薬局に薬がないというたいへんな事態になっています。私たちはどうすればいいでしょうか(写真:S.N/PIXTA)

5月8日に新型コロナウイルス感染症の感染症法の位置づけが5類感染症に移行しました。4年ぶりに行動制限のない夏を迎えることになったこの夏、昨年の夏に迫る勢いで新型コロナウイルスなどの感染症が流行し、薬局ではいわゆる風邪の症状に使うアセトアミノフェン(カロナール)や、デキストロメトルファン(メジコン)、カルボシステイン(ムコダイン)などの薬が品薄となっています。

「品薄って、処方箋を出してもらっても薬をもらえないの?」「薬不足への備えはどうすればいい?」。そんな心配や疑問に薬剤師が答えます。

薬が不足している原因は?

Q:薬が不足しているって本当?

A:通常通り出荷ができない「限定出荷」と「供給停止」に該当する薬の品目は22.5%にのぼります。病院で処方される薬のおよそ5分の1の品目が、何らかの事情で入手できない・しづらい状況です。

これは、日本製薬団体連合会が、2023年5月末時点で薬価収載されているすべての医薬品を対象に行った「医薬品供給状況にかかる調査(2023年5月)」の結果(URLはこちら)です。調査期間は2023年5月30日〜6月8日でした。


日本製薬団体連合会の「医薬品供給状況にかかる調査(2023年5月)」によると、通常通り出荷ができない薬の品目は全体の22.5%にのぼった(編集部撮影)

通常通りに出荷できない理由としては、需要の増加、原材料の調達に関するトラブル、製造や品質に関するトラブル、行政処分による出荷停止などが挙げられます 。薬が品薄になっているのには、こうしたさまざまな理由が影響しています。

薬局の現状を熊本県にある保険薬局(処方箋を取り扱う薬局)の薬剤師は、「薬局で入手が困難な薬は多岐にわたる」と話します。

「感染症関連では、小児に処方される抗菌薬、アレルギー性鼻炎やじんましん、皮膚のかゆみに使うオロパタジンなどの抗アレルギー薬(アレロック)、いわゆる風邪薬の感冒薬(ピーエイ配合錠、PL配合顆粒など)、咳止めのデキストロメトルファン(メジコン)といった風邪症状に用いる薬全般です」

ほかにも、葛根湯(かっこんとう)や芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)などの漢方薬、胃腸炎による吐き気に用いるドンペリドン(ナウゼリン)、解熱鎮痛薬のロキソプロフェン(ロキソニン)などが薬局に入りにくくなっているといいます。

しかし、これはほんの一例です。不足している薬の代わりに用いる代替薬関係もひっ迫し、具体例を挙げればきりがないというのが現状です。

さらに薬不足は感染症の患者さんだけではなく、たとえば抗がん剤で治療をしている患者さんなどにも影響が及んでいるといいます。抗がん剤などの高額な薬は、ジェネリック医薬品の供給不足で先発品に変更になると、窓口での自己負担額が跳ね上がります。

「すると経済状態が思わしくない患者さんのなかには『高くて、とても薬代が支払えない。だから薬はいらない』と、服薬を拒否する人が出てきます。薬不足は、私たち薬剤師の目の前の患者さんの命に関わってくる問題なのです」(先の薬剤師)

薬不足に備えるには?

Q:感染症に関する薬不足に備えてできることはありますか?

A:誰にでもすぐにできることは2つあります。最も大切なことは感染症にかからないように予防することです。もう1つは、いざというときのため平時のうちに市販薬などを備えておくことです。

現在、薬局には多くの感染症の患者さんが来局しているといいます。先の薬剤師の話です。

「新型コロナの感染者数だけみると、昨年7〜8月ほどまでには達していませんが、6月後半からは昨年の同時期のペースを超えるくらいの感染者数になってきています。5月はインフルエンザのほうが新型コロナより少し多かったものの、6月に入ると新型コロナの患者さんがどんどん増えて、6月の終わり頃にはインフルエンザの4倍くらいになりました」

新型コロナ以外の感染症については、「当薬局では、小児科の処方箋を受ける数はそれほど多くないのですが、データの上ではヘルパンギーナやRSウイルス感染症は昨年より少し多くなっています。胃腸炎も例年通り増えてきていますので、注意が必要です」と言います。

そこで、ヘルパンギーナやRSウイルス感染症など、主な感染症のうつり方と、予防の仕方を見ていきたいと思います。

■ヘルパンギーナ*1

【どうやってうつる?】ウイルスが含まれたくしゃみや咳を吸い込んだり、手についたウイルスが口に入ったりして感染します。

【予防の方法】原因となるウイルスはアルコール消毒液に抵抗性があるので、石けんでこまめに手を洗いましょう。家庭ではタオルを分けて使うなどの工夫を。子どもが使ったおもちゃなどは、塩素系の消毒剤で消毒します。

■RSウイルス感染症*2

【どうやってうつる?】くしゃみや咳に含まれたウイルスを吸い込んだり、手についたウイルスが口に入ったりして感染します。

【予防の方法】子どもたちが日常的に触るおもちゃや手すり、ドアノブなどをアルコールや塩素系の消毒剤で消毒します。流水・石けんによるこまめな手洗い、手が洗えない環境ではアルコール消毒剤による手指消毒をします。

■感染性胃腸炎*3

【どうやってうつる?】ウイルスなどの病原体がついた手で口に触れたり、汚染された食品を食べたりすることで感染します。

【予防の方法】ウイルスなどの病原体の侵入を防ぐため、料理や食事をする前やトイレの後に、必ず流水・石けんで手を洗います。また、食品の汚染を防ぐため、ウイルスなどを食品に付着させないように食べ物に触れる前の手洗いや、調理器具の消毒などを行いましょう。

もちろん、どんなに気をつけて予防していても、残念ながら感染してしまうこともあります。そのときに備えておきたいのが解熱鎮痛薬、咳止めなどの市販薬です。

症状が出てから薬を探し回るのは大変ですし、その時期に流行している感染症の状況によっては、特定の成分の商品が品切れになっているかもしれません。何より市販薬の種類によっては、薬剤師からではないと購入できないものもあります。平時に備えておけば、いざというときに慌てずにすみますし、安心です。

Q:病院を受診して処方箋を出してもらっても、薬局に薬が入ってこないということは薬がもらえないの?

A:心配しないでください。薬が品薄な状況ですが、薬局ではさまざまな工夫をして患者さんに薬をお渡しできるようにしています。

具体的に、2つのケースを挙げて説明しましょう。まず、特定のメーカーのジェネリック医薬品が品薄になっている場合です。

「医薬品供給状況にかかる調査(2023年5月)」の結果によると、先発品の「限定出荷」と「供給停止」の品目は全体の5.9%であるのに対し、ジェネリック医薬品は33.0%と報告されています。ですから「いつも薬はジェネリックでもらっている」という人のなかには、「あれ? 普段のジェネリックと違う」という経験をした人もいるかもしれません。

このように、例えばA製薬会社のジェネリック医薬品が何らかの理由で品薄になっている場合には、患者さんが途切れることなく薬物治療を続けられるよう、同じ成分の先発医薬品や、ほかのメーカーのジェネリック医薬品を薬局では入手するようにしています。

もう1つのケースは、需要が増して特定の成分の薬が全体的に品薄になっている場合です。記憶に新しいのは、昨年夏の新型コロナの第7波で解熱鎮痛作用のアセトアミノフェン(カロナール)が品薄になったようなケースです。

この場合、例えばチェーン展開している薬局では、店舗間で薬を融通しあうなどの工夫をしています。どうしてもその薬の入手ができない場合は、薬がなくて患者さんにつらい状態が続くことを避けるため、医師に状況を説明して、同じような効果の別の成分の薬に変更が可能かを問い合わせるなどしています。

薬不足の問題は他人事ではない

感染症にかかって症状がつらいときに、薬が不足していてすぐにもらえないかもしれないと聞くと心配です。

薬不足の問題は、自分や、自分の周りの大切な人たちの健康に影響を及ぼす可能性があります。病気になったときに安心して療養するためにも、いち早い薬不足の改善が望まれます。

薬が不足している現在、すぐに自分にできる対処として感染症予防があります。薬剤師も感染症の予防について詳しいので、わからないことがあったら遠慮なく薬局の薬剤師に尋ねてください。

*1 東京都健康安全研究センター「ひとくち感染症情報 ヘルパンギーナが流行しています!」
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/diseases/herpangina/hitokuchi-joho.pdf?20230622
*2 厚生労働省「RSウイルス感染症Q&A(平成26年12月26日)」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/rs_qa.html
*3 東京都感染症情報センター「感染性胃腸炎(ウイルス性胃腸炎を中心に)」
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/gastro/

(高垣 育 : 薬剤師ライター、国際中医専門員)