エヌビディアのGPUの製造を裏で支えているのがアドバンテストのテスタだ(右写真はエヌビディア、左写真はアドバンテスト)

1999年12月末につけた上場来高値を今年、23年5カ月ぶりに更新。新高値と過去の高値の差額、いわば「記録更新の幅」は、過去の最高値を2023年に久々に更新した企業の中で1位となった――。

その企業は、半導体検査装置(テスタ)を手がけるアドバンテストだ。今2024年3月期の業績は減収減益を見込む同社。半導体銘柄が数多くある中で、なぜ足元の業績が振るわないアドバンテストへの期待がこんなにも高まっているのか。

背景にあるのは、ゴールドラッシュになぞらえられる「生成AI(人工知能)」の爆発的なブームだ。


新しく発見された金脈へ、一獲千金を狙って殺到する採掘者たち。生成AIブームでの採掘者は、アメリカのマイクロソフトやグーグルなど、名だたる巨大IT企業だ。日本でも、サイバーエージェントが日本語に特化した独自の大規模言語モデルを開発している。

ただ、実際のゴールドラッシュで最も儲けたのは、金を掘るためのツルハシやジーンズを売った人たちだったと言われている。生成AIブームでそれらの役割を担う企業として、真っ先に注目を浴びたのが、アメリカの大手半導体メーカー・NVIDIA(エヌビディア)だ。

エヌビディアが手がける画像処理半導体(GPU)は、ゲーミングPCなどでゲーム映像をなめらかに表示するために活用されてきた。この数年は、大量の計算を効率よくこなせるというその特長から、AIモデルを開発するための深層学習(ディープラーニング)に欠かせない存在になっている。

GPU向けテスタをほぼ独占

生成AI開発という金を採掘するためのツルハシがAI向けGPUとなる。そのAI向けGPU市場をほぼ独占しているのがエヌビディアだ。一方のアドバンテストは、「金採掘に使うツルハシを作るための道具を独占している企業」となる。

アドバンテストが手がける半導体テスタとは、半導体の製造工程の最終仕上げとして、意図している性能がきちんと出るかテストを行う装置だ。世界市場はアドバンテストとアメリカのテラダインの2社が2分する寡占市場で、アドバンテストは市場全体で57%のシェアを占めている。

顧客層は競合のテラダインとは異なっており、「GPUに限ればほぼ独占に近い状況」(アドバンテスト)。エヌビディアとも、1990年代の同社の創業時から取引があったようだ。

エヌビディアは半導体の企画・設計に特化し生産工場(ファブ)を持たないファブレス企業だ。そのため、アドバンテストが実際に多くのテスタを販売するのは、台湾のTSMCに代表される半導体の製造受託を行うファウンドリーになる。

とはいえ、どういったテストを行うかの仕様を決めるのは、半導体の企画・設計をしているファブレス企業。試作段階で使っていたテスタを量産段階で変更することはめったにないため、ファウンドリーがどのメーカーのどのテスタを選ぶかには、ファブレス企業の意向が大きく反映されるという。

半導体メーカーにとって、検査装置は一度使い始めると他社製のものに切り替えるリスクは大きい。そのためAI向けのGPUでエヌビディアの引き合いが強まるほど、アドバンテストもそのまま恩恵を受けるという構図だ。

さらに、テスタでそれぞれ試験する必要があるコア(演算回路)の数は、スマホなどに搭載されているCPU(中央演算処理装置)とGPUでは桁違いになる。CPUは数個〜数十個レベルなのに対し、データセンターでAI処理を行うGPUは数千〜1万超。それだけ、テスタの需要も大きくなる。

2011年の同業買収が転機に

アドバンテストの創業は1954年。当初は微少電流の測定機器を手がけていたが、1970年代から半導体テスタを製造するようになり1983年に上場した。

半導体需要の拡大とともに業績を伸ばしたが、2008年度にはリーマンショックでの需要の低迷によって上場来最大の749億円の最終赤字に転落した。当時、全従業員のおよそ3割にあたる1200人を募集する希望退職を実施している。


転機となったのが、2011年の同業・ヴェリジーの買収だ。アドバンテストのテスタは、それまで市況変動の影響を受けやすいメモリ向けが中心だった。それが、ヴェリジーを取り込むことでCPUに使われるロジックなど非メモリ分野での橋頭堡を築いたのだ。

以降、市況変動の影響を受けつつも5G通信やデータセンター投資の拡大、スマホの高性能化などを追い風に、非メモリ向けが牽引する形で業績は順調に拡大。コロナ禍以降は成長に拍車がかかっている。

巨大テック企業とのプロジェクトも

「顧客とは具体的なプロジェクトがいくつか走っている。『来るかもしれない』ということではなく、実際にデバイス(半導体)が設計・試作されている。それが量産になるタイミングがいつか、ということ」

今年4月に開かれた2023年3月期の決算説明会。「生成AIに関して2024年以降に向けて実際の引き合いが見えてきているのか」と質問したアナリストに、吉田芳明社長はそのように回答した。

説明会での吉田社長の発言を受けて、株式市場は「GAFAM向けのプロジェクトも動いているのだと理解した」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の和田木哲哉シニアアナリスト)。事実、グーグルやマイクロソフト、メタといった企業はAI用半導体の自社開発に乗り出している。

GPU検査装置の市場を独占し「幅広い顧客と付き合いがある」とするアドバンテスト。将来的にエヌビディアの競合相手になり得るプレーヤーにも食い込めていることは大きい。

生成AIのゴールドラッシュが続くほどに、アドバンテストへの注目度は高まっていきそうだ。

(石阪 友貴 : 東洋経済 記者)