昨年はタイトルホルダー、一昨年はクロノジェネシスと、2年連続でファン投票1位の馬が勝っているGI宝塚記念(阪神・芝2200m)。今年は、史上最多の21万6379票を集めたイクイノックス(牡4歳)が第1位に選出された。

 1984年のグレード制導入以降、宝塚記念においてファン投票1位の馬が3年連続で勝ったことは一度もないが、そんなデータなどまるで無意味に思えるほど、イクイノックスに対するファンの信頼度は高い。「カタい」「テッパン」といった具合で、すでに勝つことが大前提かのように言われている。

 確かに昨秋、GI天皇賞・秋(10月30日/東京・芝2000m)、GI有馬記念(12月25日/中山・芝2500m)と、ともに圧巻の競馬を見せて連勝。今春も海外へ遠征し、GIドバイシーマクラシック(3月25日/UAE・芝2410m)を完勝し、今やその実力は「世界レベル」という評価を受けていることを考えれば、それも頷ける。

 まさしく実力、実績ともに、現在の日本競馬界を代表する存在であるイクイノックス。それゆえ、今回の宝塚記念(6月25日)で断然の「一強」扱いとなるのも当然のこと。まして、阪神開催のGI3戦3勝という"阪神番長"タイトルホルダーが不在となれば、ますますイクイノックスは無敵と思える。


国内外のGI3連勝を飾って、宝塚記念に挑むイクイノックス

 ただ、そうやって「テッパン」「無敵」と言われれば言われるほど、"重箱の隅"をつつきたくなるのが、競馬に携わる者の性。はたして、宝塚記念に臨むイクイノックスは、本当に"テッパン"なのだろうか。

 隅をつつく材料としてはまず、今回の宝塚記念に向けて、イクイノックスにはいくつかの"初"がある、という点だ。

 関西初参戦ゆえ、阪神コースを走るのは初。2200mの距離も初めてで、海外帰りの"帰国初戦"という条件で出走するのも初めてのことだ。過去にはこうした"初"が、一流馬に思わぬ凡走をもたらしたことがあるが、イクイノックスにとって不安要素となることはないのだろうか。関西の競馬専門紙記者はこう語る。

「阪神同様に(馬場が)"重い"と言われる中山コースで有馬記念を勝っていますからね、コース自体に何ら不安を感じることはないでしょう。距離もまったく問題なく、むしろこの距離がイクイノックスには向くかもしれません。

 というのも、阪神の芝2200mはスタート後が緩い下り。その分、ペースが上がりやすいという特徴があります。有馬記念でテンに引っかかるところを見せたイクイノックスとしては、前半のペースが"どスロー"になるのが一番の懸念材料でしたが、その心配がほとんどないのですから。コース、距離ともにまったく心配はいりませんよ」

 加えて、海外帰りの帰国初戦という点についても「不安はない」と同記者は続ける。

「海外遠征は確かに負担が大きいですが、今回のイクイノックスの場合、スタート後にハナに立って、そのまま押しきるという競馬で楽勝でした。それなら、馬にかかる負担も少なかったと思います。

 実際、宝塚記念を前にして栗東に滞在して調整していますが、入厩してすぐに時計を出すなど、馬は元気いっぱい。ですから、海外帰りという点もマイナス材料にはならないでしょう」

 いくつかある"初"については、どれもウィークポイントになることはなさそうだ。しかしながら、専門紙記者によれば「もしかしたら、これが最大の不安要素となるかもしれない」という"初"の材料があるという。

「雨です。イクイノックスは過去7戦、すべて良馬場でしか走っていませんからね。雨が降って、泥んこの極悪馬場になった場合、それに対処できるかどうか。そこは、大きな不安となります。

 梅雨の時期ですから、そういう可能性がないとは言えません。もし雨が降って馬場が渋化した時は、イクイノックスも絶対と言えず、波乱が起こってもおかしくありません」

 現に過去を振り返れば、馬場が荒れたことによって、ドゥラメンテ、サートゥルナーリアといった人気馬が勝利を逃している。天気次第ではイクイノックスも「テッパン」とは言えなくなるかもしれない。

 そしてもうひとつ、過去10年の宝塚記念において、ファン投票1位に2年連続で選出されながら、2年とも勝てなかった馬がいる。イクイノックスの父であるキタサンブラックだ。2016年が3着、翌2017年には9着と馬群に沈んでいる。

 注視したいのは、大敗を喫した2017年。この春、キタサンブラックはGI大阪杯、GI天皇賞・春と連勝し、まさに"敵なし"といった状況で宝塚記念を迎えた。

 当日の単勝オッズは、1.4倍。今回の"息子"イクイノックスと同じく、一強ムードの圧倒的な存在だった。

 ところが、不可解にも勝負どころの直線でズルズルと後退。結果、掲示板にも載らない惨敗である。レース後、主戦の武豊騎手は「(敗因は)よくわからない。こんなの初めて......」と首を傾げた。

 GIを立て続けに制して、競走馬として脂の乗った時期に迎える宝塚記念。そうした状況は、2017年のキタサンブラックと今回のイクイノックスは、よく似ている。キタサンブラックが陥った"不可解な敗戦"のDNAをイクイノックスが受け継いでいるとしたら、どうなるか......。

 そうは言っても、これら"重箱の隅"は勝敗の行方を占う本質とはかけ離れた、いわば枝葉末節程度のこと。裏を返せば、その程度のことに心配や不安のタネを探さなければいけないほど、今回のイクイノックスは盤石ということだろう。

 現実的に考えれば、宝塚記念はイクイノックスの相手探し――そう割りきるほうが賢明かもしれない。