生成AIと著作権に関する論点について解説します(写真:tadamichi/PIXTA)

生成AIを使って画像などを生成する人が増えていますが、例えば既存の著作物の機械学習や、画像などを生成したり、ネットにアップすることは著作権違反にあたらないのでしょうか。本稿では、『ChatGPTの法律』の共著者の1人である田中浩之弁護士が、生成AIと著作権に関する論点について解説します。

生成AIの開発・学習段階の問題

著作物とは、思想、または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するものを言います。典型的には、論文・絵画などがこれにあたります。たんなる事実・データは、著作物にはあたりません。

ただし、データベースでその情報の選択、または体系的な構成によって創作性を有するものは、著作物として保護されます。裁判例では、タウンページデータベースは著作物性が認められています。また、著作権法は、「表現」を保護していますので、表現を離れた抽象的なアイデアは著作物にはなりません。

著作物は、情報解析その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら「享受」し又は他人に「享受」させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度で、著作権者の許諾なく利用可能です(著作権法30条の4)。

著作権は、文章を読んだり、写真や絵画を鑑賞したりして楽しむこと(享受目的利用)については及びますが、非享受目的利用については及ばないことになります。生成AIを開発する機械学習も情報解析として非享受目的利用にあたりますので、原則として、著作権者の許諾なく行うことが可能です。

早稲田大学の上野達弘教授は、日本は「機械学習パラダイス」だと言っています。日本では、営利目的の機械学習についても著作権が及ばないことが明文化されていることが外国法に比べた特徴です。

ただし、当該著作物の種類、および用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この非享受目的利用の例外の条文は及びません。たとえば、大量の情報を簡単に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されていて、これをそのまま情報解析に使ってしまう行為は、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」にあたると考えられています。

また、享受目的利用であっても、著作権法47条の5で定める軽微利用の範囲であれば、そのための機械学習も著作権者の許諾なく行うことができます。この条文は、たとえば、検索エンジンで検索した際に、ウェブサイトの一部をスニペットで表示したり、書籍などの所在検索サービスで書籍の一部を表示したりすることを著作権法上適法に行うことの根拠にすでに使われています。生成AIでも態様次第で、この条文の活用の余地があると言えます。

機械学習を禁止することはできるのか

たとえば、自社のウェブサイトの利用規約などにおいて、著作物の機械学習を禁止とした場合に、上記の著作権による機械学習を幅広く許す非享受目的利用の例外の条文に優先するのかどうかの議論がありますが、現時点では、必ずしも法的結論が明らかではありません。

そこで、自社のウェブサイトからのスクレーピングによる学習用データの収集を禁止したい事業者は、利用規約などに頼らず、技術的に対処すべく、スクレーピング防止技術を導入するケースがあります。

また、スクレーピングなどにより学習用データを収集し、機械学習を行う事業者も、このような行為は、法的には著作権者の許諾なく許されるとの立場は採りつつも、幅広い学習用データの収集と機械学習が著作権者への配慮を欠くとの批判を受けることによるレピュテーションリスク等も考慮して、学習用データの収集や機械学習を望まない著作権者からのオプトアウトを受け付ける等の一定の対応を行うケースもあります。

生成AIによるコンテンツ生成・利用段階の問題

生成AIによるコンテンツ生成と利用についての問題があります。生成AIにより生成されたコンテンツに、既存の著作物との類似性と依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)が認められ、著作権法が定める利用行為(複製・翻案等)に該当すれば、著作権侵害が原則として成立します。

たとえば、個人や家族で画像生成AIによる画像生成を楽しむ行為のように、私的に鑑賞するため著作物を生成するといった行為は、私的複製に該当し、著作権侵害にはなりません。しかし、生成物をインターネットにアップロードする行為などについては、私的複製ではカバーされず、著作権(公衆送信権)侵害の責任を負わなければならないことに注意が必要です。

また、企業による内部利用は私的複製には該当しないことにも注意が必要です。企業による内部利用でも、著作権法が定める検討過程における利用にあたれば著作権者の許諾なく行うことが可能ですが、その範囲はかなり狭いことになります。著作権侵害は民事上の差止め・損害賠償などの対象となるほか刑事罰もあります。

著作物を知りつつ類似著作物を出力させる問題

前述したとおり、著作権侵害は、既存の著作物への依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)がある場合にのみ認められるため、偶然に既存の著作物と類似の著作物が生成された場合には著作権侵害は成立しません。

依拠性の判断基準が問題になりますが、依拠性は、生成AI利用者側と提供者側それぞれに認められる要素があり得ます。

学習用データに当該著作物が入っておらず、生成AI利用者も当該著作物を知らない場合には、依拠性は認められないと考えられます。生成AI利用者が当該著作物を知りつつ、類似した著作物を出力させた場合には依拠性が認められると考えられそうです。

最大の論点は、学習用データに当該著作物が入っており、結果的に類似の著作物が生成されれば、生成AI利用者が当該著作物を認識していない場合でも依拠性を認めるかです。この点については、意見が対立していますが、現時点では、依拠性を認めるべきという見解の方が比較的強いと言えると思われ、この見解を念頭においた対応が実務上求められると言えます。

もっとも、著作物が創作的表現としてではなくパラメータ(特徴量)として抽象化・断片化されている場合等は、アイデアを利用しているにすぎず依拠を認めるべきではないとの見解も有力に主張されています。

生成AI利用者がプロンプトに著作物を入力することが私的複製などの別の例外にあたらない場合、上記の非享受目的利用例外(著作権法30条の4)にあたるかが問題となります。学習・開発段階よりは相対的にはこの例外は充足しづらいことになり、たとえば、既存の画像を入れて類似の画像を出力させるような場合は享受目的利用になり、例外にはあたらないと考えられます。

また、生成AI利用者がプロンプトに画風・作風を入力することについては、単なる画風・作風については一般的にはアイディアであり、画風・作風が類似しているからといって、表現としての類似性が認められる訳ではありません。もっとも、○○風といった形で、作者の名前をプロンプトに入れると、実際にも、元作品に近いものが引き出されやすくなるため、避けた方がいいと思われます。

生成AIからコンテンツを生成した場合には、侵害における依拠性を争ったり、著作権帰属を主張するために、創作過程を記録に残しておくことが有益です。

AI生成物の著作権による保護

生成AIで生成したコンテンツに著作権が発生しない場合には、他人に対して著作権の行使ができなくなってしまいます。

AIが自律的に生成したものは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しない一方で、人間が思想感情を創作的に表現するための(絵筆と同じような)「道具」としてAIを使用している場合は、著作物になり、生成AI利用者が著作者になります。

そして、人間がAIを道具として使用したと言えるかは、人間の「創作意図」があるかと「創作的寄与」があるかがポイントになります。

「創作意図」は、通常簡単に認められるためあまり問題にならず、「創作的寄与」がどのような場合に認められるのかが主に問題となります。

ケースバイケースであるものの、文書生成の場合は、プロンプトは単なるアイデアの場合が多く、出力された生成物についての創作的寄与が認められにくい傾向にあると思われます。

画像生成の場合も、単純な一回的な文章のプロンプトであれば、生成物に対する創作的寄与は認められにくいと思われます。もっとも、プロンプトについて、何度も入力し直したり、複数画像からの選択を繰り返すなどのさまざまな試行錯誤をして生成物を完成させた場合には、創作的寄与が認められる場合があると思われますが、どのレベルの試行錯誤があればこれが認められるのかははっきりしません。

AI生成物に人間が手を入れて直接修正すれば、手を入れた部分のみについては、人間に著作権が発生します。

生成AIの利用規約に注意


以上のとおり、AIが作ったコンテンツについては、著作権が発生しないため、生成AIで作ったことを隠して、人間が作ったことにしてしまうという問題があります。これを直接著作権法違反の刑事罰で取り締まることは、現在の条文では困難であるとされています。もっとも、生成AIとの利用規約において、AI生成物についてAI生成物であると表示することが義務づけられている場合があり、この規約に違反することになります。

その他にも生成AIとの利用規約との関係では、著作権が自分に帰属する定めになっているか、そうであるとして、他人への行使が制限されていないかを確認する必要があります。誰でも自由に使える/他の登録ユーザは自由に使えるといったルールになっている可能性があります。

また、生成AIで生成されたコンテンツについて商用利用などの制限がないかも確認して、当該制限に抵触しない範囲で使うことも必要です。

(田中 浩之 : 弁護士・ニューヨーク州弁護士(森・濱田松本法律事務所))