かつてはセンサーというと特殊な周辺デバイスというイメージがあったが、最近のコンピュータには、多数のセンサーが搭載されていて、標準的なデバイスになった。分かりやすいのは、タブレットやスマートフォンに搭載されている「回転」センサーで、これにより、画面の向きに応じて表示を切り替えることができる。

センサーとは何らかの物理量を測定するデバイスだが、コンピュータには、照度センサーや加速度計、ジャイロ、地磁気センサーなどもある。また、カメラは二次元画像の、マイクは音波のセンサーと考えることもでき、コンピュータの内蔵時計も時間の「測定」デバイスといえる。

厳密にいうと、センサーではないが、GPSも位置測定のデバイスであり、加速度計や地磁気センサー、ジャイロなどと組み合わせて利用することがある。

センサーやそれを含む測定器がコンピュータに接続できるようになったのは、かなり昔のことだ。1960年台後半、Hewlett-Packard(HP)社は、コンピュータに測定装置を接続するためにHP-IB(Hewlett-Packard Instrument Bus)を開発した。コンピュータ(といっても当時は、いまでいうミニコンである)に測定器が接続できるようになることで、製造、開発現場でもコンピューターによる自動化が可能になった。もっとも、当時のHPは、測定器の方がメインのビジネスだった。

他社もHP-IBをコピーし、これらはGP-IB(General Purpose Interface Bus)と呼ばれた。広く普及したため、1975年にIEEE 488として規格化された。このIEEE 488は、1977年のCommodore PET 2001に搭載され、周辺機器などの接続にも使われた。その後もシリアルポートやUSBなどを使って測定器やセンサーが接続されていたが、専用のアプリを使う特殊な周辺装置という扱いだった。

Windowsが標準的にセンサーをサポートしたのは2009年のWindows 7からだ。このとき、センサーや位置測定(ロケーション)のAPIが装備され、デバイスドライバなども整備された。半導体技術の進歩と携帯電話の普及で、さまざまなセンサーが小型化、低消費電力化され小型機器にも内蔵できるようになったからだ。

デバイスを直接アクセスする、あるいは複数のデバイスで共有することは面倒な処理だ。センサーによっては、高速に出力が行えるものもあり、アクセスを管理しないとバスなどを専有してしまい、システム全体のパフォーマンスを落としてしまう、あるいはバッテリを無制限に消費してしまうなどの問題がある。このため、一般的にはシステムがセンサーのアクセスを行い、APIを介して必要なプロセスに分配する方法がとられる。

2008年に最初のデバイスが登場したAndroidも最初からセンサーAPIを装備しており、アプリケーションからの利用が可能だった。現在のChromebookは、Androidアプリが動作するので、環境としてはAndroidに準ずるが、タブレットや2in1、あるいはクラムシェルというフォームファクタであるため、必ずしもAndroidと同等のセンサーを装備しているわけではない。

いま利用しているWindowsマシンに、どんなセンサーが組み込まれているかは、Microsoftが提供するSensorExplorerで調べることができる。

・Microsoftストア SensorExplorer

https://apps.microsoft.com/store/detail/sensorexplorer/9PGL3XPQ1TPX

このアプリでは、位置センサーや照度センサーなどの現在の測定値を表示しグラフ表示できる。どんなセンサーがあるのかを調べるには、左側の領域から「2)View」を選択し、右側の領域を横スクロールさせて「Summary」を表示させて選択する(写真01)。ハードウェアによりさまざまだが、タブレット系のモバイルマシンであれば、最低限回転センサー(Orientation Sensor)があるはずだ。

写真01: MicrosoftがOEM向けに作成したSensor Explorer。センサーの状態を表示でき、管理しているセンサー類を列挙する機能がある

AndroidやChromebookにはGoogle製のセンサー関連アプリはないが、Chromebookでは、ブラウザに「chrome://system」と入力する。その後「sensor」で検索すると、“sensor_info”でセンサーの診断情報を見ることができ、ここから接続しているセンサー類を推測できる(写真02)。

写真02: Chromebookでは、ブラウザのアドレス欄に「chrome://system」と入力することでシステム診断情報を見ることができ、その中にセンサー関連の項目がある

今回のタイトルネタは、スタートレックの小道具「トライコーダー」(Tricorder)である。劇中、トライコーダーは、各種のセンサーを内蔵した「万能測定装置」として描かれている。トライコーダーは、シリーズを通して登場する小道具。ある意味、スタートレックを象徴する小道具といえる。というのもフェーザー銃のような、いわゆる「光線銃」は、SFではおなじみの小道具でしかなく、通信機であるコミュニケーターは、携帯電話が普及したせいか、新規性が失われ、のちのシリーズでは胸に付けるバッチになってしまった。

このトライコーダー、当時あったオシロスコープのような測定器を小型化してまとめたものというイメージだったが、今にして思えば、医療診断や物質の分析など、センサーとコンピュータを組み合わせないと実現できそうにないシロモノ。逆に言うと、センサーを内蔵したスマートフォンやタブレットは、トライコーダーであると言えるのかも。