日本維新の会の馬場伸幸代表(写真:時事)

日本維新の会の馬場伸幸代表の「第2自民党でいい」発言が、政界だけでなくネット上でも炎上している。馬場氏は同発言に絡めて立憲民主、共産両党に対しても「いらない政党」との“暴論”を吐き、自民、公明両党も含めた他党の猛反発にも撤回拒否の構えだ。

維新は今年4月の統一地方選での大躍進以来、次期衆院選での野党第1党奪取に向け、政治的快進撃を続けている。ただ、今回の馬場発言は「自民党にすり寄る本音が出た」(立憲民主幹部)と受け止められ、「有権者の維新への期待を裏切ることになりかねない」(自民幹部)状況だ。

馬場氏の“問題発言”が飛び出したのは23日のネット番組「ABEMA的ニュースショー」。その中で馬場氏は自民と維新の関係について「第1自民党と第2自民党でいい」と発言。その一方で「立憲民主党がいても日本はよくならない」「共産党はなくなったらいい」などと言い放った。

共演者から野党の現状について「立憲からすれば、維新は第2自民党のような存在。自民と戦うのは自分たちで、第2自民党が戦うのは不健全(と考えている)」と水を向けられた際、自らの見解を披露した。

「第1、第2自民党の改革合戦」が国民のため

馬場氏はまた、「第1、第2自民党が改革合戦でどんどん改革をやって、国家国民のためになることを競い合う。それが政治をよくすることにつながる」と強調。「立憲がいらっしゃっても日本はなんにもよくならない」として、立憲・維新の連携についても「未来永劫(えいごう)ない。やるかやられるか、だ」と言い切った。

さらに共産についても「日本からなくなったらいい政党」と断言。「世の中にありえない空想の世界を作って、真剣にまじめに考えている人たち」と、政党としての存在そのものに疑義を呈した。

こうした馬場発言はただちにネット上を駆け巡り、他党はそろって「公党の党首の発言としては、度がすぎている」(自民幹部)と反発。やり玉に挙げられた泉健太・立憲民主代表は23日、遊説先の高知市内で記者団に「党名を『第2自民党』に変えていただくとよりわかりやすい。まったく(政権打倒を)やる気がなく自民党をサポートするということであれば、(選挙)協力はしようがない」と呆れ顔で批判した。

また、小池晃・共産書記局長も24日の会見で、「維新は自民政治を変えるつもりがなく、『自民党馬場派』だと認めたことになる」と指摘。「他の党の政策について批判する権利はどの党にもある。しかし、存在そのものを否定するのは民主主義を根本から否定する暴論」として発言の撤回を求めた。

馬場代表「謝罪や撤回をする気はまったくない」

こうした他党の批判、反発について、馬場氏は26日のネット番組で「日本という国家と国民のために政治家として信念、理念を持って発言している。謝罪や撤回をする気はまったくない」と繰り返した。

一方、維新の藤田文武幹事長も26日の会見で、馬場氏の共産党に関する発言について「代表には確認していないが、撤回する必要はまったくない」と同調。小池氏が維新本部に抗議文を突き付けたことについても「大阪では共産党さんも『維新退場、さよなら維新』とか、くそみそに言うが、私たちは何も抗議もしていない」と反論。「時の総理をヒトラーになぞらえて、ぼろかす言っていた政党の書記局長。党内から何か異論があれば除名してしまうような、そういうガバナンスの政党でもある」と皮肉たっぷりに指摘した。

しかし、ネット上では「馬場さん、あなたも同じようなことをやっていたのでは」「行動が矛盾している」などの指摘が相次ぐ。馬場氏は今年1月、立憲民主党最高顧問の菅直人元首相が維新創設者の橋下徹元大阪市長の言動について「ヒトラーを思い起こす」とツイッターに投稿したことに猛反発。国会内の菅氏の事務所を訪れ、抗議文を手渡したうえで、菅氏に対し執拗に発言撤回などを求めた経緯があるからだ。

その際馬場氏は、菅氏に対し「人として許される言動ではない。内閣総理大臣を務めた現職国会議員、野党第1党大幹部が、このような人権感覚、歴史観を著しく欠く無責任な対応に徹すれば、日本の国益をも毀損しかねない」などと口を極めて批判していた。

このため、ネット上では「馬場さん、今回のあなたの発言や政治姿勢は人権感覚、歴史観を欠く無責任な対応では」「馬場代表の発言に正当性はあるの?誠意ある態度を取っていますか?」などの批判が書き込まれた。

マイナカード問題の不手際は「チャンス」

突然「渦中の人」となった馬場氏は26日昼、多くの政財官マスコミ幹部が居並ぶ大規模な講演会で、「野党第1党」の座獲得を次期衆院選の目標として改めて挙げたうえで、「自民党と維新の二大政党制にして、政権奪取の争いをやっていきたい」と胸を張った。

講演の中で馬場氏は「自民党1強と多弱の野党という状況の中で、政治がなかなか前に進まない現状がある」と分析。維新を「改革保守政党」と規定し、自民党と対峙(たいじ)する存在になることへの強い意欲と自信を示した。

その後馬場氏は民放CS番組にも出演、マイナカード問題の不手際などで支持率が続落している岸田文雄政権について「落ちだすと、どんどん落ちていくというトレンドになっていく。当分上がらないと思う」などと指摘。さらに、これを「チャンス」として、次期衆院選に向けて候補者擁立を進めていく考えを示した。

さらに、都内で記者団に対し「第2自民党でいい」との自らの発言について、「わかりやすくするため、質問者の単語を使って回答した。保守の二大政党の意味合いで申し上げた。維新が『第2自民党』という党名に変えることは絶対にない」と苦笑交じりで釈明した。

悪名は無名に勝るが…

今、永田町には、うだるような炎暑の中、ほとんど議員の姿が見えない。「与野党問わず多くの議員は外遊か田の草とり(選挙運動)」(自民事務局)だからだ。しかも「党・内閣人事も秋口との見方から、政局はべた凪状態」(同)だ。だからこそ、馬場氏の言動ばかりが話題となるのが実態ともみえる。

もちろん「悪名は無名に勝る、悪評も無視されるよりはいい」というのが政界の定説ではある。しかし、各主要メディアなどの世論調査の「次期衆院選での比例投票先」で、立憲民主の倍以上で自民党の6割前後の数字まで上昇してきた維新の最大の売り物は、「自公政権に代わる新たな改革保守勢力誕生」(若手)とされる。

その維新のリーダーの「第2自民党でいい」や「立憲や共産はいらない」との発言は、「一部大阪周辺の熱狂的支持者以外は、『何か変な政党』として支持を考え直す可能性は少なくない」(選挙アナリスト)との見方が広がる。「政治家は言葉が命」だけに、今回の馬場発言が維新躍進での落とし穴になる可能性は否定できない。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)