「とりあえず」と言う上司、あなたの周りにもいませんか?(写真:mits/PIXTA)

日本のマネジャーは忙しい。しかし、その忙しさを生み出しているのはむしろマネジャーの不用意な指示なのではないか……。コンサルティング会社で地域トップを務め、現在はビジネススクールで教鞭を執る著者はそう主張する。では、プロジェクトの最初にマネジャーがすべきこととは?

(本記事は『チームを動かす すごい仕組み』からの抜粋です)。

「とりあえず」は最悪のセリフ

有能なマネジャーの仕事は「初速勝負」です。何か新しいプロジェクトを始める際、新しい期の初め、何か課題が発生した時、「初速」をいかにつけるかを意識して仕事ができるか否かで、その後の成果が大きく変わってきます。

だからこそ、一番最初に紹介したい仕組みがあります。それは「まずはとにかく仮説思考」というものです。

さて、もしあなたが3名のチームメンバーを与えられて、「売上倍増作戦を2カ月で立てるように」と求められたとします。しかも、マネジャーのあなたも3名のメンバーも、営業現場での通常業務を抱えながらの追加要請です。あなたはまず、何をしますか?

一番よくあるのが、「とりあえず、なぜ売上が大きく上がらないのか、調べてみてくれ」「とりあえず、他社で売上が上がったケースをリサーチしてみてくれ」といった指示ではないでしょうか。
これは「最悪の初手」です。

私の「史上最凶のマネジャー」時代の仕事の指示の仕方が、まさにこれでした。メンバーたちはなんのヒントもない中でひたすら情報を集める。そして、マネジャーである私に持っていくと、「こういう他の可能性もあるんじゃないかな?」「うーん。もっと面白い話ないかな。インパクトに欠けるね」「とりあえず、『これだ!』ってものを探してよ」というような、曖昧さを極めたような指示を返される。そしてメンバーは、再び調査、ヒアリング、データ分析を繰り返す……。

彼らはおそらく、「何が『面白い』のかの定義をしてくれ」「こんな指示なら誰でもできる」「あなたは評論家、批評家じゃないですよ。マネジャーですよ」という思いを押し殺しながら仕事をしていたことでしょう。いま、思い出しても我ながら情けない限りです。そもそも「とりあえず」というのは、「私はなんにも考えていないから」と言っているのと同じなのです。まさしく、「ウルトラ放し飼い」のマネジメントです。

だからこそ、必要なのは仮説。とにかくまずは仮説です。

仮説思考という言葉は聞いたことがあっても、具体的に何を指すのか、ピンとこない人もいるでしょう。私の考える実務的仮説思考とは、「いまここにある情報だけを頼りに、現段階でベストだと思う『答え』を考えること」です。

たとえば、「売上を2倍にするには、営業ルートを思い切って変える必要があるのではないか」「商品構成を大幅に見直し、売る商品を絞ったほうがいいのではないか」といったものが「仮説」に当たります。

それが、本当に正しい答えかどうかはわかりません。あくまで「仮置きの案」でOKです。しかし、いったん仮説ができたら、その仮説が正しいかどうかを検証することだけに絞って、次の情報収集、分析作業をすることができます。

チームメンバーも「何を調べれば良いのか」「何を分析すれば良いのか」がわかります。「とりあえず」という言葉の下に、あらゆるデータを片っ端から調べるような時間の無駄を避けることができます(こうした全数調査的な調査方法を、「悉皆(しっかい)調査」と呼びます)。

1つの仮説がダメなら、次の仮説を作る

作業の結果、仮説が反証されて、違うとわかったら、すぐに次の仮説を作ります。仮説の方向が正しいことは検証されたが、どうも仮説が粗く、ぼんやりしていると感じたならば、どんどん仮説を具体的なものに落とし込んでいきます。こうして、仮説を進化させていくのです。

もちろん、仮説ですから絶対に正しいということはあり得ません。しかし、できるだけ精度の高い仮説を立てたいものです。

そのための「仕組み」をお伝えしましょう。それは、同じような課題に悩んだことのありそうな同僚、先輩、他業界の仲間と連絡を取って、「あなたなら、どうするか」と聞いてみることです。特に現場感をしっかり持っている人に聞くと良いでしょう。

私が所属していたコンサルティング業界の組織的強みの1つはここにありました。大体、どの会社でも、マネジャーは仮説作りのために、類似の仕事経験のある世界中の仲間に連絡しまくります。そして、自然にこうした「情報を提供し合い、学び合う」文化が出来上がっていました。そう、「フラットな組織による情報の共有」です。

「聞いたところで親身になって教えてくれるものなのか」と疑問を持つ人もいるでしょう。しかし、いまは「助け合い」が当たり前の時代です。特にY世代、Z世代の人にはその意識が浸透しています。助け合い、学び合いましょう。

X世代の人であっても、改まって聞かれたら、親身になってアドバイスをしてくれるのではないでしょうか。また、日頃からSNSなどを活用し、社外とのつながりを持っておくことも重要となるでしょう。

答えのない問いに対して、いくら机の前でうなっていても無駄です。あるいは、書籍や雑誌、ネットなどで成功事例を集めることもあまり意味はありません。それはあくまで「他社の話」であり、「蒸留されたきれいごと」。「我が社の事情」を汲んでくれているわけではありませんし、「本音」を伝えてくれるものでもありません。

いわゆる「ロジカルシンキング」の手法を使い、課題の因数分解をするマネジャーもいます。結果を丸で囲んで、その下に4つくらいの原因を丸で囲って書き、線でつなぐ。ツリーのような形状になり、これがロジックツリーと呼ばれているのはご存じの通りです。

確かにこれは、考える際のガイドラインにはなります。しかし、そこから「答え」が出てくることは、永遠にありません。思考の整理の道具としては使えますが、それだけです。

ちなみに「まずはとにかく『仮説思考』」という時の「まず」とはどのくらいの時間軸なのでしょうか。

仕事は「最初の2週間」で決まる

私の経験からは、3カ月の検討が必要な仕事、あるいは3カ月で結果を出さなければならない仕事であれば最初の2週間で、かなり正解に近いという自信の持てる最終仮説を作り上げるというのが1つのメドとなります。少なくとも最初の1カ月で最終仮説が決まっていないと、その後の2カ月のマネジメントは、とてもしんどくなります。


あるいは、2週間で勝負をつけるようなもっと短期の仕事なら、最初の2日間くらいで最終に近い自信のある仮説を作るといったイメージです。

「こんなもんかな。落とし所は」とつぶやけるような、かなり正解に近いという確信を持てる仮説に到達できれば、チームメンバーを漂流させることもなくなり、マネジャーも精神衛生上、ぐっと楽になります。

私は「リーダーは頑張らない」ことを目指すべきだと思っていますが、初速だけはある程度「頑張る」必要があります。ただ、それをやることで、あとの仕事は大いに楽になります。「最初だけはとにかく頑張る」という「仕組み」を導入する、と考えましょう。

(山本 真司 : 山本真司事務所代表、立命館大学大学院経営管理研究科専任教授 )