日本では珍しい、鳩・ウサギ・カエル料理(写真:筆者提供)

都内近郊で増え続けるガチ中華料理店。ほかの店と差別化を図るためにオーナーが趣向を凝らし、これまで日本では食べられなかったような地域の料理を出す店が増えたり、中国ではやっている料理を出す店も登場している。

そんななかで、ウサギや鳩、カエルなど、日本でなじみがない食材を使った料理を出す店も少しずつ増えてきている。今回はこれらの珍しい食材を使ったガチ中華料理を紹介したい。

四川ではよく食べられる「ウサギ料理」

まだ数店舗ではあるが、日本でも食べられる店が少しずつ増えてきているのがウサギを使った料理だ。中国の西南部に位置する四川省ではウサギがよく食べられており、ウサギの頭まで食べる。筆者が四川省の省都、成都で屋台を歩いたときには、ウサギの頭を辛く煮込んだ麻辣兔頭をよく見かけた。

スペインやフランスなどでも食べられているウサギだが、世界の消費量のうち30%が中国で消費されていて、そのうち70%は四川省で消費されているというデータもある。

日本でも戦時中までは軍需品用の毛皮を調達する目的で飼育されていたことから、ウサギ肉も食べられていたが、戦後以降は需要が減り、食用の文化はなくなってしまった(秋田県では今でも食用目的で飼育している地域がある)。

都内では高田馬場にある『小米椒』、上野の『蓉城飯局』、茨城県つくば市にある『麻辣十食』などでウサギを使ったガチ中華料理を食べることができる。

ウサギ肉は脂肪が少なめだが柔らかく、鶏肉に近いような食感だ。炒めても煮込んでも美味しく食べることができ、激辛料理が多い四川料理とも相性がよい。


ウサギの炒め物(写真:筆者撮影)

『小米椒』では塩漬けウサギの激辛炒めが、『蓉城飯局』や『麻辣十食』ではウサギの麻辣冷菜(中華料理で前菜として出る冷たい料理)などに加えて、四川名物の麻辣兔頭も提供している。(ウサギの仕入れ状況により品切れの場合も多いので、事前に確認が必要だ)


四川名物の麻辣兔頭(写真:麻辣十食提供)

なお『蓉城飯局』ではスペイン産のウサギを、『麻辣十食』では秋田県産のジャンボウサギを使用している。『麻辣十食』のオーナーの孫麗さんは「当店では日本でもウサギを食べる習慣がある秋田県のジャンボウサギを使っています。なかなか手に入らない希少なウサギの頭も、数量限定で麻辣兔頭として販売しております。四川省ではよく食べられている料理で、とても美味しいのでぜひ食べてみてください」と話す。筆者も『麻辣十食』まで遠征に行き、ウサギ料理を食べたがとても美味しかった。

広東料理の鳩の丸焼き

鳩を使った料理も、提供する店が少しずつ増えている。中国の南部に位置する広東省や、香港などでは鳩の丸焼きが高級料理として食べられているが、東京で広東料理を扱う店でも鳩料理を見かけるようになってきた。


鳩料理(写真:筆者撮影)

鳩もウサギと同じようにフランスなどで食べられている食材だ。もちろん日本の街中で見かけるような鳩ではなく、養殖した食用の鳩が食べられている。ガチ中華料理店で使用されている鳩は、中国から輸入したものがほとんどだ。

TIT TRADINGでは中国から鳩や乾燥松茸、トリュフなどを輸入し、卸売業者経由でガチ中華料理店に卸している。

同社代表取締役の陳静さんはもともと赤坂の有名広東料理店向けに中国から鳩の輸入をしていたが、品質がよいと口コミが広まり、卸売り業者にも卸すようになったという。

鳩は広東省の養殖場で養殖されたものを使用しており、今では日本で50店舗以上の中華料理店で使用されている。


広東省の養殖場で養殖されている鳩(写真:TIT TRADING提供)

ほかにも松茸やアミガサタケ、トリュフなどの高級食材を輸入しているが、国産やヨーロッパ産のものと比べると安いため、中華料理店だけでなく日本食やフレンチの店からもよく利用されているそうだ。

都内では高級広東料理店をはじめ、池袋にある香港料理店の『江記』や高田馬場の香港料理店 『鴻運』などで食べることができる。また中華料理ではないが、2020年には赤坂に鳩肉料理専門店の鳩肉屋もオープンした。

鳩肉は鶏肉よりも赤身肉が多くレバーのような風味を感じられるのが特徴だ。鶏肉よりもカロリーが低く、たんぱく質を多く含むためトレーニングやダイエット中の人にも嬉しい食材だ。筆者も池袋の『江記』で鳩の丸焼きを食べてみたが確かに肉質がしっかりとしていて濃厚な味わいだった。

多くの店で見かけるカエル料理

上記で紹介したウサギや鳩よりも、日本でも食べられる店が多いのが、カエルを使った料理だ。

ウサギは四川省、鳩は広東省など食べられる地域がある程度決まっているが、カエルは中国の広い地域で食べられている。食用として食べられているのはウシガエルだ。

ウサギや鳩と違い、中国やベトナムなどから広く輸入されているため中華物産店やベトナム物産店でも冷凍のカエルを見かけることも多い(カエルだとわかるような、そのままの形で売られている)。

カエルは鶏肉と白身を足して2で割ったような食感で、脂肪分が少なく鶏ささみのような味だ。さっぱりとした肉質なので濃いめの味付けで食べられることが多く、四川料理の店などではカエルの麻辣炒め(干鍋牛蛙)がメニューにあることも多い。

具材の手に入れやすさや、日本で暮らす中国人の需要も比較的高いことから、カエル料理の専門店も存在している。

西川口や上野に店を構える『安老爺炭火蛙鍋』はカエル肉を使った汁なし鍋の専門店だ。中に炭火が入った銅鍋にはピリ辛に味付けされたカエル肉やジャガイモなどがたっぷり入っていて見た目も美味しそうだ。


カエルを使った汁なし鍋(写真:筆者撮影)

鍋は2段、3段にすることも可能で、牛肉や鶏肉、ザリガニ、海鮮など具材を変えた鍋を楽しむことができる。プリッとした肉に濃いめのピリ辛タレが染みていてビールによく合う味付けだ。

2023年3月に上野にオープンした『蛙吃嗷』は重慶式の麻辣火鍋の店だが、カエルが火鍋の具材の看板メニューになっている。


火鍋の具材になっているカエル(写真:筆者撮影)

同店のカエルはほかの店のカエルと比べて大きい。オーナーの張靖東さんによれば中華物産店などで購入したものではなく自社の独自ルートで輸入しているため品質が安定しているそうだ。

店内もカエルの人形が飾られていたり、カエルを前面に押し出した装飾になっている。食べるまでに少し勇気がいるカエルだが、一度食べるとその食感にハマってしまうのでぜひ食べてみてほしい。

ザリガニや羊の丸焼きを提供する店も

ほかにもザリガニや羊の丸焼きが食べられる店など、ここ数年のガチ中華ブームによって日本でも食べられる店が少しずつ増えている。競争の激化によって、今後もめずらしいガチ中華料理が日本に流入し、選択肢が広がることに期待したい。

(阿生 : ライター)