この夏、ヨーロッパのビッグクラブが次々と来日し、東京や大阪などでプレシーズンマッチを行なっている。マンチェスター・シティ(イングランド)、パリ・サンジェルマン(フランス)、インテル(イタリア)、バイエルン(ドイツ)、セルティック(スコットランド)と、その顔ぶれはなかなかに豪華だ。

 なかでも際立つ人気を博しているのが、マンチェスター・シティ。わずか1カ月半ほど前にUEFAチャンピオンズリーグを初制覇したばかりのマンチェスター・シティは、横浜F・マリノス、バイエルンと対戦した試合で、いずれも国立競技場に6万人を超える大観衆を集めている。

 他クラブの試合では、チケットの高額な価格設定が足を引っ張ってか、空席が目立つケースも少なくないだけに、注目度の高さは群を抜いていると言っていいだろう。

 もちろん、人気だけではない。

 まさに今が旬の現役欧州王者は、まだまだ調整途上のプレシーズンマッチとはいえ、ピッチ上で質の高いサッカーを披露。横浜FMを5−3、バイエルンを2−1と下し、連勝で日本ツアーを終えている。

 戦術的完成度の高さといい、選手層の厚さといい、さすがはクラブ史上初の三冠(プレミアリーグ、FAカップ、CL)を成し遂げたチームである。

「強かったですね」

 マンチェスター・シティとの対戦後、そう切り出したのは横浜FMのキャプテン、MF喜田拓也だ。

「引きたくなかったし、尻込みしたくなかった」

 そんなキャプテンの言葉どおり、昨季J1王者の横浜FMは欧州王者に真っ向勝負を挑み、実際に2点のリードを奪う健闘を見せている。

 しかしその後は、マンチェスター・シティの猛攻を浴び、5点を失っての逆転負け。実力の違いを見せつけられる結果となった。喜田が続ける。

「ビルドアップもチャレンジしながら前にいきたかったし、プレスもできるだけ前からいって、(ボールを)引っ掛けてチャンスを作りたかったけど、やはりクオリティで凌駕された部分もあった」

 スカイブルーのユニフォームを身にまとった選手たちは、一瞬にして難解なパズルを解いてしまうがごとく、次々に立ち位置を変えながら、流れるようにパスをつないでいく。マンチェスター・シティは選手個々のレベルが高いだけでなく、チームとしての戦術的練度も高かった。

 喜田は「それを体感するために、自分たちのよさを出しにいったというのもあるので」と言いながら、「やっぱり、(選手個々の動きが)つながっていますよね」と、肌で感じたシティの強さを苦笑まじりに述懐する。

「2人目までじゃなくて、3人目、4人目まで同じ絵を描けているのをすごく感じた。そんなに難しいことをしてるわけじゃないけど、縦に(パスを)入れたら絶対にサポートがひとりいるとか、そういう基本的なことを全員がちゃんとやることによって、逃げ道もあるし、次へのルートも簡単に作れる。

 言葉で言うのは簡単だけど、その距離感を作ることだったり、共通理解を経て試合を進めていくのは、そんなに簡単なことじゃない。そのクオリティは高いな、と。それだけで(自分たちのプレスが)外されちゃうことがあるので、そこの共通理解はやっぱり高いなと思った」

 喜田の言葉を借りれば、「ビルドアップの配置、構造、クオリティで一枚上手」だったマンチェスター・シティ。とりわけ目を引いたのが、昨季CLを勝ち上がるなかでも話題になった、DFジョン・ストーンズの巧みなポジション取りである。


卓越したビルドアップを見せるマンチェスター・シティにあって、とりわけ際立っていたジョン・ストーンズ

 守備時には4バックの右センターバックに入るストーンズは、しかし、攻撃時にはポジョションを1列上げ、自身の役割をボランチへと移す。

 マンチェスター・シティならではの可変システムを効果的に機能させるために不可欠な背番号5は、画面を通して映像で見る以上にダイナミック、かつ正確なプレーを披露。2点ビハインドの状況で反撃の狼煙を上げるゴールを決めたのも、ストーンズだった。

「(ストーンズが)ボランチに上がってくるイメージは持っていたけど、だた上がってくるだけでなく、自分がフリーだったらドリブルで運んでくるし、ゴール前にも入ってくる。あそこまで動くとは思っていなかった。センターバック(の選手)であのプレーができるとなると、どうしようもない。中盤がひとり増えることで、常に数的不利だった」

 そう振り返ったのは、喜田とのコンビで2ボランチを務めた、MF渡辺皓太である。今季J1で出色の働きを見せるボランチは、なかば呆れ顔で相手の"偽センターバック"についてこう語る。

「(自分の周りに)常に相手がいっぱいいるみたいな感覚で、ボールを取りにいこうにもいけなかった。相手は選択肢が3つ、4つある感じで、余裕を持ってプレーさせてしまった印象がある」

 ならば、どう対応すべきだったのか――。

 そんな問いに対して、「本当は(ボールを)取りにいきたかったけど、なかなか取りにいけなかった。マンツーマンでハメていくことができればいいけど、(1対1の局面を)個人ではがされたりもするんで......」と渡辺。

「Jリーグでは経験できない相手だったので、正直、今はまだ何が正解かわからない」と、素直な気持ちを口にした。

 マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督が「(横浜FMは)切り替えが早く、難しい試合になった」と話していたように、横浜FMはボールを保持して相手を押し込み、素早い攻守の切り替えを連続して行なうことで、主導権を握る戦いを得意としている。

 つまりは、マンチェスター・シティと共通するスタイルを志向しているチームであり、だからこそ、マンチェスター・シティのスゴさを真に理解できるチームだとも言える。渡辺は脱帽のていで、感嘆の声を上げる。

「自分たちがああいうサッカーをしたいと思っているので、本当にいい参考になった」

 たかがプレシーズンマッチ。されどマンチェスター・シティ。

 欧州王者は日本の酷暑をものともせず、"本物"の力を見せつけた。