リーダーの「コミュ力」が、チームや企業の成果に直結する時代です(写真:Kenta Harada/Getty Images)

一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人の話し方を変えてきた岡本純子氏。

たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。

その岡本氏が、全メソッドを公開し、累計20万部のベストセラーとなっている『世界最高の話し方』『世界最高の雑談力』に続き、待望の新刊『世界最高の伝え方── 人間関係のモヤモヤ、ストレスがいっきに消える!「伝説の家庭教師」が教える「7つの言い換え」の魔法』がついに発売された。

コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「WBC名将、栗山英樹の伝え方」について解説する。

「お手本にすべきリーダーは?」の答え

スポーツでも、ビジネスでも、リーダーのコミュ力はそのチームや企業の成果に直結します。

リーダーに必要な力は「采配力」「決断力」「実行力」などと言われますが、最も必要なのは選手や社員を鼓舞し、やる気にさせ、一体感あるチームを作り出す「コミュニケーション力」にほかなりません。


しかし、日本には、そうした強いコミュ力を持ったリーダーはまだまだ少ないのが実情です。

「お手本にすべきリーダーは誰ですか?」

「リーダーの話し方の家庭教師」として、これまで1000人以上のエグゼクティブに寄り添ってきた私が最もよく聞かれる質問ですが、最近、私が激オシするのが、WBCで侍ジャパンを率い、優勝に導いた栗山英樹監督です。

彼の言動をつぶさに観察すると浮かび上がってくるのが、まさに、令和時代のあるべきリーダー像です。

拙著『世界最高の伝え方』に詳述したコミュ術を完全網羅したような極上のリーダーシップ

その「勝てるチームを作る伝え方」の秘密に迫ってみましょう。

まず、その言動からうかがえるのは、彼が徹底的に「コミュニケーションファースト」を貫いていること。

【1】圧倒的なコミュニケーションファースト

通例なら、球団を通して、伝えるべきメンバー選抜の知らせも、彼が直接、選手に連絡するというこだわりぶりでした。

僕は「それじゃ(球団が伝えるのでは)ダメです!その選手を使う監督が“お前が必要なんだ!”って直接伝えなきゃダメなんです!」って強く訴えたんです。

選手の立場からすれば監督から直接伝えられたほうが、なぜ選ばれたのか明確になるし、僕のパッションも伝わり、安心できると思うんです。(NHKでのインタビューより)

と話していましたが、チーム全員に手紙を書いたそうで、「魂を持って伝える」(同)ことに命を懸けている様が伝わってきます。

【2】徹底的にフラットな目線

栗山氏が目指したのは、上意下達のヒエラルキーに基づく昭和の組織ではなく、あくまでも全員がリーダーのフラット(水平)型のチームでした。

そのために、キャプテンを置かず、「年齢が上であるとか下であるとか関係なく、一人ひとりがチーム全体を引っ張ってほしい」と呼びかけたのです。

「ピラミッド」ではなく「横同士のつながり」が大切

その真意をこう語っています。

全員がキャプテンにならないと横同士のつながりができないんで。キャプテンを決めてしまうと、良いキャプテンがいると縦になるじゃないですか……、ピラミッドになっちゃうんで。キャプテンを決めないから横になるんです」(同)

日本では、上司や目上が命令し、下の人間がそれに疑うことなく従うことを良しとする文化が根強いわけですが、こうしたタテ志向は下の人たちの当事者意識を削ぎ、組織が保守化するというデメリットがあります。

チームの全員が、リーダーとしての意識と責任感を持ち、自発的に動くよう、意識改革をしたわけです。

【3】「心理的安全性の高いチーム」を作る

こうした横のつながりが、「それぞれが、言いたいことを言い、それが受け入れられる」という安心感、いわゆる「心理的安全性」につながっていきました。

そんな中で、上下の関係にとらわれず、お互いが不安や悩みを相談し合える関係性、質問をし合う、聞き合う文化が生まれていったのです。

たとえば、WBCの軌跡を描いた映画『憧れを超えた侍たち 世界一への記録』の中では、村上宗隆選手が、ダルビッシュ選手に、「僕(打席がベースから)離れてるんですけど、気になりますか」などと質問しているシーンがありました。

ダルビッシュに「みんなに教えてあげてくれる?」

【4】風通しがよく、活発なコミュニケーション

栗山監督は、ダルビッシュに対し、「みんなに教えてあげてくれる?」と声掛けをし、ダルビッシュはその言葉通りに、チームの交差点として役割を立派に果たしていました。

ダルビッシュ自身、もともと「年功序列的で硬直的、根性主義的な日本の球界」に異を唱えており、若手とも友人のように気さくに接することに徹したのです。

「ダルビッシュ(有)さんは年下の選手にも同じ目線で話してくれています。そこで僕の意見を言ってまたそれに対する意見をもらったりするので、自分がいつもどういうふうに考えていたのかがわかりました」

ロッテの佐々木朗希投手はこんなコメントをしていましたが、風通しがよく、活発なコミュニケーションが、チームの一体感を作り上げたのは間違いないでしょう。

【5】「ツメ」よりも「ホメ」優先

昭和型のスポーツチームは根性重視、ツメ優先の叱責カルチャーが強い印象がありますが、令和の常勝チームはお互いへのリスペクト、「ホメ」優先がデフォルトです。

「選手を信頼し、勝負をゆだねる」が基本スタンスで、「人を傷つけるとか、恥をさらすようなことは言わない」がダルビッシュの栗山評。

そうした空気感の中で、「あっ、今のめっちゃいい。今のたぶん一番良かった」「素晴らしい」と、ほめ合い、励まし合う文化が生まれていったのです。

【6】ひたすらに謙虚

栗山氏は高い実績を上げながら、常に「謙虚であれ」と自分を戒めている節がうかがえます。たとえば、

「人は勝ち切るとダメになるということなんです。みんなが褒めてくれるし、みんなが僕の話を聞いてくれるから、僕が言っていることが正しいって僕自身が勘違いしちゃうんです。(中略)僕が偉そうだったり、ダメなことをしていると思ったら、みなさんにどんどん指摘してほしいんです。これは本当にお願いします!」(同)

「(コーチに対し)本当にすみません。お待たせしてすみません」「(投手に対し)ごめんな、流れが悪いところで投げさせて」など、プライドにこだわることなく、謝ることを厭いません

知ってるふりをせず、素直に聞く

映画には、「スライダーとかってさ、必要なのは基本的に握り?」とダルビッシュに尋ねるシーンが映っていました。

何かわからないことがあれば、知ってるふりではなく、すぐに誰かに素直に聞く常に「学び続ける姿勢」を貫き通していました。

【7】短く言い切る

長々とした説教はしないことを心がけているとのことで、彼の挨拶やスピーチは基本、短く、伝わりやすいのが特徴です。

「チーム全体のミーティングなんかでは失敗してしまうぶん、選手と個別に対話する際には事前にストーリーを組み立て、短い言葉を使うようにしています」(同)

ダラダラしゃべりではなく、瞬間的に相手の心に響く、歯切れのいい言葉を使うよう、心を配っているのです。

【8】「命令」でなく「問いかけ」

彼の話し方を観察していて、気づくのは、多くの言葉が「?」で終わっていること。監督にありがちな「命令」ではなく、「問いかけ」をしているのです。

映画の中でも、

「みんなが見たい選手で、皆が胴上げして、最後ガッツポーズしているのが一番いいかな。一応、そこに向かわせてもらっていい?」
「話してもらって交渉してもらっていい?」
「突然変なこと言ってすみません。もし、正尚(吉田)入れて外野手どういうメンバーになりますか? 清水コーチいかがですか?」
(以上、コーチらへの問いかけ)

「日韓戦、何か気になったり、違うことってある?」
(源田壮亮選手への問いかけ)

といったように、断定、命令ではなく、徹底して、相手に問い、考えさせていました。そうやって、相手が自ら答えを導き出し、自発的に動くよう仕向けていくのです。

「今の選手で誰かに教わってうまくなった人なんて僕はいないと思うんです。自分で考えて工夫して、自分でうまくなっているはずなんです。その手伝いを我々はするだけ」(NHKのインタビュー)

「問いかけ」から選手の「やる気」「思い」を引き出す

問いかけの中で、選手たちのやる気、思いを引き出し、

「本当に選手たちが自分たちで『勝ちたがってくれて、勝ち切った』という戦い」(フジテレビインタビュー)

に持っていったのです。

まさに、「?」の1文字が人を動かすというわけです。

【9】考えを押し付けない

日本の企業や組織のリーダー、上司たちの多くは、「自分の考えは正しく、部下や下の人は間違っている」という視点に立ちがちです。

一方で、栗山氏は、自分自身が「正解ではない」と言い切ります。

「僕は同時に若い人たちに、こうも言っています。「あなたのほうが正しいこと、世の中にいっぱいあります。それを捨てないでください」と。だって僕が子どもの時はバットを上から下に振り下ろせって教わったんですよ。
それが今はどうですか!? メジャーの強打者も、翔平も下から上にすくい上げるようにスイングして、ホームランをバンバンかっ飛ばしているんです。
「たった数十年で世の中は逆のこと言うの?」って感じです。だから常識なんてないんです。若い人たちと我々の間にあるのは意見や考え方の違いだけで、どっちが正しいか、正しくないかじゃないんですね。だから魂でぶつかって対話することが必要だと思います」(NHKのインタビュー)

間違った万能感にとらわれ、ついつい上から目線で「自分の正解」を押し付けがちな昭和型リーダーに、ぜひ聞かせたい新時代のリーダーシップの考え方です。

【10】とにかく「楽しませる」

日本では、「我慢して、忍耐してこそ、成長がある」「つらい思いをしなければ、成長はない」というマゾ志向が非常に根強いところがあります。

仕事、スポーツでも、いまだ、そういった根性論的な考え方をしている人は少なくないわけですが、「プレーを楽しむチーム」のほうが、じつは成果を出しやすいのです。

【WBC栗山英樹監督に学ぶ!「人を動かす"伝え方"」10の魔法】

【1】圧倒的なコミュニケーションファースト
【2】徹底的にフラットな目線
【3】「心理的安全性の高いチーム」を作る
【4】風通しがよく、活発なコミュニケーション
【5】「ツメ」よりも「ホメ」優先
【6】ひたすらに謙虚
【7】短く言い切る
【8】「命令」でなく「問いかけ」
【9】考えを押し付けない
【10】とにかく「楽しませる」

「伝え方」こそが「組織」「チーム」を変える原動力

栗山監督はまさに天才的な「伝え方マジック」で、野球の喜び、楽しさを一人一人に思い出させました。


岡本純子さんの「伝え方セミナー」を8月6日(日)に紀伊國屋書店札幌本店(詳しくはこちら)、9月13日(水)に紀伊國屋書店梅田本店で(詳しくはこちら)それぞれ実施します。

その結果、「野球ってこんなに楽しかった」(岡本和真選手)、「本当に最高のチーム」「みんなのことが大好き」(ダルビッシュ)といった言葉が出てくるほどまでの高揚感を、選手たちが感じるまでになったのです。

まさに、「伝え方」こそが組織を、チームを変える原動力

皆さんも「世界最高の伝え方の魔法で、人を、自分を、変えていきませんか

(岡本 純子 : コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師)