アイビスSDはまれに見る大混戦。「前哨戦」で大敗した逃げ・先行馬の巻き返しに要注意
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――今週から夏の新潟開催がスタート。その開幕週には、国内で唯一の直線・芝1000mが舞台となる"名物重賞"GIIIアイビスサマーダッシュ(7月30日)が行なわれます。
大西直宏(以下、大西)アイビスSDは僕が現役だった頃、カルストンライトオで2回(2002年と2004年)勝たせてもらった思い出深いレースです。そして今年は、JRAのジョッキーカメラを数名の騎手に装着するとのこと。レース後の騎手目線の映像も含めて、とても楽しみにしています。
――「千直」と言えば"外枠有利"が常識ですが、2年前に1枠1番を引いた14番人気のバカラクイーンが内ラチ沿いを逃げるという"奇策"を試みて3着に入線。以降、開催当初の千直レースでは、内枠発走の馬は内ラチ沿いを行く馬が増えてきました。
大西 昨年のアイビスSDでも、内と外とで集団が分かれましたね。夏の新潟は馬場がとても良好ですし、内、外でそこまで馬場の差がない開幕週であれば、ああいう乗り方も有効かもしれません。乗る側として、攻略のヒントがひとつ増えたと言っていいでしょう。
また、ラチを頼って走らなくてもいい馬であれば、馬場の中央を行ってもそれほど不利はありません。いずれにしても、夏の開催当初の千直レースでは、春や秋の開催ほど"外枠が絶対ではない"ということを頭に入れておいたほうがいいでしょうね。
――さて、今年のレースですが、かなりの混戦模様。前走で馬券圏内に好走した馬が少ないこともあって、各競馬専門紙の印も割れています。
大西 このレースは、斤量面で3歳牝馬(斤量52kg)がとても有利なので、直前まで出走を予定していた快速馬リバーラが参戦していれば、チャンスが大きいと考えていました。しかし、同馬は不参加。そのため、混戦に一段と拍車がかかっています。
代わって、押し出される形で人気になりそうなのが、ジャングロ(牡4歳)でしょうか。これまでの戦績から、確かにこの舞台はうってつけに見えます。
ただ、前走のGINHKマイルC(東京・芝1600m)から、およそ1年3カ月ぶりという長期休養明けの一戦。脚部不安で戦列を離れてからここまで復帰が長引いて、その初戦がいきなり千直の電撃戦というのは、正直言って条件的にはラクではないと見ています。
加えて、今回手綱をとるのは戸崎圭太騎手。ふだんから調教にも乗っているような主戦ジョッキーならまだしも、まったくのテン乗りですから、息の持ちなどが心配です。この馬の扱いについては、直前まで見極めが必要だと思います。
――過去の結果を見てみると、斤量58kg以上を背負った馬は一度も馬券に絡んだことがありません。重い斤量を背負った馬は不利なのでしょうか。
大西 僕が騎乗したカルストンライトオもアイビスSD3勝目を狙った2005年では、GIを勝ったあとだったこともあり、斤量59kgを背負って出走。それもあってか、いつものようなテンの行きっぷりがなく、他馬にスピード負けしてハナに立つことができず、4着に終わりました。
これまで、アイビスSDで斤量58kg以上を背負って出走した馬は7頭いますが、いずれも逃げることができませんでした。やはり斤量が重くなると、最初のダッシュ力に大きな影響を与えるのは間違いありません。
――そうなると、58kgを背負うジャングロは斤量面においても厳しいかもしれませんね。代わって浮上するのは、好走例が多い「韋駄天S組」になるでしょうか。今年も同レース(5月21日/新潟・芝1000m)の出走馬が数多く参戦してきました。
大西 韋駄天Sが実質前哨戦扱いになっていますが、注意すべき点があります。同レースはスピード馬場ではない春開催の最終週に行なわれるので、時計がかかりやすいのが特徴です。実際に今年のレースも勝ちタイムは56秒5。時計がかかった分、最後は差し・追い込み馬が台頭しました。
アイビスSDでの良馬場の平均タイムは54秒2。それに比べて、2秒以上も遅いタイムだったことを考えると、求められるものも大きく異なっていたと思われます。
よって、当時の着順はあまり鵜呑みにはできません。そこを踏まえて、分析する必要があると思います。僕は当時のレースで差し・追い込みで上位にきた馬よりも、前で運んで最後に苦しくなった馬の巻き返しには注意すべきだと考えています。
――そういった面々のなかで、特に気になる馬はいますか。
アイビスSDでの大駆けが期待されるマウンテンムスメ
大西 韋駄天Sで1枠2番発走から、唯一内ラチを通って積極果敢に逃げたマウンテンムスメ(牝5歳)が面白いと見ています。同レースは9着に終わりましたが、先ほども述べたとおり、最終週の時計のかかる馬場はとてもタフですから、そこで最も馬場の荒れた内ラチ沿いを通ったのは、相当な不利があったと思います。
それでも、スタート直後のダッシュ力には目を見張るものがあり、そのまま残り1ハロンすぎまでは逃げ粘っていました。タラレバになりますが、もし外枠発走で外ラチを通っていたなら、違った結果になっていたかもしれません。
その後、芝1200m戦を2度使ってともに大敗を喫したことで、人気はさらに落ちそうな気配。しかしながら、千直という条件は大敗後でも巻き返すことが多いので、見限るのは早計かと思います。
ということで、アイビスSDの「ヒモ穴馬」にはマウンテンムスメを指名。同馬の先行粘り込みを期待したいと思います。