「すぐに叱る」子育て法は、逆効果になってしまいます。脳科学的観点から、子どもの脳と「ダメ子育て」を解説します(写真:sasaki106/PIXTA)

子育て分野の科学研究は日々進んでいます。これまで個人の体験や感想だけを根拠に「絶対に正しい」「効果的だ」と言われてきた子育ての中にも、どうやらそうではない「ダメ子育て」があるということが、最新の研究結果からわかってきました。

しかし、残念ながら、そうした最新の科学の成果のすべてが、素早く子育てや教育の現場に伝えられて、実践されているわけではありません。

そこで、『「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと』の著者、アメリカのスタンフォード大学・オンラインハイスクールで校長を務める星友啓氏が、最新科学が明かした、子どもの心と知能を効果的に伸ばす方法について、家庭でも簡単に実践できるものを厳選して紹介します。

脳科学的には逆効果、「すぐに叱る」子育て法

ゲームやテレビを約束の時間を過ぎてもやめられなかったり、遊び場からいつまでも帰ろうとしなかったり、食べてほしいものを食べてくれなかったり……。

このような「ヤダヤダ」や「ケンカ」などの例は子育てのあるあるです。

子どもが子どもである限り何をするべきか教えたり、それはなぜかを教えてあげたり、子どもがやったことがなぜダメなのかを説明してあげるべき──。

この「すぐに叱る」子育て法は、非常におなじみで、幅広く実践されている方もいらっしゃるかと思います。そしてそれは、すぐにやってあげると効果的! なぜなら、後からでは忘れてしまうから。鉄は熱いうちに打て!

しかし、「すぐに叱る」子育て法は、脳科学的には逆効果になってしまうのです。子どもの脳の成長過程を理解して、注意して声かけしていく必要があります。それでは、子どもの脳について、少し解説していきましょう。

子どもがカッとなりやすい脳科学的な理由

うれしかったり、悲しかったり、怒ったり、楽しかったり、不安に感じたり、怖かったり、驚いたり……。

人間の脳はそうした感情を感じる働きを持つ一方で、論理的に考えたり、分析したり、言語化したりといった、理性的な働きも持ち合わせています。そして、その感情的な働きと理性的な働きは、それぞれ脳の違う部分でカバーされています。

たとえば、大まかなイメージとして、「右脳が感情の働きで左脳が理性的な働き」などといわれています。

嫌なことを言われて、カッとなってしまったときに、感情を抑えて冷静な対応をしたとしましょう。このとき脳の中では、右脳がヒートアップした状態になるものの、左脳がそれを落ち着かせているのです。

しかし、子どもの脳は、この理性的な働きをする左脳がまだまだ未発達。だから、子どもは感情的になったとき、昂った感情を抑えることができないのです。

そして、カッとなって感情が昂ってしまっている状態では、左脳が理性の働きをできず、やるべきことを論理的に順序立てて考えたり、親の指示や指導を理解しようとする子どもの脳の働きがストップしてしまうのです。

子どもが泣きだしたり、カッとなってしまったとき、その場で教えるべきことを教えようとしても、子どもの脳がそれを受け入れることができない。

それならばどうしたらいいのか? ここでおすすめするのが、世界的ベストセラー作家でもあるカリフォルニア大学ロサンゼルス校のダン・シーゲル教授の提唱する「コネクト&リダイレクト(Connect & Redirect)」です。

子どもの感情が昂っているとき、まずは「コネクト」、つまり子どもの心とつながることから始めます

小さい子どもならば、抱っこしてあやしてあげたり、背中をなでてあげたりして、気持ちを落ち着かせましょう。ある程度言葉が通じる子どもならば、「そうか、そうか、嫌なんだね」「怒ったんだねぇ」などと、子どもの気持ちを言葉に出してあげましょう

まずは気持ちを理解したということ、それを行動や言葉で伝えてあげることで、子どもの気持ちをリラックスさせることが第1ステップです。

子どもが気持ちを落ち着かせるトレーニングにもなる

そうして子どもが落ち着いてきたら、「リダイレクト」と呼ばれる次のステップに移ります。子どもの気持ちを「向き直す」という意味です。

感情が昂っていたときのことを思い出させながら、さっきやるべきだったこと、やってはいけなかったことなどを説明しましょう。

オーバーヒートしていた右脳が落ち着き、未発達の左脳でもものごとを理解する準備ができた状態で、丁寧にやるべきことや、やってはいけないことを説明します。これが脳科学的に理にかなった声かけの方法です。

また、子どもが怒ったり、泣いたりしたときに、優しく落ち着けるようサポートすることは、子どもを甘やかしていることになりません。それどころか、子どもが自分の気持ちを落ち着かせるスキルを身につけるためのトレーニングにもなっていることを押さえておきましょう。

感情が昂ったとき、子どもは自分で収拾がつけられない感情のうねりを収めるのにサポートが必要で、大人がそのサポートをすることによって、感情を抑えることのトレーニングができます。


ちょうど、鉛筆が持てない子どもに対して、まず一緒に鉛筆を持って書かせてあげる様子をイメージしてみてください。どんな子どもも、最初はそうしたサポートが必要で、そうして何度も鉛筆を使っていくうちに、自分1人でも書けるようになります。

同様に、感情が昂ってしまったとき、子どもはどうすれば心を落ち着けることができるのかがわかりません。そこで、親が背中をなでたり、声をかけたりして、心を落ち着かせてあげます。子どもは、そうした体験を繰り返すことで、昂った感情を自分自身で落ち着かせるスキルを少しずつ身につけることができるのです。また、そうしたサポートなしには感情を落ち着かせるスキルを身につけるのが遅くなってしまいかねません。

つまり、子どもがカッとなったときに、すぐにしつけようとするよりも、「コネクト&リダイレクト」をするほうが、圧倒的に子どもが自分の感情をコントロールできるようになる近道なのです。

(星 友啓 : スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長)