クロスオーバーテイストのファストバックモデルとして誕生したプジョー408(写真:Stellantis ジャパン)

プジョー「408」が、2023年7月1日に日本で発売を開始した。ガソリンモデルとプラグインハイブリッド(PHEV)モデルの2本立てで、とりわけ、スタイリッシュなデザインが目をひく。

トヨタ「クラウン クロスオーバー」を彷彿させるクロスオーバースタイルのセダンで、「マーケットでも競合できるモデル」と、ステランティスジャパンの広報担当者は語る。


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全長4700mmのファストバックボディは、たしかに408とクラウン クロスオーバーに共通する。ルーフラインがスッとリア後端まで伸びていくスタイルは、流麗ともいえる。

大きく違うのは、クラウン クロスオーバーがなめらかな面でボディを構成しているのに対して、408はあえてエッジを立てたキャラクターラインが複雑に入っていること。


曲面とエッジを融合させたアーティスティックなデザイン(写真:Stellantis ジャパン)

“プジョーやるな”と感心するのは、そのキャラクターラインの入れ方だ。エッジは立っているものの、白色などの明るい車体色では個性的なフレームレスグリルをもったフロントマスクを除いて、強く目を惹く要素に気がつかない。

でも、イメージカラーの「オブセッション・ブルー」では、光線を複雑に反射するせいで、まったく違った表情を見せてくれるからおもしろい。“凝った造形美”といってもいいぐらいで、フランスでキャリアを築いた彫刻家、ブランクーシ(ルーマニア出身)などを擁立した、同国の面目躍如といったところか。


ライオンの牙をイメージしたポジションランプとフレームレスグリル(GTはボディ色、写真:Stellantis ジャパン)

このあたりのブランディング、プジョーはよくやっていると思う。日本市場でも「2008」をはじめ、「3008」「5008」といったSUVの人気を支えているのは、デザイン戦略によるところも大きいのでは、と私は考えているのだ。

純ガソリン車とPHEVの2本立て

クラウン クロスオーバーとのデザイン比較ついでに、内容も比べてみよう。

クラウンクロス オーバーのパワートレインは、ハイブリッドのみ。従来からの2.5リッターエンジンに加えて、(比較的)新開発の2.4リッターターボ(いいエンジン)を使ったハイブリッドも載せる。

対する408は、(なんと)1.2リッター3気筒ガソリンエンジンと、1.6リッター4気筒を使ったPHEVの2本立てだ。

ステランティスグループの中には、走行中にバッテリーへの充電ができないPHEVシステムもあるが、408は(姉妹車といえる)シトロエン「C5 X」同様、ドライブモードを切り替えることでバッテリーへの充電も行える。

私が乗ったのは、PHEVの「408 GT HYBRID」。加速がよく、フットワークも軽く、プレミアムサイズのセダンへの期待以上の“ファン”があるモデルだ。


e-EAT8と呼ばれる8速ATと組み合わされるハイブリッドパワートレイン(写真:Stellantis ジャパン)

250Nmの最大トルクを持つエンジンに、320Nmの電気モーターが組み合わせてある。発進時も高速での追い越し時も、どんなときでもすばやい加速を味わわせてくれる。

常にバッテリーへの充電が行われる「eセーブ」モードを選んでいると、そっちにもパワーが割かれるのがわかるが、それ以外の「スポーツ」「ノーマル」「エコ」では、どのモードでも気持のいい加速が味わえる。

1970年代のプジョーを思い出す

サスペンションの設定については、やや好みが分かれるところ。他社との差別化といえなくもないが、ややラバリー(つまりゴムっぽく)に感じた。

どこまでゴムブッシュの特徴が出ているのかはよくわからないけれど、弾むような独特な反発力が、そこはかとなくハンドルを握る手に伝わってくるのだ。


PHEVならではのスムーズで快適な走行性能が味わえる(写真:Stellantis ジャパン)

でも、それがイヤかというと、私はまったくイヤじゃない。自分が1970年代のシトロエン車やプジョー車に親しんできたせいだろうか。こういう味付けがあってもいいと思う。

決して剛性感がないわけでなく、頼りない感じもまったくしない。この年代のプジョーはそこがうまいところで、それでいてフワリフワリと心地よかった。

昔の話をしつこくしても意味がないのだけれど、細いコードのようなものを踏み越えるときのショックの“いなし方”が、他社に抜きんでてうまかったのを思い出したのだ。


試乗車のタイヤはミシュラン。サイズは205/55R19(写真:Stellantis ジャパン)

今それがうまいのは、シトロエンのほう。かつてのPSAグループでは、シトロエンが快適、DSがラグジュアリー、そしてプジョーがスポーティと、キャラクターのすみ分けがなされていた。

話を新型408に戻すと、このクルマの乗り味はなかなかおもしろい。ドイツ車に飽きていたら、試してみるといいと思う。

室内はデジタル化が進んでいて、窓の曇りとりやハザードランプなど、物理的なスイッチは少ししか残されていない。


メーターを上部に置き、その下に小径のステアリングを設置するi-Cockpit(写真:Stellantis ジャパン)

運転席前の速度計や回転計を入れたモニターと、ダッシュボード中央のインフォテインメントシステムのモニター。この2つを中心に、建築物のようなイカした面構成がデザイン上の魅力となっている。

運転席に腰をおろして、ダッシュボードを、その陰影がつくる表情とともに眺めていると「いいモノに接しているなぁ」と、うれしい気分になった。ただし、速度計などのモニターの大半は、ハンドルに遮られて情報がよく見えない。ヘッドアップディスプレイをつけてほしいというのが、私の切なる願いだ。


ステアリングホイールがメーターの一部を隠してしまう……(写真:Stellantis ジャパン)

静粛性は全体的に高いし、試乗したGT HYBRIDに標準装備だったFOCAL(フォーカル)の10スピーカーオーディオもなかなか良い音だ。今の音源だと低音の表情を再生するのにいまひとつなところがあるけれど、でもいい雰囲気だと思う。

後席に乗るには、ルーフラインが下がっている影響のため、頭をしっかりかがめていないといけない。乗ってしまえば、2790mmのホイールベースを使いきったパッケージングによって、落ち着いていられる。

アートピースとしてのクルマ

408 GT HYBRIDの価格は629万円。昨今のプジョー車は、「508 GT HYBRID」だと725万8000円もするし、決して気軽なクルマではない。もちろん、価格を重視するなら、ガソリンモデル(429万円〜)という選択も大いにアリだ。


「Allure」「GT」「GT HYBRID」と「GT HYBRID First Edition」の4タイプをラインナップ(写真:Stellantis ジャパン)

クラウン クロスオーバーを最後にもう一度引き合いに出すと、こちらだってベースモデルが435万円で、上級グレードになると640万円に達する。

どうせだったら他人と違うクルマに……という人や、クルマを一種のアートピースと考えたい人には、プジョー408のキャラクターは光ると思う。車体色は、実車をじっくり眺めて決めてください。個人的には“オブセッション・ブルー推し”です。

<プジョー 408 GT HYBRID>
全長×全幅×全高:4700mm×1850mm×1500mm
ホイールベース:2790mm
車重:1740kg
パワートレイン:1598cc 4気筒ガソリン+プラグインハイブリッド
最高出力:132kW(エンジン)+81kW(モーター)
最大トルク:250Nm(エンジン)+320Nm(モーター)
駆動方式:前輪駆動
燃費:17.1km/L(WLTCモード、ハイブリッド燃料消費率)
EV走行距離:65km(JC08モード、EV走行換算距離)
価格:629万円

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)