Beatsはオーバーイヤーヘッドホンの次世代モデル「Beats Studio Pro」を発表した。ブラック、ディープブラウン、ネイビー、サンドストーンの4色展開で、価格は49,800円。2023年8月9日16時からApple.comで、8月10日からApple Storeの実店舗および正規販売店で販売を開始する。

「Beats Studio Pro」

2008年に登場した「Beats Studio」はブランドの顔とも言える存在だったが、今回発売となる「Beats Studio Pro」は、その最新モデルとなる。2013年に登場した「Beats Studio Wireless」はミニマルな美しさをさらに洗練させワイヤレス化、2017年に発売された「Beats Studio3 Wireless」では、Apple W1ワイヤレスチップを採用し、機能面でも大幅な進化を遂げた。

プリンシパルデザインコンサルタントのサミュエル・ロス

「Beats Studio Pro」では、デザインをA-Cold- Wall*やOff-White、OakleyにNikeなどの仕事で知られるサミュエル・ロスが手がけている。サミュエル・ロスは以前にも「Beats Studio3 Wireless」「Powerbeats Pro」でコラボレーションを実現しているので、人選としてはさほど意外ではないかもしれない。だが、Beatsは彼に「プリンシパルデザインコンサルタント」という称号を与え、基本モデルとなる機種のデザインを任せた。Beatsはこれまで数多くのクリエイターとのコラボレーションモデルを発表してきたが、それらはいずれもある種匿名性のあるデザインによるベーシックモデルに彩を添えるという形で進められてきた。今回のようなオーセンティックなデザインのプロダクトを最初に投入するのはとても珍しいことである(初めてかもしれない)。今後、本製品のコラボモデルが出てくるとしたら、それはどんなクリエイターによるものなのか。候補として筆頭に挙がるのはヴァージル・アブローであったろうが、今となってはそれは叶わない。果たして、「Beats Studio Pro」では誰と組むのか大変興味深いところではある。

デザイン面で、まず見直しがされたのはイヤークッションだという。新しい「UltraPlush」デザインでは形状記憶フォームを使用し、シームレス設計のレザーでイヤーパッド部分を覆っている。これにより、長時間使用においても快適な着け心地と、何年も使える耐久性を実現した。つや消しの金属ヒンジ、ミニマルブランディング、ヘッドバンド内側の「Designed In Los Angels」メッセージと細部にもこだわり、幅広いサイズ調整が行えるメタルスライダーは、高いフィット感をもたらす。

40mmアクティブドライバは、大音量でもほぼ歪みのないサウンドを創出する。マイクロベントのアレイと音響メッシュも採用して、通気を最適化し、歪みを最小限に抑えている。これは、前モデルと比較して最大80%向上しているとのことだ。振動板は二層構造で、硬質なインナーコアと柔軟なハウジングを採用。デジタル処理との組み合わせで、全高調波歪0.02%以下という音色的にもバランスのとれたオーディオを実現する。

空間オーディオに対応し、Dolby Atmosで収録されたコンテンツを映画館のようなサウンドで楽しめる。ダイナミックヘッドトラッキングにも対応し、ヘッドトラッキングには、ジャイロスコープと加速度センサーで構成されるIMU(慣性計測装置)を利用している。また、パーソナライズされた空間オーディオもサポート。ユーザーはiPhoneを使用して自分の耳をスキャンし、自分のためだけに独自の空間オーディオプロファイルを作成することで、個人の耳の形状・構造に合わせてサウンドを最適化できる。

初代の「Beats Studio」から装備していたノイズキャンセリング機能も進化。アダプティブ型のアクティブノイズキャンセリング機構は、外向きのフィードフォワード用マイクで周辺のノイズを継続的に測定しつつ、カスタマイズされた騒音防止フィルターを作成して、不要な音を遮断。内向きのフィードバック用マイクにより、通常と異なる装着やイヤークッションの密閉性が損なわれたことによってイヤーカップに入り込むノイズをさらに遮断する。SN比と感度の向上で進化したデジタルMEMSマイクのセットの採用で、前モデルと比較してANCパフォーマンスが全般的に向上している。

外部音取り込みモードでは、ANCに使用した外向きのマイクから周囲の音を拾い、原音に近く、レイテンシーゼロでヘッドホンに戻して、今聴いているサウンドも融合させる。密閉性の高いヘッドホンでは歩きながら聴いていると周りの音が聞こえなくて危険な場合があるが、外部音取り込みモードに切り替えることで、周囲の状況を把握できるようになる。

さらに、ANCシグナルチェーンの最終プロセスとして、再生音の補正機能を搭載。これはフィードバック用マイクを活用した二次的フィルターで、ANCや外部音取り込みモードの処理を介して誤って取り込まれたあらゆる人工音を特定し、排除するために設計された。オーディオファイルは、リアルタイムで毎秒最大48,000回分析され、修正される。この機能により、どの再生モードを使用していても、原音に忠実なサウンドを楽しめる。

シリーズ初のUSB-Cオーディオに対応

なお、シリーズとして初となるUSB-Cオーディオの利用も可能となった。アップリンクとダウンリンクの両方をサポートし、本体を充電しながら、音楽を聴いたり、電話に出たりといったことが行える。内蔵のDACは最大24bit/48kHzに対応。Beatsはこの機能を前面に押し出していない(≒ウリにしていない)が、所謂「ハイレゾ」に対応しているということになる。再生に際しては一般的なオーディオファイルに対応。Apple Logic ProやAvid Pro ToolsといったDAWを使用している場合は、出力先として、本機を選べる。名前が示す通り、プロフェッショナルな音の制作現場にも対応するというわけだ。プロフェッショナル制作現場向きに3.5mmステレオミニのワイヤード接続も用意(標準フォーンへは変換アダプタが必要)。3.5mmステレオミニのワイヤード接続では、飛行機内のエンターテイメントやゲーム機本体/コントローラーにも使用できる。なお、ワイヤード接続においても、ANCと外部音取り込みモードの利用は可能となっている。

USB-Cオーディオが有効になっている場合、EQを最適化した3つのサウンドプロファイルを利用できる(電源ボタンを使って切り替えられる)。「Beats Signature」プロファイルは、あらゆるジャンルの音楽をバランスよくチューニングしてくれ、「エンターテイメント」プロファイルは、周波数カーブの特定部分を強化することで、ダイナミックな映画、ゲーム体験を提供、「会話」プロファイルは、声の周波数特性を調整するので電話をかけたり、Podcastを聴いたりするのに最適化されている。

通話機能も機能強化が図られている。ビームフォーミングMEMSマイクに、チューニングされた機械学習アルゴリズムで構成する音声マイクアーキテクチャを搭載。このソフトウェアソリューションには、7,000時間を超える時間を費やしているとのことである。これらにより、不要なバックグラウンドサウンドを遮断しながら、装着しているユーザーの声に注意を向けることができるようになるという。

バッテリーの最長持続時間は40時間、ANCまたは外部音取り込みモードをオンにした場合は最大24時間の連続再生が行える。急速充電「Fast Fuel機能」にも対応。10分の急速充電で最長4時間再生が可能となっている。

Appleデバイス/Androidデバイスともにワンタッチペアリングが可能で、操作のカスタマイズやアップデート機能にも対応。AppleデバイスではiCloudアカウントに登録されているすべてのデバイスとペアリングが、Androidデバイスでは、Gmailアカウントに登録しているすべてのAndroidデバイスおよびChromeデバイスに自動的にペアリングしてくれる。Appleデバイスでは「Hey Siri」「探す」アプリに、Androidデバイスはデバイス間の音声の切り替え、Googleの「デバイスを探す」に対応する。

キャリングケースもサミュエル・ロスがデザインを担当

本体のほか、キャリングケースなどが付属。ケースもサミュエル・ロスによるもので、半剛性のメッシュ生地を使用。クリップやカラビナ用の輪が外側に縫い付けられ、内側にはポケットを2個装備し、ケーブル類を収納できる。環境に配慮した新たなボックスデザインにも注目したい。「Beats Studio3 Wireless」では、ファイバー素材を92%使用したパッケージだったのが100%のものになった。また、100%再生レア·アースの素材を採用し、ハンダは100%再生スズとなっている。

ざっと見てきたが、これまでもブランドの「顔」であった伝統のモデルがさらに魅力的なプロダクトとなったという印象だ。一般的なリスナーによる使用から、プロフェッショナルな現場まで幅広いシーンで活躍してくれそうなスペックで、「Pro」の名に相応しい仕上がりと言えるだろう。