シトロエン「ベルランゴ」、プジョー「リフター」、フィアット「ドブロ」3姉妹(写真:Stellantisジャパン)

フィアットの新型MPV(マルチパーパスビークル)「ドブロ」が日本に上陸した。といっても輸入車にくわしい人であれば、似ているクルマがあることに気づくだろう。

そう、プジョー「リフター」とシトロエン「ベルランゴ」の姉妹車なのである。


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今やフィアットとプジョー、シトロエンは、ジープやアルファ・ロメオなどとともに、ステランティスという企業グループの擁するブランドとなった。ステランティスは2021年に結成され、その成果が日本で目に見える形で現れた最初の事例が、ドブロと言える。

ドブロはステランティス誕生以前からあって、今回発売されたのは3代目。初代と2代目はフィアット独自の設計だった。その後、ステランティスが生まれたことで、新型はリフターやベルランゴと基本的構造を共有することに決まったのだろう。

とはいえ、ヨーロッパよりもイタリア車やフランス車のシェアが多くはない日本で、なぜプジョーやシトロエンに続いてフィアットのMPVが投入されたのだろうか。理由の1つに、販売ネットワークの違いが挙げられる。

フィアットもプジョーもシトロエンも、以前から日本で販売をしていた。フィアットはアバルトとともに販売を行うディーラーが多く、現時点ではプジョーやシトロエンとはネットワークは別だ。


ドブロはモノグレードで399万円、ロングのドブロ マキシが429万円(写真:Stellantisジャパン)

つまり、ドブロとリフター、ベルランゴの関係は、日本車で言えばトヨタ「GR86」とスバル「BRZ」、日産「サクラ」と三菱「eKクロスEV」に近い。

しかも、フィアットのそれまでのラインナップは「500」「500e」「パンダ」といった、Aセグメントというヨーロッパで最小のクラスに属する車種が中心で、唯一の例外になる「500X」もBセグメントと、ファミリーユースに向くCセグメント以上がなかった。インポーターでは、その点も考えてドブロを投入したという。

似ているようでいろいろ違う

では、この3車はどんな差別化をしているのか。エクステリアから見ていくと、キャビンまわりは共通でも、それ以外はいろいろ違うことがわかる。

ドブロはプレーンな顔つき、ボディ色のフロントピラー、シンプルなサイドプロテクター、ブラックのホイールなど、道具感が強い。フィアットブランドの中では、500よりもパンダや大型商用車「デュカト」とのつながりを感じる。

ベルランゴは、ダブルシェブロンのエンブレムから左右に伸びる2本のモール、上下2段のヘッドランプなど、シトロエンらしく個性的な顔つき。ボディサイドでは「C3」などにも使われる「エアバンプ」が目立つ。


ベルランゴが422万7000円〜455万4000円。写真はシャインXTRパック(写真:Stellantisジャパン)

ベルランゴは、グレードが多いのも特徴だ。ドレスアップバージョンの「シャインXTRパック」では、フロントバンパーやエアバンプにオレンジの差し色が入り、ホイールはシルバーになって、ぐっと華やかになる。

リフターは、独自の部分が多い。カチっとした顔つき、前後のフェンダーアーチとその間をつなぐサイドシルのプロテクター、前後のアンダーガード風アクセントなど、SUVっぽいたけだけしさがある。


リフターもドブロと同様モノグレードで、標準ボディが436万8000円、ロングが455万円(写真:Stellantisジャパン)

2列シート5人乗りの標準ボディと3列シート7人乗りのロング(ドブロはマキシと呼ぶ)があることは、3車種共通。前者のサイズは、ドブロとベルランゴは共通で全長4405mm×全幅1850mm×全高1850mmだが、リフターは全高が1880mmとなる。タイヤも大径かつワイドで、ここからもSUVテイストが感じられる。

ヨーロッパでも日本でも、3車種のライバルとしてルノー「カングー」は外せないだろう。


最大のライバルとなるカングーはガソリンとディーゼルがあり、395万円〜(写真:ルノー・ジャポン)

そのカングー、今年日本で発売した新型では、ブラックバンパーの「クレアティフ」とカラードバンパーの「インテンス」が選べる。ドブロには、カングークレアティフ対抗という役目もあるのではないかと考えている。

インテリアはリフターの差別化が大きい

続いてインテリアに目を移すと、こちらもドブロはシンプルさが際立つ。黒ベースでドアトリムの一部とシートのステッチにブルーが入るぐらいだ。


ドブロのインテリア(写真:Stellantisジャパン)

ベルランゴはシートがブラックとグレーの2トーンになり、境目に白い帯が入るうえに、中間グレードの「シャイン」ではインパネ助手席側に、昔の旅行鞄を思わせるライトグレーのストラップが追加される。


ベルランゴ シャインXTRパックのインテリア(写真:Stellantisジャパン)

ひときわ目立つのがシャインXTRパックで、シートにはオレンジのアクセントラインが入り、インパネやドアトリムにはモスグリーンのパネルが加わって、アウトドアテイストが一気にアップする。キャンプで一番映えるのは、これだろう。

さらに差別化されているのがリフターで、最近のプジョーではお馴染みの小径ステアリングと、奥に置かれたメーターが与えられる。


リフターのインストルメントパネル(写真:Stellantisジャパン)

センターのダイヤル式ATセレクターの脇に、オフロードモードの小さなダイヤルが備わるのも特徴で、このあたりもSUVっぽい。

リフターのグレードはボディの長短を問わず「GT」のみで、インパネ、ドアトリム、センターコンソール、シートのステッチなどにブラウンをあしらっており、チェックのファブリックシートともども大人っぽい雰囲気だ。


リフター ロングのインテリア(写真:Stellantisジャパン)

リフターおよびベルランゴのシャイン以上の標準ボディには、センターにスケルトン仕立てのトレーが貫く個性的なガラスルーフがつき、リアにも上着などを入れるのに便利なシーリングボックスが備わる。ドブロでは得られない仕掛けだ。


シトロエンではMODUTOP®と呼ぶパノラミックルーフ(写真:Stellantisジャパン)

シートアレンジは3車共通で、標準ボディでは助手席と3分割の後席が背もたれを前に倒すと座面が沈み込み、低く畳める。マキシあるいはロングの3列目は、左右独立の取り外し式だ。頻繁に脱着するのは大変だろうが、使わないときに場所を取らないという利点もある。

「個性を大事にする」クルマづくり

パワーユニットは3車共通で、130ps/300Nmを発生する1.5リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンに、トルコン式8速ATの組み合わせ。ただし、標準ボディで比べると、ベルランゴはドブロの40kg増し、リフターはベルランゴの50kg増しなので、ドブロがもっとも走りに活気がある。


軽さが走りの魅力となっているドブロ(写真:Stellantisジャパン)

そう感じさせるもう1つの要素に、遮音性がある。某誌の取材で比較したとき、ドブロだけ少しだけにぎやかなので調べてみると、ドアのウェザーストリップの長さがリフターやベルランゴと違っていた。軽量化だけでなく、フィアットらしさの演出を考えた結果かもしれない。

乗り心地とハンドリングは、それぞれ数台を乗った経験から言えば、ドブロとベルランゴは似ていて、どちらもシトロエンらしい。つまり、ドブロはフィアットとして見れば、すべての動きが鷹揚(おうよう)だ。でも、標準ボディにおける凝ったガラスルーフの有無の差はあって、ドブロのほうが身のこなしは軽快で、コーナーでのロールは控えめだった。


ベルランゴのインストルメントパネルは基本的にドブロと共通(写真:Stellantisジャパン)

リフターは他の2台とは一線を画していて、小径ステアリングはクイックな反応を示すし、サスペンションはやや固め。ゆえに車高の高さからくる不安感もなく、全体的に重厚なフィーリングだ。

このように、同じ基本設計を有するステランティスのMPV3姉妹は、実際はデザインだけでなく乗り味にも少しずつ違いがある。しかも、それがフィアット、シトロエン、プジョーというブランドイメージに合致している。個性を大事にするヨーロッパのクルマづくりは、こういう成り立ちのクルマであっても健在なのである。

(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)