メガバンク、地方銀行、ネット銀行、各銀行の大卒初任給(2024年4月入行)を独自に集計した

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銀行員の初任給はトップの30万円から地銀の20万円まで開きがある(写真:78create / PIXTA)

『週刊東洋経済』7月10日発売号では「逆襲の銀行」を特集。金利上昇や株主圧力を受けリテール改革などで既存事業にメスを入れるメガバンク、「1県1行・グループ」の下で再編に揺れる地方銀行などを特集した。


銀行業界で初任給の引き上げラッシュが起きている。昨今の物価上昇に加え、商社やコンサルティング会社に学生が流れることへの危機感からだ。が、ライバル行に負けられない、という横並び意識も拍車をかけているようだ。

「まさかそこまで上げるとは」。2月、1本のニュースが銀行業界を駆け巡った。三井住友銀行が2023年4月入行の大卒初任給を25万5000円へと引き上げる方針を固めたのだ。

22年までの大卒初任給は、メガバンクやほとんどの地方銀行で「20万5000円」だった。5万円もの引き上げで横並びを崩した三井住友の決定は、その後、銀行業界を席巻する賃上げ狂騒曲の序章にすぎなかった。

先陣を切った三井住友に他行も続いた

次に動いたのはみずほ銀行だ。銀行や証券、信託などグループ各社の採用を一本化、バラバラだった初任給を統一した。24年4月入行からの大卒初任給は26万円と、三井住友を上回る水準に躍り出た。

「このタイミングは想定外だった」。2社の動きに慌てたのは三菱UFJ銀行だ。もともとは25年4月から人事制度を刷新する予定で、初任給も同時期に改定する手はずだった。2行に後れを取るまいと、急きょ24年4月入行の初任給を25万5000円に引き上げた。

メガバンクが大幅な初任給アップを提示する中、地方銀行も知らんぷりを決め込むことは難しくなった。金融庁からも人的投資の一環で賃上げを勧められたという。

「おたくはどれくらい上げるつもりですか」。今春、東日本のある県では、同県に本店を構える複数の地銀の人事担当者が鳩首協議を重ねていた。議題は言わずもがな、初任給の引き上げだ。「下位行にとっては負担だが、採用に差がつくのはよくない」。ある地銀幹部は打ち明ける。ライバル行との間で引き上げ幅の水準をすり合わせたという。

表は各行の大卒初任給(24年4月入行)を東洋経済が独自に集計したものだ。岩手・東北・北日本が22万円、千葉・京葉・千葉興業が23万円……。同一県内の地銀が、まったく同じ初任給引き上げを決定した例は、枚挙にいとまがない。すべてが偶然の一致というわけではないだろう。


横一線の賃上げは過去にも見られた。00年代、ほとんどの銀行の大卒初任給は17万4000円だった。08年以降、メガバンクが相次いで20万5000円に引き上げ、地銀もそれに追随した。

今回の賃上げラッシュが当時と異なるのは、引き上げ後の金額に大きなばらつきがあることだ。25万5000円のきらぼしや25万円の山陰合同など、メガバンク並みの初任給を提示する地銀も出現している。銀行ごとの経営体力や人的資本投資を重視する姿勢が、初任給の数字に表れている。

賃金テーブル全体の見直しにも

初任給の引き上げは見た目以上に人件費の重荷となる。既存の若手行員と給与水準が逆転しかねないため、賃金テーブル全体を見直す必要があるからだ。

幸い各行はこの数年、ベビーブーマーのベテラン行員が定年退職を迎える一方、新規採用を抑え従業員数の自然減を推進してきた。人件費に加え、店舗統廃合などで物件費も削減してきた結果、賃上げに踏み切る余力が生まれていたわけだ。

むろん、賃上げだけで優秀な新卒を呼び込める保証はない。銀行では住信SBIネット、他業界ではユニクロや三菱商事など、30万円台の初任給は決して珍しくない。硬直的な人事制度の改定など、若手人材確保のためにやるべきことは山積している。初任給引き上げは、その第一歩だ。


(一井 純 : 東洋経済 記者)