Luupが渋谷区、渋谷警察署と共同で行った記者発表会の模様(筆者撮影)

2023年7月1日、ついに「特定原付」としての新しい電動キックボードが、解禁となった。

午前9時過ぎ、小雨交じりの東京・渋谷駅近く。MIYASHITA PARKに続く小道にLuup(ループ)の電動キックボードが約200台、ずらりと並んだ。


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これは、同日に施行された「道路交通法の一部を改正する法律(令和4年法律第32号)」に際して、Luupが渋谷区、渋谷警察署と共同で行った新交通ルール講習会に関する記者発表の模様だ。

同法によって、「特定小型原動機付自転車(警察庁による略称:特定原付)」という車両区分が新設された。これに伴い、Luupで運用する電動キックボードもすべて「特定原付」に移行する。

小型特殊から特定原付へ

Luupといえば、国内最大級の電動キックボード/電動アシスト自転車シェアリングサービス事業者として知られてきた企業だ。

これまでに東京、大阪、横浜、京都など全国各地で、電動キックボード/電動アシスト自転車計1万台以上と3500カ所以上の貸し出しポートを設置している。ただし、2021年4月から2023年6月末日まで行われていたのは、国の産業競争力強化法にもとづく「実証実験」だった。

そのため、車両区分を「小型特殊自動車」として“クルマ扱い”としたうえで、最高速度を時速15kmに抑えることで、ヘルメット着用を任意とする措置を講じてきた。


実証実験を行っていたときのLuupのステーション(筆者撮影)

また、走行場所についても、車道、普通自転車専用通行帯、自転車道、また自転車が走行可能な標識のある一方通行路など“自転車とほぼ同じ”という考えもあわせて用いられた。

このことから、新たに設けられた特定原付という車両区分が、Luup等が行ってきた実証実験の結果を受けて考案されたものであることが、よくわかる。

そして、7月1日の改正道路交通法の施行に伴い、Luupは保有する電動キックボードのすべてを特定原付に移行した。ただし、Luupのように同法施行前に製造されたものについては、事業者の負担を考慮した対応措置がある。

特定原付では必須である最高速度表示灯の装着について、2024年12月22日までの猶予期間が設けられたのだ。また、一部の歩道で通行が可能な「特例特定原付」として時速6kmで走行するための「時速6kmモードボタン」についても、順次搭載を進める。

Luupのほかにも、今回の改正道路交通法の施行に伴い、7月1日の1週間程前から、特定原付に関するメーカーやサービス事業者による新商品発表会や事業戦略に関する説明会が相次いで行われた。

例えば、次世代モビリティ企業「glafit」とソフトバンク等が出資するシェアリングサービス企業「OpenStreet」の事業連携、ホンダ発ベンチャーの「ストリーモ」、そしてアルミ総合仮設機器の老舗である「長谷川工業」などだ。


3輪タイプであることが特徴のストリーモ(筆者撮影)

各社の代表者や開発者らと意見交換する中で、特定原付のモビリティ市場における現状と課題が浮き彫りなったと感じた。今回は、その中から特例特定原付における時速6km走行の実態について触れる。

各社のモデルで「時速6km」を体験

特例特定原付での時速6km走行について「遅すぎないか」という一部報道やSNS上での声がある。改正道路交通法の施行前に、原付(第1種)の電動キックボードを使い私有地で時速6キロ走行を試しての「安定して走行し続けることが難しい」という見方だ。

この点については筆者も、2022年5月掲載の記事「時速6km『歩道通行車モード』は安全な速さか?」で指摘している。今回の改正道路交通法の施行に伴い、実際に特例特定原付での時速6kmモードを使って走行してみた。

まず試走したのは長谷川工業の電動キックボード、「YADEA(ヤディア)KS6 PRO」。


YADEA KS6 PROの走行風景(筆者撮影)

乗ってみると、直進安定性は十分に確保されていた。テストを目的としてハンドルを左右に小刻みに振ってみたが、車体自体がフラフラする印象もない。だたし、当然のことではあるが、減速をしてのコーナーリングについては、安定した走行をするには少し慣れが必要だと感じた。

次に、glafitとOpenStreetが「電動サイクル」と称する2輪車タイプの特例特定原付で、時速6kmモードでの走行を試した。


glafitは電動自転車タイプ(筆者撮影)

電動キックボードと比べると、進行方向に対してまっすぐ着座しているために、運転者自身が車体全体を制御できる身体的・心理的な余裕がある。ただし、時速6kmはかなり遅く感じ、また長く直進安定性を維持するには、かなり神経を使う印象だった。

こうした状況について、glafitと前述のLuupの代表者はともに「特定原付は原則、車道を走行するもの。特例特定原付での歩道走行は、車道での危険回避など限定的な使用が前提」という見解を示した。これは「自転車」と同じ考え方だ。

要するに、特定原付は走行できる場所が、車道、普通自転車専用通行帯、自転車道、そして「自転車走行可」の標識がある一方通行路と、原則は自転車と同じであるが、特定原付は“原動機付き”であることから、車道での危険回避時に歩行者と同様とされる時速6kmに「速度制御する」という建前だと言える。

これに対してストリーモの場合、3輪かつ独自の自律型安定機構を持つことで、時速6kmモードで走行しても車体の安定性は、極めて高かった。また、バック走行も可能だ。

そのうえで、商品説明の動画の中に歩道で歩行者と並んで会話をしながら走行するシーンがあるなど、歩道を「車道からの危険回避の場所」という解釈に限定している印象はない。

特例だからこそ問われるモラル

警視庁交通部が作成した「令和5年4月1日施行・7月1日施行、道路交通法 一部改正のポイント」という冊子の中では、特例特定原付での歩道等の走行について、次のような記載がある。

「通行するときは、歩道の中央から車道寄りの部分又は特例特定小型原動機付自転車・普通自転車の歩道通行部分を徐行しなければなりません」

また、令和5年4月1日施行の改正道路交通法の施行によって、歩道等を走行できる「移動用小型車」(身体障害者用の車を除く)や、配送用ロボットなどの「遠隔操作型小型車」が新設された。


各省庁で作成した特定小型原動機付自転車の周知・啓発用のチラシ(警視庁HPより)

そのうえで、歩行者の定義に新たなモビリティが加わったとして、次にように説明している。

「道路を歩行する者のほか、移動用小型車、身体障害者用の車、遠隔操作型小型車、小児用の車又は歩行補助車等を通行させている者(遠隔操作型小型車を遠隔操作によって通行させている者を除く)並びに自動二輪車、原動機付自転車又は自転車等を押して歩いている者も歩行者とみなします」

ここに、特定原付が特例特定原付という“特例で加わる”という法的なたてつけだ。なんともわかりにくい説明だが、「歩道でさまざまなモビリティが共存する時代になった」ということは間違いない。だからこそ、人々の「モラル」が問われるようになる。

地域よって歩道、および歩道周辺の車道などの交通環境は大きく違うことから、市町村の条例などによるローカルルールやガイドラインの作成などによって、それぞれの地域が「歩道の最適な利活用」を心がけることが必要となる。

(桃田 健史 : ジャーナリスト)