坊ちゃんスタジアム(愛媛・松山市)のスコアボードに表示された球速はなんと164キロ。昨年のオールスターで、この球場のマウンドに上がった佐々木朗希(ロッテ)の161キロを上回るスタジアムレコードだった。しかもこの数字を叩き出したのが独立リーガーだったから、なおさら驚きだ。

 ロドルフォ・マルティネス、29歳のドミニカ人右腕だ。今シーズン、四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスと契約した彼は、セットアッパーとしてここまで(7月24日現在)11試合に登板し、2勝2敗、防御率2.08という数字を残している。

 特筆すべきは、イニング数(17回1/3)を上回る21奪三振。その豪速球の力はオリックス、ソフトバンクとのファーム交流戦で、NPBの選手をきりきり舞いさせたことからも実証済み。人気野球ユーチューバーであり解説者の高木豊氏も自身のチャンネルで取り上げるなど、7月末の支配下登録期限を前に、"隠し玉"として緊急補強が噂されている逸材である。


四国IL徳島の最速164キロ右腕、ロドルフォ・マルティネス

【近年はウインターリーグが主戦場】

 これほどの投手が、なぜNPBではなく独立リーグにいるのか。球は速いがフィールディングがまったくダメ、コントロールが極端に悪い、素行に問題がある......など、致命的な欠点があるのではないかと言われているが、性格は穏やかで、コントロールについても決していい方ではないが、投げてみないとわからないというレベルではない。

 そんな彼が、NPBのスカウト網にかからなかったのには理由がある。マルティネスのキャリアハイは4年前のことだ。この年、メジャーまであと一歩の3Aのマウンドに立ち、2017年から所属している母国のウインターリーグ球団、トロス・デル・エステでは2勝を挙げ優勝に貢献した。

 ところが、翌2020年はコロナ禍の影響でマイナーリーグのシーズンが中止に。この時点で26歳となっていた彼は、メジャー球団からは年齢オーバーとみなされたのか、以後、契約が結ばれることなく、ここ3シーズンはウインターリーグを主戦場としていた。

 夏のシーズンは、アメリカで契約をとれなかった選手たちが集まるドミニカの地方リーグ"リガ・シバオ"でプレーしていたというが、スカウトの目もなかなか行き届かず、いわば「ジャングルに埋もれた財宝」状態になっていたのだ。

 そんなマルティネスを日本に誘ったのは、長らく彼を見てきた代理人だった。NPBのスカウトの目が直接届く日本の独立リーグは、今やドミニカでも知られた存在となっている。

 今シーズンを迎えるにあたり、代理人が提示したプレー先のひとつが四国アイランドリーグだった。低報酬とはいえ、ドミニカの夏の地方リーグより条件がいい。なにより、スカウトの目に留まれば、NPB入りも夢ではない。マルティネスは日本行きを決めた。

「代理人が探してきてくれた契約のなかで、一番ビッグになる可能性が日本だったんだ」

 代理人は徳島インディゴソックスとの話をまとめ、マルティネスは単身来日した。

 多くのドミニカ人と同じように、マルティネスが持っている日本のイメージは東京だ。しかしたどり着いた先は、東京のイメージとはかけ離れた徳島という町だった。ドミニカの首都・サントドミンゴの隣町のビーチリゾート、ボカチカ出身の彼が驚いたのも無理はない。

「日本と言えば、僕らはトーキョーしか知らないからね。とにかく、トクシマは人が少ない(笑)。ドミニカ人なんてもちろんいないし、ラティーノ(ラテンアメリカ諸国の人々)もいない。でも、ドミニカの田舎町も似たような感じなので慣れたよ。寂しさはあるけど、大きな夢をつかむためにここに来ているので、そんなことは言っていられない。チームメイトとはうまくコミュニケーションをとれているし、NPBにいるヨハン・ミエセス(阪神)や、僕と同じ独立リーグでプレーしているブライアン・サンチェス(火の国サラマンダーズ)とは連絡をとりあっているからね」

 徳島でアパート住まい。自炊をして生活しているという。オフはたまに出かけることもあるそうだが、基本的にはトレーニングと休息につとめているという。


「ファンがいっぱいいる環境でプレーしたい」と語るロドルフォ・マルティネス(photo by Asa Satoshi)

【日本の独立リーグは2Aレベル】

「ビエン(いいね)!」

 マルティネスは日本の独立リーグをこう表現する。

「必ず抑えているわけではないからね。抑えたり、打たれたり......そういう意味では2Aくらいのレベルと言っていいと思うよ」

 事実、マルティネスは投球イニング数とほぼ同じ16安打を打たれている。

 MLBのアカデミーで育ち、アメリカのマイナーを経験している彼にすれば、独立リーグの環境は過酷なものだろう。

 インタビューをした日の試合会場は、選手のロッカールームがなく、スタンドとも言えないような観客席に仮設テントを張り、控え室にしていた。

 登板予定のなかったマルティネスは、チームメイトたちと内野スタンド奥の芝生席で観戦。地元の子どもたちと戯れていた。

「環境が整っているとは言えないけど、悪くはないよ。決して数は多くないけど、ファンもいて、いろんなところで声をかけてくれる。それに試合数が多いのがいいね」

 ただ、レベルの高さは想定外だったようだ。

「なかなか三振を奪えないし、みんなコンタクトするのがうまい。アメリカやドミニカのバッターとは力対力の勝負で、僕みたいなパワーピッチャーの需要も高かったし、いい球を投げれば三振もとれた。でも、日本のバッターは独立リーグレベルでも、ちゃんと打席で考えて配球を読んでくるんだ。頭を使った野球っていうのかな」

 そう語るマルティネスだが、もちろん目標はトップリーグだ。

「独立リーグというところは、やっぱり長くいるところではないからね。NPB、MLBにこだわらず、チャンスがあるほうに行きたいね。ファンがいっぱいいる環境でプレーしたい。とにかく今は残りのシーズンを頑張って、あとは"神のみぞ知る"だ」

 NPBはシーズン143試合の長丁場。夏場を迎えて投手陣、とくに負担の大きいリリーフはどのチームも不足している。なかでも試合終盤を任せられるパワー型の投手は、喉から手が出るほどほしいはずだ。あとは外国人枠と金額の兼ね合いになるが、金銭についてはそれほど大きな額にはならないだろう。

 最速164キロの豪速球は、やはり大舞台が似合う。