段階に分けてみるのです。「ちょっとマシ」「マシ」「まあまあ」「いい」「めっちゃいい」の5段階くらいで捉えてみてください。多くの人は完全にうまくいった「めっちゃいい」しかイメージしていないので、目の前の状況を「ちっともよくなっていない!」と感じてしまいがちです。

「ちょっとマシ」を探してみる

実は、「ちょっとマシ」に変化の種が埋まっています。その種を見つけて水をやり、時間をかけて「ちょっとマシ」から「マシ」、その先へと育てていくのです。

まずは、「ちょっとマシ」を見つけてみてください。たとえば、いつもは「宿題は?」と3回言って、やっと子どもが宿題に取りかかっていたのに、今日は1回言っただけで宿題を始めることができた。これも立派な「ちょっとマシ」です。

ほとんどの子どもは、「ちょっとマシ」な状況だったときも、「いつもどおりにやった」としか思っていません。そのため、「いつもは3回言わないと宿題を始めないのに、今日は1回言ってできたからびっくりしちゃった!」と、大人がそれを言語化してあげてください。「うれしい」「すごい」よりも、「びっくり」「驚いた」と伝えたほうが効果的です。


(出所:『発達障害&グレーゾーンの子の「できた!」がふえる おうち学習サポート大全』)

もし話が続けられそうだったら、子どもに「今日はいつもと何が違ったの?」と聞いてみてください。明確な答えが返ってこなくてもOKです。子どもが「違いを気にした」こと自体に意味があります。


翌日には、また「宿題は?」と3回聞くことになるかもしれません。がっかりするかもしれませんが、1回でできた日があったことに意味がなかったわけではありません。また別の「ちょっとマシ」を見つけてみてください。

回数が減った、時間が短くなった、気持ちの切り替えがちょっと早くなった、自分から少し伝えられた、自分から確認しようとしたなど、「ちょっとマシ」なら、けっこう見つかるかもしれません。

少し高度ですが、「しようとした」も、ぜひ見つけて育てたい変化の種です。「今、自分から〇〇しようとしたね」と伝えると、まだやっていない行動でも「やろうとしたことを認めてもらった」と思えるので、次の変化へとつながりやすくなります。

(植木 希恵 : 「きらぼし学舎」代表、公認心理師)