SNSを上手に使いこなすコツとは(写真:Fast&Slow/PIXTA)

「誰がもSNSをする時代」などと言われる。しかし、自らもSNSを使いこなし発信をする内田和成早稲田大学名誉教授は「どちらでもいい」という。そして、それよりもよほど大事なことがあるというが、それははたして――。(本記事は内田氏著『アウトプット思考』の内容を一部抜粋したものです)。

SNSを活用する人、しない人の違い

アウトプットの話をするとよく、「やはり今後はビジネスパーソンも、SNSなどを通じて積極的に情報発信をしていくべきなのでしょうか?」という問いを受ける。

私自身がフェイスブックやYouTube、あるいは雑誌への寄稿や書籍執筆などの情報発信をしているからだろう。また、ブログやフェイスブックだけでなく、ツイッターやインスタグラムなどのツールが増えたことで、誰もが容易に情報発信できる時代になっていることも事実である。

この問いに対する答えは、情報発信をなんのために行うかで変わってくる。

私は、かつてはコンサルタントであり、その後は長らく大学の教員を務めていた。そういう立場で自分の考えを世の中に伝えていくには、本や講演以外にSNSが役に立つと思っている。だから使っている。

一方で同じコンサルタントでも、クライアントに対して必要なアウトプットを提供すれば十分だと考える人もいる。あるいは大学教授でも、授業での講義や論文の形で発信することこそが大事だと考える人もいる。そういう人は別にSNSで幅広く不特定多数の人に発信する意味はないだろう。どちらがいい、悪いではなく、あくまでスタンスの違いだ。

言い換えれば、自分はなんのために情報発信を行うのか、あるいは人々は自分に何を期待しているのかに合わせて、発信の方法を決めていく必要があるということだ。

もし、発信することによって有益なコメントやフィードバックが得られ、ぐるっと回って情報収集に役立つとか、情報分析の深みが増すというのなら、SNSで発信することには意味があると言えるだろう。

私もかつてはブログに、現在はフェイスブックに投稿することが多いが、そこでもらったコメントから新しい発見が得られることがあり、それは貴重な機会だと思っている。だが、そう思えない人は、無理に発信をすることはない。

発信で重要なのは「受け手意識」

SNSで不特定多数とつながろうとする以前に、自分が満足させるべき相手ときちんとコミュニケーションができているかを確認すべきではないかと思う。それは上司かもしれないし、社内の他部門の人間かもしれない。あるいは顧客や取引先だ。

こうした人間が、自分からどんなアウトプットが出てくるのを期待しているのか。「発信」という意味では、そのほうがよほど重要だと私は思う。

ここで意識すべきは「受け手意識」だろう。受け手意識とは、「この情報を受け取る人はどう感じるか」ということだ。

一例を挙げよう。上司から資料作りを頼まれたとする。資料作りももちろん、立派な発信だ。ここで張り切ってとにかく情報を集めまくり、すぐには読み切れないほどの分厚いレポートとして提出したらどうだろう。若いうちなら「頑張ったな」と評価されるかもしれないが、逆に辟易される可能性も高い。ここでまず考えるべきは「情報を受け取る上司にとって、必要なものは何か」ということなのだ。

そこで、最初にいくつか質問をぶつけて、上司が求めている情報がどういったものかの仮説を立てる。そして少し調べたうえで報告をして、「ああ、ここを深掘りしてくれればいい」とでも言ってもらえれば儲けものだ。それ以上手を広げることなく、その分野だけをさらに調査すればいい。

これでより相手のニーズに合った資料ができるし、自分の時間も労力も、大幅に短縮できる。これが「受け手意識」である。これは自分が何を求められているのかという「立ち位置(ポジション)」と「期待役割」の話とも通じる。

言葉のキャッチボールで、論点を明確化

ここで重要なのが「言葉のキャッチボール」だ。相手の求めていることを、何も対話せずに知ることはまず不可能。まずは「言葉のキャッチボール」により、自分が何を求められているかを知るのである。


コンサルタントはこの言葉をよく使う。相手が言ったことに対して「これはつまり?」などと問い返し、相手がそれに答え……ということを繰り返すうちに、内容が絞られてくる。まさにキャッチボールである。では、何を投げ合っているのかといえば、難しい言葉を使えば「論点のキャッチボール」をしているわけだ。

上司と部下、あるいは同僚や顧客との対話の中で、この論点のキャッチボールをすることで、結果として何をしなければいけないのかが見えてきて、それによって初めてどういう情報を収集し発信しなければいけないのかが浮き彫りになってくるのだ。このあたりは現在話題の対話型AIが進化すれば、代わりにやってくれそうな気もする。

(内田 和成 : コンサルタント)