話を聞いてもらえない人の特徴とは(写真:EKAKI/PIXTA)

せっかく一生懸命に考えたことでも、相手に聞いてもらえなければ意味がない。コンサルティングファームでさまざまなプロジェクトに従事し、本や先輩たちから学ぶなかで体系化した「考える技術」を著書『思考の手順』にまとめた田中耕比古氏は、話を聞いてもらえない人には、あるものがないと話す。

「相手が知りたい順番」で伝える

話を聞いてもらえる人、話を通せる人は、相手から信頼されている人です。信頼は、一朝一夕で形成されるものではありません。時間をかけて、関係性を構築していった結果、「話を聞いてもらえるようになった」のです。

決して、その人が、社会的地位のある偉い人だから、有名人だから、ということではありません。むしろ、そんな理由で相手を信頼してしまうのは、聞き手の側に問題があると言えます。

ただし、社会的地位のある人、有名人の中には、華々しい実績を持っている人が多いため、その実績が信頼を作ることはあります。例えば、10万人の受験生を有名大学に合格させた塾講師と、新任の塾講師が、「大学受験のコツ」についてまったく同じことを言っても、聞く方の気持ちは違うでしょう。

とはいえ、新任の塾講師が現役東大生だということになると、少し話を聞いてみようかなと思う人も出てくるかもしれません。これが、実績の力です。

しかしながら、これはあくまでも例外的な話です。一般的には「実績で勝負する」という場面は少ないでしょう。したがって、私たちが為すべきは、時間をかけて信頼関係を構築していくことです。

職場の上司や先輩はお客さんに話を聞いてもらえるが、自分は聞いてもらえない。先輩の話はうなずきながら聞いている上司が、自分の話になると腕組みをして口をへの字にして納得してくれない。そういう場面で、悔しい思いをした人も多いことでしょう。

しかし、お客さんと何十回も打ち合わせを重ねて、そのたびに、いろんな悩み事や困りごとを共有してきた上司や先輩と、今日、初めてお客さんと顔を合わせた自分では、相手からの信頼が違います。

あるいは、いろいろな仕事の現場で、苦楽を共にしてきた上司と先輩。先輩は、上司からたくさんの指導も受けたでしょうし、それを吸収して仕事上の成果を生み出してきたはずです。その先輩が言っていることを、上司が信頼して受け止めるのも当然のことです。

信頼を積み上げていくには

逆の立場に立ったら、あなたもきっと同じ態度を取るはずです。10年前からお世話になっている先輩と、たった今、路上で声をかけてきた人。あなたは、どちらの話を真剣に聞き入れるでしょうか。

一方、そうして路上で声をかけてきた人と、何だか気があって仲良くなり、何年もの付き合いを重ねていったとすると、その人の話を聞く土壌ができあがっていくはずです。今、あなたと相手の間に信頼関係がない、相手からの信頼が薄いのであれば、まずは、そのことを自覚するところから始めましょう。

そのうえで、信頼を積み上げていくためには、ひとりよがりで「相手がわかってくれない」と思うことをやめ、相手が求めるものを理解することが大切です。相手が、何を欲しているのか。どういう気持ちなのかを考えましょう。

特に、自分の考えた順番で話すのは、あまり得策ではありません。あなたがどういうふうに考えていったのかという経緯は、説明を受ける相手にとっては、さして重要なものとは言えません。相手が知りたいことを、知りたい順序でお伝えしていくように心がけるべきです。

言いたいことを伝えるのではなく、相手が何を知りたいかを推し量るようにしましょう。一方的に話しすぎず、相手から聞くことにも力を注ぎましょう。相手からの質問には、しっかり答えていきましょう。

その結果、話したい順番と違ったり、横道に逸れていったりしても、気にしてはいけません。中長期的な関係性を築くことを目指して、信頼を少しずつ積み上げていくのです。「何を言うか」はもちろん大事ですが、「誰が言うか」も大事だからです。

深く考えた結果導き出された「正しいこと」を言ってさえいれば、それでいいというものではないのです。

ホウレンソウは最強のコミュニケーションツール

自分の考えを相手に理解してもらうためには、信頼関係を構築することが大切だと述べました。仕事の現場、特に社内の関係性においては、「ホウレンソウ」をうまく活用することが、信頼構築の近道です。ホウレンソウ、すなわち、報告・連絡・相談はいずれも、自分の持っている情報、自分の考えた結果を、相手に受け渡す作業です。

報告は、上司や先輩に判断を仰いだり、何らかの承認をもらおうとしたりするときに行います。3つの中では最も公式な情報連携方法です。連絡は、情報共有です。知っておいてもらう、認識しておいてもらう、ということで、「聞いていない」「知らない」などと言われてしまうリスクを抑える効果も期待できます。相談は、相手からの助言やアドバイスを引き出すのに有用です。こちらから情報を渡すだけでなく、相手の脳みそを借りて、こちらのインプットを得るわけです。

このように、それぞれ目的やシーンが異なりますので、それらをうまく使い分けていくことで、相手からの信頼を得やすくなります。その観点で見たときに特に重要なのが、相談です。最大のポイントは「途中経過」を共有することです。

報告と言われると相手は身構えます。内容を聞いて判断を迫られるのではないかと感じます。ひと言ふた言を聞いた時点で、NOという答えを思い浮かべてしまうかもしれません。そうなると、信頼構築どころか、話の内容さえも耳に入らずに終わってしまいます。

一方、相談であれば、相手は「アドバイスをする」という姿勢になります。そして、アドバイスをするために、あなたの話を聞いてくれます。あなたが何を考えているのか。そこにはどんな理由があり、どんな論理構成なのか。その理由に違和感はないか。論理に矛盾は含まれていないか。そもそも、モレている前提知識が存在しないか。そういうことを考えるモードになります。

もちろん、連絡も大切です。情報をこまめに伝えていくことで、信頼を築けます。進捗が思わしくないとか、何か問題が起こりそうだとか、そういうネガティブな情報も積極的に伝えましょう。そうすることで相手が「知らない」「聞いていない」と言えなくなります。言い方は悪いかもしれませんが、一種の「共犯者」になり、仲間として、共に問題に立ち向かってくれるようになります。

報告をしないといけないタイミング

とはいえ、仕事においては、連絡や相談だけでなく、報告をしないといけないタイミングがもちろんあります。ただし、仕事上のコミュニケーションであれば、多くの場合、報告を行うタイミングは数日〜数週間先になります。


何かを依頼されたり、何かの仕事をすると宣言してから、何日間も何の連絡もなかったら、上司や先輩はどのように感じるでしょうか。おそらくは「ちゃんと問題なく進んでいるのだろうか」「もしかしたら、忘れてしまっているのではないか」と不安な気持ちを抱えることになります。

ですから、そうなる前に相手に情報を渡すのです。できるだけ早いタイミングがいいでしょう。また、1回だけで終わらず、複数回、連絡や相談を行うことをおすすめします。もし可能ならば、定期的に相談する時間を、あらかじめ確保しておくのも良案です。

進み具合が順調であっても、そうでなくても、定期的に情報が入ってくれば、上司や先輩は安心します。何か問題があったならば、早いタイミングで方向修正を指示することもできます。

(田中 耕比古 : ギックス取締役、共同創業者)