女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地であり、その後も定期的に訪れるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。第27回は、川上さんが自ら理想の空間に「DIY」した新居について。

賃貸の新居を「白く」塗り替え!大人世代にもDIYはおすすめ

2023年も下半期に突入しました。毎年思うことではありますが私にとって今年はとくに忙しく動いた上半期でしたから、なおさら時間の速さを実感しています。谷中の店舗の移転からようやく1年を経たタイミングで、今度は仮住まいの引っ越し。2年連続して「春」という季節を引っ越し作業で追われていたために、桜を愛でる余裕なく夏を迎えています。

【写真】川上さんが白く塗り替えた部屋<After>

加えて世の中全体もコロナ前の賑わいが戻り始めました。私たち芸能で仕事する者にとって大変ありがたいことではありますが、決してコロナが終息したわけでないことを考えると、これからいよいよコロナとの共存という新しい社会ができていくのだと思います。

●新居の決め手は「ペット可」そして「DIY可能」の一文

さてさて、谷根千を拠点に活動している私の仮住まいとなる新居もおかげさまで、落ち着いてまいりました。

今回見つけたのは昭和が漂う古い物件でしたが、契約の条件として「猫共生型の部屋にDIY可能」という夢のような一文があり即決となりました。

なにしろ猫との暮らしをなによりも優先したい私ではありますが、東京での賃貸生活ではなかなかそれは許されてきませんでした。40年に渡る猫との暮らしにおいて、堂々と飼育させてもらえた場所は皆無に等しく、残念ながらそれがいまだ日本の現状のようです。心優しい大家さんの善意によって暮らすことができたことがほとんどではありましたが、それでも肩身が狭く心苦しい思いがありました。

結果猫は実家に残し、寂しく生活せざるを得ないという現実。似たような思いを抱えている人のなんと多いことか。犬・猫と暮せる環境が増えることで救われる命はたくさんあります。住環境や賃貸条件を見直すことが殺処分ゼロに近づく社会への手助けになるはずなのですが、そのためにもとくに猫にまつわる住宅での誤解を少なくしていきたいと考えています。

●自由に変えられない賃貸こそ「明かり」の力を借りたい

また賃貸での暮らしは、猫以外においてもさまざまな制約があるために、限られた条件のなかで暮らしを楽しむというのはなかなかの技が必要です。

「衣・食・住」の中で衣・食においては、世界から見ても豊かに成長した日本がなぜか「住」に関しての楽しみ方にいまだ迷いが生じて見えるのは、この日本特有の賃貸暮らしの細か過ぎる制約にあるかもしれません。

DIYはだれでも初めは、失敗の連続です。その失敗を学びに代えられるはずの多くの若い世代が暮らすのが、「賃貸物件」です。壁に釘を打つことも、壁紙を張り替えることも、床の素材を替えることもできません。

これは本当に歯がゆいことで、部屋の雰囲気はカーテンやクッションで遊ぶことが精一杯。そのなかで、私自身の経験からいちばん効果があったのは「照明器具」だったように思います。これはスウェーデンで暮らす人たちから学んだことですが部屋のどこに、どんな灯りを置くかはとても重要です。

照明がもたらす効果は想像以上ですので、もし現在賃貸で不満を感じながら生活をされておられる方はぜひ、試してみてください。蛍光灯をやめて間接照明に変えるだけで部屋の印象はまったく変わります。

最近ではネットで調べれば、間接照明の置き方も簡単に教えてくれますので、実際にさまざまな場所に置いて試してみると、きっと思わぬ効果に驚くと思います。見せたくない場所には光を当てず、お気に入りの場所にスポットを当てるだけでも効果抜群。光を追求していけばインテリアの達人につながるはずです。

●部屋を「白い空間」にするため自分で塗り替え

今回賃貸生活40年にして初めて、猫の飼育及びDIY可能な物件に入居した私は、気分も高揚気味で、まずは全部屋のあらゆる場所を白く塗り替えることから始めました。

これもスウェーデンから受けた影響のひとつです。近年イケアが日本に進出したことから、気づいた方も多いと思いますが、スウェーデン人のインテリアに「白」はとても重要な役割を果たしています。これも冬に日照時間の少ない生活を強いられ、少しでも明るく暮らしたいという知恵から生まれたのかもしれません。

長い冬を経て迎えた白夜の夏の休暇では、多くのスウェーデン人が部屋のどこかを白く塗り替えていることと思います。それを裏づけるように、本場スウェーデンのイケアではDIY関連の売り場がとても充実しています。その中において、白のペンキのコーナーでは何種類もの微妙にトーンの違う「白」が何十列にも並んでいるのです。

●自分で手を加えた部屋への愛着は別格

今回私も部屋を自らペンキで塗り替えていきましたが、最近のペンキの扱いやすさにびっくり。素人の私でも簡単に作業ができました。やはり自分で手を加えた部屋への愛着は別格。たくさんの友人も手伝ってくれましたので、彼らが塗ってくれた手作業の跡が日々の生活をうるおしてくれています。

まもなく夏休みがやってきます。みなさんもこの夏、照明の配置を見直してみると同時になにかしらを塗ってみたらいかがでしょうか。見慣れた部屋が、新鮮になること間違いないと思います。