久しぶりに直に聞く肉声は、生き生きとしていた。

「今まで日本で、どれだけいい形で(サッカーが)できていたのかって、恵まれていたなって、改めてすごく感じています。よりタフになりますし、そういった面では自分のなかで、本当にいい状況にいるなって思っています」

 松岡大起は時折すがすがしい笑顔を見せながら、そんな言葉を口した。

 それが決して嘘や強がりでないことは、日本にいた頃と変わらず、常に先頭に立って練習に取り組む姿が証明していた。

 松岡がブラジルのグレミオ・ノボリゾンチーノへ期限付き移籍することが正式に発表されたのは、今年3月19日。すでに今季J2が開幕し、松岡も清水エスパルスで3試合に出場したあとのことである。

「最初はヨーロッパ(のクラブ)を探しているなかで、自分の力が足りないっていうところで(オファーが)なかったんですけど、その後にブラジルからオファーをいただいた。自分自身、ここに行ってしっかりとやれば成長できるんじゃないか、より上に行けるんじゃないかっていう強い意志を持って決断しました」

 冬のマーケットでの海外移籍は断念し、清水残留。誰もがそう思っていたところで突如発表された、急転直下のブラジル移籍だった。

 あれからおよそ3カ月。清水から遠く離れた地球の裏側で、22歳のボランチはいかなる日々を送っているのか。

 U−22日本代表のヨーロッパ遠征に参加していた松岡に、オーストリアで話を聞いた。


U−22日本代表の欧州遠征に参加した松岡大起

 まずは、日本人にとって未知の部分も多いブラジルの全国リーグ、それも2部リーグについて、である。

「案外映像で見ると、結構オープン(な試合展開)に見えたりはするんですけど、実際にベンチから見ると、強度とスピード感っていうのはかなりすごくて。それにグラウンドも、映像ではよく見えたりするんですけど、やっぱり実際に入ってみると結構ボコボコしてたりもあるんでミスも起こりますし、サポーターもすごいところはすごいんで。そういったいろんな面でタフになるリーグだなってすごく感じます」

 2部とはいえ、そこはブラジル。単純にレベルの高いリーグであることは間違いなさそうだが、松岡が肌で感じる苦労はそれだけではないという。

「暑いところだったり、今の時期だとちょっと肌寒い地域もあって、場所によって気候も違いますし、(国土が)大きいので、やっぱり移動がかなり大変で。アウェー続きだと、飛行機でかなり移動して、練習より移動が多いんじゃないかっていうくらい。それなのに(移動がない日は)練習するかと思ったら、試合の前日はスタッフも入ってゲームをして次の日に試合とか、そういうのもあったりするんで(苦笑)。

 そういう(息を)抜く時と、グッとやる時を考えながら、しっかり試合のなかで100%出すために考えないといけない部分がたくさんある。そこの調整の仕方は、日本とはまたちょっと違うなっていうのはすごく感じます」

 サッカーうんぬんの前に、まずはブラジルの習慣に慣れなければいけない、といった様子の松岡。とはいえ、「日本にいた時よりも、もっと力強さをつけないと今後難しいなって、改めて感じるところもすごくある」と話しているように、ピッチのなかで改めて気づくことも多いようだ。

「ボールの奪い方も、今までは(体で)ガツンっていくことが多かったんですけど、足をもっとグッと前に出して奪うところだったり、そういったところは(コーチから)教わったりします。あとは、ボールが浮いてる時や、ボールを持った時の体の使い方ですね。

 でも、教わるところもありながらも、やっぱり自分の感覚が一番だと思うので、そこは自分のなかでうまく調整しながら、どうやったら前に進めるのかっていうのを考えながらやっています」

 ブラジルに渡ってからの苦労を証明するかのように、松岡は移籍後、まだ公式戦での出場機会がない(U−22代表のヨーロッパ遠征参加時点)。

「自分たちのチームは、すごく緻密にミーティングもかなりの頻度でやっています。どこのチームもやっているとは思いますけど、相手はどこがウィークで、どこがストロングなのかっていうのを、より細かく(分析を)やっているところはあります」

 松岡がそう語るグレミオ・ノボリゾンチーノは、現在ブラジル全国リーグの2部で首位。好調なチーム状態も、新参者の試合出場を難しくしているのかもしれない。

 松岡自身、「もちろんサッカー選手として、やっぱり試合に出ていないと難しい状況を日々過ごすことはある」と、現状が納得いくものでないことは認めている。

 だが一方で、そこに暗さはまったくと言っていいほど感じられない。「でも」とつないで、松岡が続ける。

「今は我慢の時期じゃないですけど、試合に出られていないこともプラスにとらえて、じゃあ試合に出るためにはどういうアクションをして、どういうマインドで、どういう準備の仕方をすればいいのかを学ぶじゃないですけど、Jリーグで出ていた時よりももっと研ぎ澄まさないといけないんだなって、より感じています。そこは自分自身、プラスの要素がすごくあるんじゃないかなと思って取り組んでいます」

 そして、「本当にブラジルのリーグは、すっごく難しいリーグだなって思います」と苦笑する松岡は、「でも、ここでやれたらどこでもやれるってことなんで」と、あくまでも前向きだ。

「練習試合でも、何部リーグのチームなのかわからない相手ともやるんですけど(苦笑)、それでも結構能力は高いし、『なんでこの選手、ここにいるんだろう?』って思う選手がたくさんいる。自分たちと同じ年代もいて、『この選手、日本だったら普通に(U−22)代表レベルなんじゃないかな』っていう選手がゴロゴロいたりするので。

 やっぱり自分自身も、もっともっと能力を上げないといけないなって日々感じますし、今やっていることが絶対自分の血となり、肉となると思うんで、しっかりやっていきたいと思います」

 もちろん、本人が「こうやって(U−22代表の試合で)ピッチに出ることで、やっぱり評価してもらえるところもあると思う」と話すように、こうしたU−22代表での活動もまた、所属クラブへの大事なアピールの機会となる。

 だからこそ、途中出場ながら「(2−0から)自分自身も3点目を奪えるチャンスがあった」というイングランド戦を振り返り、「いい形でボールを奪って、GKと1対1っていうシチュエーションがあったんですけど(決められず)、そこはまだまだだなって思います」と反省の弁を口にした。

 そんなU−22代表での活動で得た収穫と課題も踏まえ、松岡は「与えられた時間でどれだけ自分のプレーが、パフォーマンスが出せるか。ブラジルにいる時も、そのことを常に考えて、まだ出番はないですけど、どんな状況でも、どういうタイミングでもチャンスはくると思っているので、その与えられたチャンスのなかで、どれだけ自分という存在を出せるかだと思っています」と、下を向くことなく語る。

「まあ(ブラジルへ渡って)3カ月ぐらいですけど、ここから試合に出ることによって、もっといろいろ経験するんだろうなってワクワクしています」

 すべてがうまく進んでいるわけではない。今後事態が好転する保証もない。

 だが、22歳の挑戦は、過酷な分だけ濃密でもある。