北海道地盤のツルハHDは相次ぐ買収で全国区となり、業界2位まで上り詰めた(記者撮影)

ドラッグストア業界2位のツルハホールディングス(HD)に、「もの言う株主」として知られる香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが株主提案を行っている。

オアシスは「ガバナンス体制に重大な問題がある」として、鶴羽樹会長の退任や会長職を廃止する定款の変更を要求。自らが推薦する社外取締役5人の選任や、取締役会の議長を社外取締役から選出することも求めている。

対するツルハHDは、オアシスの指摘について「提案株主が創出した幻想にすぎない」と反対声明を7月7日付で発表。8月10日の株主総会を前に、オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者に株主提案の狙いを聞いた。

ーードラッグストアの中で、なぜツルハHDに株主提案をしたのですか?

現在のツルハHDは、アンダーパフォーム(収益性などが基準に達していない)の状態だ。われわれは成長余地のあるビジネスを安く買う方針で投資しており、ツルハHDには業績改善のポテンシャルがある。

株主として企業が成長する手助けをすることで、すべての人に良い結果をもたらすことができるだろう。例えば、顧客には幅広い品ぞろえを提供し、従業員には収益性向上による賃金の上昇、株主にとっても良い結果をもたらすことが可能だ。

ーー株主提案の資料では、会長と社長の力関係の推察や、創業家と社外取締役の関わりなどを詳しく指摘し、深く問題を掘り下げています。

すべて内部のチームメンバーが、公開情報を含めた外部の情報源を使いながら調査している。他社よりも多くのことを長期間調べ、知ろうとする体制を私は誇りに思う。

ツルハHDについては何百時間という時間を費やして調査し、対話はすでに3年間続けている。業界事情やビジネスの形態に関しても深く調査し、かなりの金額を投資している。通常、われわれの提案に耳を傾けてくれる協力的な会社が多い。

だが今回は上場企業にもかかわらず、そうした姿勢は見られなかった。最終的には、ビジネスに大きなインパクトを与える変化を起こしたい。

ツルハHDの反論をどう受け止めるのか

現在、ツルハHDの社内取締役6人のうち4人が創業家出身。会長は創業家3代目の鶴羽樹氏が、社長は会長の次男である鶴羽順氏が務めている。オアシスは「父親である会長が、息子に対して適切な監督を行えるのか」と懸念を示す。

社外取締役の佐藤はるみ氏が創業家との家族ぐるみの関係性がある可能性や、藤井文世氏と岡崎拓也氏が、北海道財界内の「馴れ合い人事」で選出された懸念があると問題視する。

ーーガバナンスに問題があり、業績が停滞しているとの主張ですが、ツルハHDは「根拠がない」と否定しています。

父親が子供を監督する構造は、創業家にとっては良いかもしれないが、それ以外のステークホルダーに対しては、マイナスだ。顧客に対しても、3万人以上いる従業員に対してもだ。

例えば、ツルハHDは、人事面でも創業家を優先してきたように思える。というのも、子会社ではスキャンダルを起こした本人(過去に調剤報酬の不適切な請求等が発生した、くすりの福太郎の小川久哉社長)を再び社長職に戻すような人事もあった。成果主義ではなく、創業家を優先していては、ベストなビジネスはできないと考える。

ーー現在の社外取締役は独立性に問題があると主張していますが、ツルハHDはそうした事実は全くないと反論しています。それでも経営陣の入れ替えが必要ですか。

必要だ。現在の経営陣は、業界の専門家でもないから最適な人材ではないだろう。社外取締役は決して独立しているとは思えないし、ガバナンスを理解しているとも言えない。


セス・H・フィッシャー設立者兼最高投資責任者。Highbridge Capital Managementで7年間アジアの投資ポートフォリオを運用、2002年にオアシスを設立した(提供:オアシス)

社外取締役には「3.0のレベル」の人材が必要だということを提唱したい。つまり業界の専門知識があり適切な助言を行うことができ、経営に対して説明責任を追及できるメンバーがそろう必要がある。現状はこの条件を満たしていない。

ーー会長職の撤廃も挙げていますが、ツルハ本体の求心力が低下するなど、デメリットはありませんか。

真に独立した取締役がいる企業のほうが、業績においてより良い結果を出していることは、日本でも海外でも実際にデータに表れている。そうでないと証明できるデータがあるなら、ぜひ見せていただきたい。

現にツルハHDを見ると、平均以下のパフォーマンスだと言わざるを得ない。また、われわれが要求しているのは、鶴羽順社長の父親である鶴羽樹氏が会長として監督する構造の変更であって、鶴羽樹氏を取締役から解任することを指しているわけではないことは、ご承知いただきたい。

オアシスが描く株主提案後のビジョンは

オアシスは鶴羽家による支配だけでなく、くすりの福太郎の小川家、ツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本の村上家、それぞれによる子会社の支配体制があると指摘する。各子会社・屋号をそれぞれの創業家の“シマ”として守るために、ブランドの統一が行われていない可能性があるとみる。

ーードラッグストア業界内での経営統合も必要とのことですが、具体的にはどんな企業がツルハHDの相手先になるべきとみますか。

小規模な企業との合併はもうやりつくしているだろう。そのため、より大きな企業と統合するべきだ。さらには生鮮食品やプライベートブランドなど、ツルハHDの助けになる分野に強い企業が望ましい。

業界では再編が進んでいくため、その波に先んじて動く主導者になるべきだ。創業家独自のエンパイア(帝国)を作り、経営統合等の機会を阻害するべきではない。企業として規模を拡大して、勝者になるべきだ。

ーー他のドラッグストアは創業家の保有比率が高いです。現実的には、経営統合の相手先を見つけるのは難航するのではないですか。

確かに創業家が居座っている企業が多い。創業家がいない会社のほうが、われわれにとってやりやすいのは事実だ。だが、創業家が仮に50%近く株を保有していたとしても、ともに会社をかえていこうという意欲のある協力的な企業がいれば、達成できるだろう。

ーー経営統合以外に、ツルハHDを成長させるビジョンはありますか。

ツルハHDはすでに小規模な同業を複数買収しているため、まずは現在持っている6つの企業ブランドを統合するべきだ。現在は、買収子会社を統合することもできておらず、(小川家や村上家が創業家として力を持ち続けているため)各々が独立した企業として運営している状況だ。

本来、このグループ売上高なら達成できるはずのマージン(粗利)など、規模拡大のメリットを享受できていない。利益率の高いプライベートブランドの導入、薬剤師の配置、生鮮食品の導入、といった本来ならできるはずのことが実行されていない。

M&A以外にも、監督機能や業績に関する経営者の説明責任など、経営体制の面でも改革が必要だ。だが、こうした機会は、創業家が経営を支配する体制で阻害されており、少しフラストレーションを感じている。

3年間も対話したが答えに満足できない

ーーツルハHDは、オアシスが半年間で急激に保有比率を高めたとして、「長期株主」であるオアシスの表明に反対し、実質的な対話も2回しかなかったと主張しています。

われわれはすでに3年以上、ツルハHDの株主だ。最初から5%以上(大量保有報告が提出される基準)保有していたわけではないが、長期株主ではある。3年以上前から株主の記録があることは、ツルハHDもよく知っているはずだ。

対話も3年間してきたが、本当に失望することが多かった。先方からの答えに満足できず、何度もプッシュして、皆にとって良い変化を起こそうとしてきた。これでは終わりがなく、10年も20年も同じことをやり続けなくてはならないのはフェアではない。そこで、昨年から踏み込んだ提案をし始めたわけだ。

ネガティブな側面だけを話しすぎたが、ツルハHDが素晴らしい会社になれる可能性を持っているからこそ、これだけの時間をかけていることを理解してほしい。

(伊藤 退助 : 東洋経済 記者)