JA全農が手掛ける「ニッポンエール」のご当地グミ。その裏側を追いました(撮影:今井康一)

最近、菓子や飲料などで、「ニッポンエール」という見慣れないブランドマークを見かける機会が増えてきた。ニッポンエールの文字の下には、「にっぽん生まれ、にっぽんそだち」と書かれており、国産の農作物にこだわったブランドらしいことは想像がつく。なかでも目立つ商品は、各都道府県産の果汁やピューレを使用しているご当地グミのシリーズだ。

「ニッポンエール」は、JA全農が立ち上げた新しい商品ブランド。他の食品メーカーや流通業とのコラボ商品づくりも積極的に進めている。それも、伊藤園、アサヒ飲料、ゴディバ、山崎製パン、ドン・キホーテといった有名どころと組んでいる。

都会に住む人たちにとっては遠い存在であるJA全農の狙いは何か。急成長しているグミ市場の中で存在感を示し始めた「ニッポンエールグミ」の商品開発の裏側を探った。

取扱店舗が700店→6万店に!

JA全農をひと言であらわすと、「JAグループの中で、農畜産物の販売や生産資材などの供給を担う農業商社」となる。各地の農協単独では取り組めない農協グループ全体のスケールメリットを追求しているわけだ。なお、JA全農の連結売上高は約4.5兆円にも達する。

「ニッポンエール」は、そんなJA全農が2019年に立ち上げた新しい商品ブランド。「日本の農畜産物の新たな価値を創造し続けていく」というミッションを掲げ、国内にとどまらず海外展開も見据えているという。「ニッポンエール」の立ち上げによってJAグループ外への販路が広がり、従来ブランドでの国内取り扱い店舗数は約700だったところを、約6万店舗にまで広げることに成功したというから、威力は大きい。

「ニッポンエール」商品群の中で、グミの商品数は53と群を抜く。それぞれが全国各地の特産品を用いているのが特徴だ。また、中心部の軟らかいジュレが果汁感を引き立てる2層構造タイプである。

背景には、グミ人気もあるだろう。グミの市場規模は2021年にガムを上回った後も急拡大を続け、2022年には対前年比22%増の781億円にまで到達。将来的には1000億円市場になると予測されている。

なぜグミに力を入れることにしたのか

新ブランド立ち上げの企画段階から関わり商品開発も担当する、営業開発部MD企画課調査役の山田晋也さんはこう語る。

「ご当地グミの全国発売は2021年9月。21都道県、28商品でスタートしました。一般流通には向かない規格外品の果汁を使用しているのが特徴です。これにより生産者の所得を増やすことを狙っています。また、名前を聞く機会や食べる機会がない珍しい果物や品種の名前を消費者に知っていただき、各産地や特産品への関心も高めたいのです。これは海外に対しても同じで、国産農作物の輸出拡大にもつなげる計画を立てています」

そもそも、JA全農はなぜグミに力を入れることにしたのだろうか。


営業開発部MD企画課調査役の山田晋也さん(撮影:今井康一)

「グミと並行してキャンディや焼き菓子も検討しました。果汁の使用量で考えれば、以前から積極的に取り組んできた清涼飲料の方がずっと大きいですし、こちらはこちらで成長させていきます。けれども単純に果汁の使用量だけを増やそうとしているわけではありません。各地の農協が取り扱っている青果の購買にもつなげたいのです。こう考えた場合に、グミという商品形態が適していると考えました」(山田晋也さん)

たしかにグミは果実感を訴求しやすい。ただいくらグミが成長市場だといっても、後発メーカーが簡単にシェアを奪えるほど甘くはないだろう。「果汁グミ」の明治、「ピュレグミ」のカンロ、「ピュアラルグミ」のカバヤ食品、「コロロ」のUHA味覚糖など、味や食感などあの手この手で果実感を売りにした大手のシリーズに対して、JA全農はどういった違いを打ち出すつもりなのだろうか。


定番人気のフレーバー、1番人気は長野県産シャインマスカット(撮影:今井康一)

山田晋也さんによると、特徴は2つあるという。

「まずは都道府県別でも品種別でも“味比べ”ができる点です。都道府県という切り口で展開しているメーカーは他にはありません。加えてシリーズラインアップの豊富さです。既に39都道府県をカバーしており、来年春までには47都道府県すべてのラインアップを完成させる計画で進めています」

47都道府県のご当地味を売りにしたお菓子は他にもある。大手グミメーカーであれば、どこでもできることなのではないだろうか。


現在、全国39都道府県をカバー。47都道府県すべてのラインアップを完成させる計画

「『ニッポンエールグミ』では、JAグループならではの強みを生かした原料を使っています。一方、他社さんの商品には、原料調達しやすい、よく名前が知られた品種が使われています。たとえば山梨県の『ブラックキング』、熊本県の『ハニーローザ』などは、地元以外では知られていないブドウとスモモの品種です。熊本県に『ハニーローザ』の生産者は数十名しかいませんから、原料確保には苦労しました。生産者と関係が深い各地の農協があってこそ可能になることです」(山田晋也さん)

珍しい品種は生産量が少なく、こういった品種の原料調達と商品の製造計画では悩みが尽きないそうだ。年によって収量が大きく変化する果樹では、裏年には規格外品の流通量が大幅に減る。国産にこだわった商品の原料調達は、生産量の多い品種ですら容易ではない。

ターゲットは幅広い層、予想外の購買行動も

肝心の消費者については、どのような層をターゲットにしているのだろうか。

「幅広い層をターゲットとしています。なかでもお子さん連れの女性からは、グミを食べる習慣がなかったのに、直売所で買い物する際にお子さんが欲しがり買い与えているうちに自分もグミ好きになってしまったり、お子さんの地理の勉強になりそうだからと一緒に食べ比べしているうちに自分もグミ好きになってしまった、というお話もいただいています。手軽に旅行気分を味わえるからグミ好きになったというご年配の方もいらっしゃいます。想定外だったこととしては、珍しい品種を使った商品だと、地元企業のまとめ買い需要が起きることもわかりました」


子どもに人気のフレーバー、あまり酸味のない品種が好まれる(撮影:今井康一)

最近では、消費者から、この品種を使ったグミを商品化してほしいとの要望が寄せられているそうだ。   

JA全農独自の販路としては全国に約500店舗あるAコープがある。これに続くは、各地の農協と結びつきが強い農産物直売所だ。とはいえ、わざわざ農産物直売所にグミを買いに来る客などいなさそうに思える。さらに、直売所自体がグミを売る気にならなさそうだが、山田晋也さんたちは勝算はあると考えていたという。

「たしかに農産物直売所は、グミには売れるイメージがないという先入観を持っていました。私たちは直売所の壁に目をつけていたんです。直売所はスーパーと違って背の高い陳列棚が少ないため、壁面が目立ちますよね。ここにボードを取り付け、グミを面陳列するように提案したんです。結果は、空きスペースを使って売上げ増になりました。ドライフルーツなども含めた『ニッポンエール』商品をずらっと並べて見せることで、店内の見た目もよくなりお客さんの興味を引いたのです」

同じ品種は複数の県でラインアップしない

各産地の課題解決につなげることを目的にしているというが、気になるのは、同じ品種の商品化を複数の県が希望してきた場合の対応だ。日本全国での全体最適という観点で生産と流通を考えるのがJA全農の立場である。青森県と長野県のリンゴ「ふじ」、山梨県と長野県のブドウ「シャインマスカット」、千葉県と茨城県のナシ「幸水」といったケースでは、どうしているのだろうか。

「複数の都道府県で同じ品種を商品化することはしません。ここはそれぞれの地域の意見や希望を聞きながらも、ご納得いただけるように、数字を示すなどして何とか調整します」(山田晋也さん)

最近人気のカンキツ愛媛県産「紅まどんな」などは、ニッポンエールグミによって首都圏でも名前を知られるようになったそうだ。


完熟かぼすの収穫風景(写真:JA全農おおいた提供)

「大分県の『完熟かぼす』は、課題解決につながったわかりやすい事例です。『完熟かぼす』とは、収穫し切れずに黄色くなってしまったかぼすのことです。黄色くなると酸度が落ちて糖度が上がるのですが、魚にかけてもおいしくない。青果として流通させようにもすぐに傷んでしまうため、収穫されることはありませんでした。グミにすることで、廃棄されていたものを有効活用できたのです。

『神紅』は島根県が育成した新品種のブドウで、まだ流通量も限られているのですけど、県を挙げて知名度を高めたいということで商品化を実現させました。八丈島特産の巨大な「八丈フルーツレモン」は、『ニッポンエール』の取り組みによって青果のネット販売が伸びたんですよ」(山田晋也さん)


ゴディバとのコラボ商品(撮影:今井康一)

ニッポンエールグミは、粘度の違いによって、内側の軟らかい部分と外側の硬い部分の2層構造になっている。この内側の軟らかい部分にチョコをコーティングしたのが、ゴディバとのコラボ商品「ジュレショコラ」だ。そのほか「ドライフルーツのチョコがけ」などを含め、昨年2022年の「ゴディバ日本上陸50周年×JA全農創立50周年」の企画商品として、今年の3月にフィナーレを迎えて50商品・メニューを達成した。

「『ジュレショコラ』は、グミの内側のジュレをそのまま使えばいけると考えたのですが、ゴディバさんのチョコレートの風味が強く果実感が出せずうまくいきませんでした。ゴディバさんのシェフと何度も試作を重ね、オリジナルのジュレを作りました」(山田晋也さん)

JA全農は実はグミでもコラボ商品をつくっている。その中には競合するブルボンも含まれる。発売されたばかりの「フェットチーネグミ青森県産世界一りんご味」がそれだ。これはハード食感系グミの品揃えを進めたいJA全農と、原料調達はもとより「ニッポンエールブランド」との相乗効果も期待できるブルボンの、双方の思惑が一致したためだろう。

応援したい産地を選ぶ、という楽しみ方も

はたして現状「ニッポンエール」は、JA全農の狙い通りに進んでいるといえるのだろうか。

「ニッポンエール」の目的は、国産農畜産物の販路拡大である。従来の「全農」ブランドなどでは実現できなかった販路開拓に成功している現状とメーカーや流通からコラボ案件が次々持ち込まれている現状を見る限り、新ブランドはひとまず順調に立ち上がったと言ってよいのだろう。

果物に限らず、国産農畜産物を使用した商品の購入は、日本の食料自給率を高めるために個人で取り組めるもっとも簡単な方法でもある。

まずは、産地名が明示されているため、自分が応援したい地域を選べる。もうひとつは、手軽に知らない土地の珍しい農作物(品種)の味を知ることができる点である。どちらも楽しみながら社会貢献した気分になれる。

こう考えてみると「ニッポンエール」は、我々にとって、ふるさと納税制度に似ているのかもしれない。

(竹下 大学 : 品種ナビゲーター)