偏差値35から東大合格へ。西岡さんが語る合格の秘訣は「地理」のおかげ?(写真:CORA/PIXTA)

受験では英語や数学、国語といった主要科目の勉強に時間を割きがちですが、現役東大生の西岡壱誠さんは「地理のおかげで東大に合格できた」と語ります。いったいなぜなのでしょうか。西岡さんの新著『いっせー先生と学ぶ 中学社会のきほん 60レッスン』を一部抜粋・再構成し、その背景に迫ります。

突然ですが、僕は高校2年生3月の模試の偏差値が35だったところから東大に合格した人間です。そして偏差値35のときに、まず真っ先に勉強を始めた科目は、「地理」でした。高校地理にはついていけなかったので、中学の社会の参考書を買って、そこから勉強を始めたのです。

マイナー科目の地理に時間を割く?

「地理」って、マイナーな科目ですよね。大学入試で使った経験のある人はほとんどいないのではないでしょうか?英語や国語・数学と比べて配点も低く、本来は地理に時間を割かないほうが受験戦略としては正しいように感じます。

しかし僕は地理のおかげで偏差値35を脱却し、英語や国語ではなく地理から勉強をスタートしたから東大に合格できたと考えています。

僕が地理の勉強を始めたきっかけは、ほかの科目に比べて学校の先生が優しかったから、というあまりにも消極的な理由だったのですが、結果的にはそれが大成功。むしろそうでなかったら僕は東大に合格できなかったとさえ思っています。

なぜそう思うのか?それは、地理が「教養を学ぶのに最適なツール」だと感じるからです。

地理って、多くの人が「世界の気候がどのようになっているのか」とか「国の首都がどこなのか」のような暗記モノだと、間違ったイメージを持っているのですが、実際は全然違います。

地形・気候・工業・資源・貿易・人口……。新聞に載っているような社会人の一般教養的な知識を、体系立てて学ぶことができるのです。

このような教養は、そのままほかの科目にもダイレクトに波及してきます。

英語の文章で、貿易・資源の話題がテーマになっている文章はとても多いですし、国語の評論文を読むときにも、少子高齢化の問題や、日本と他国との宗教や文化の違いに関するテーマが多いですよね。

理科でも世界の植生や気候を理解していれば解ける問題もあります。逆に、まったく地理の知識がない状態で教科書や問題文を読んでも、理解度が全然違うということがあるのです。

生活から出る疑問の答えを考える科目

そもそも地理とは、「『地』球上のことについて『理』由をつける科目だ」と言われています。

・なぜ、アジアには世界の人口の約6割が集中しているのか?
・なぜ、暑い季節と寒い季節があるのか?
・なぜ、日本は自動車産業が栄えたのか?

このような、普段の生活から出てくるような「なぜ」に対する答えを考える科目だと言えるのです。このような「なぜ」を考えることは楽しいですし、普段から頭を使う習慣を身につけさせてくれます。

東大の入試問題でも、こんな問題が出ています。これは、正直に言うと、小学生でもラクに解ける問題です。

長野県と茨城県はともに農業生産の盛んな地域として知られており、レタスの生産量は全国1位と2位[2017年]であるが、出荷時期は大きく異なる。その理由を、地形的要因と経済的要因の両面から述べなさい。(2020年 東大地理より)

みなさんはこの問題の答えがわかりますか?

「出荷時期」が大きく異なる、と書いてありますが、これは長野県の抑制栽培を示しているとわかる人が多いのではないでしょうか。

長野県は山が多く、高山なので冷涼な気候が広がっています。それを利用して、旬の時期をずらした栽培方法・抑制栽培が行われています。

一方で茨城県は、どんな栽培を行っているのでしょうか?

少し話を脱線すると、みなさんはコンビニやスーパーなどで牛乳を買ったことはありますよね。

その牛乳がどこで作られたものなのか調べたことがある人はいるでしょうか?みなさんが東京で牛乳を買ったなら、その原産地は「群馬県」や「栃木県」、「千葉県」など、関東地方の近隣の県が書かれている場合が多いです。

北海道で作られているイメージがあるはずですから、少し意外かもしれません。群馬県や栃木県には、牛乳のイメージはないですよね。なぜここで牛乳が作られているのでしょうか?

この答えは、実は小中学校の社会の教科書に載っています。「近郊農業」です。

早く食べたほうがいいもの・鮮度が大事な食べ物は、消費地の近くで作って、移動にコストや時間をあまりかけないようにするわけです。そう考えると、牛乳というのは賞味期限が短く、鮮度が大事になってきます。北海道で作った牛乳を東京に持ってこようとしたらそれだけで時間も労力もかかってしまうので、牛乳は関東近辺の地域で作られる場合が多いわけですね。

茨城県で作られているのは、これとまったく同じ理由です。大市場の近郊で栽培することで、輸送費を抑えられるため、茨城県でレタスは作られているのです。そして、「出荷の時期」が問題で触れられていますが、茨城県では当然旬の時期・春と秋になります。そしてその間の夏の季節には、長野県で作られているというわけですね。

普段から意識していないと大人でも解けない

この問題、知識としては本当に小学生レベルの話です。しかし、しっかりと毎日食べるものがどこで作られているのかを意識したことがないと、大人でも東大受験生でも、解けない問題になっています。

普段から、「なんでだろう?」と考える習慣がないと解けない問題であり、東大は地理という科目を通して、そういう「なぜを問う能力」を身につけることを求めていると言えるでしょう。

僕は、「なぜを問う能力」こそが、頭のよさを作ってくれると感じます。どんなに勉強したものを覚えたとしても、この能力がなければそれを活かすことはできませんし、そもそも簡単に忘れてしまいます。

ただ丸暗記したものより、「なぜそうなるのか」を理解したほうが忘れませんよね?「レタスの全国1位と2位の生産地は長野県と茨城県」と言われても明日には忘れているでしょうが、「レタスは抑制栽培が行われる高山が多い長野県と、近郊農業が行われる東京をはじめとする関東大都市圏の近くにある茨城県」と言われたら忘れにくくなると思います。

思考し、「なぜ」を考えるという能力は、頭をよくするために欠かせないものだと僕は思います。

地理の勉強からのスタートがお勧め

ということで、大人の方も子供の方も含めて、「これから頭がよくなりたい」という方はぜひ、地理の勉強からスタートするとよいのではないでしょうか。もし自信がないのであれば、僕がそうであったように、中学社会からでも大丈夫です。

意外と中学社会の知識でも「あれ?これなんだったっけ?」とわからなくなってしまうこともありますし、その知識がしっかり定着していれば、先ほどの問題が解けるレベルにまで到達できると思います。みなさんぜひ、参考にしてみてもらえればと思います。


(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)