スペインGP決勝を終え、マシンから降りた角田裕毅は車検場裏の地面に座り込んだ。

 フィジオセラピストと広報、マネージャーの宮川マリオに迎えられたが、落胆と怒りと疲労の入り混じった表情のまま、なかなか立ち上がることはできなかった。

「非常にアンフェアだと感じますし、バカバカしいペナルティだと思います」


角田裕毅はまさかのペナルティに大きく落胆

 レース終盤の56周目ターン1、アルファロメオの周冠宇のアタックに対してインをブロックした角田のドライビングが審議対象となり、周冠宇に十分なスペースを残さなかったことを理由に5秒加算ペナルティが科された。

 角田は9位フィニッシュを果たしたが、チェッカーを受けた直後に12位へと降格になったことを無線で知らされた。

「チェッカーを受けた瞬間は(9位入賞で)とてもうれしかったんですけど、無線でペナルティのことを聞かされて、すごくガッカリしました。全部出しきったうえでの9位だったので、ものすごく嬉しかった。だからこそ、かなり落ち込みましたし、その落ち幅は大きかったです......」

 角田はレースを通してアルピーヌのエステバン・オコンと争い、一時は前を走るほどの好走を見せていた。

 予選では8番手のマシンでしかなかったAT08で、Q3進出まで0.033秒というタイムを、それも中古のタイヤで記録してみせた。ターン5出口のホイールスピンでラインが膨らみ、縁石に乗ってトラックリミット違反でタイム抹消となったが、それがなければタイム有効どころか、タイムロスがなければさらに上の順位が狙えたはずだった。

「今あるパッケージのすべてを出しきらないとQ3には行けなかったので、あそこまで全力でプッシュしたことに後悔はないです。レッドブルやメルセデスAMGの前の11番手というのは、僕らにとってとてもいい結果だったと思います」

 タイム抹消で15番グリッドからのスタートとなった角田だったが、スタートで12位までポジションアップ。そこからはニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)と周冠宇を抜いて引き離し、前のオコンとの戦いにフォーカスしていった。

【周冠宇のシミュレーション?】

 2回目のピットストップでオコンに対して先手を打ち、アンダーカットに成功してオコンの前に出た。マシンの実力に勝るオコンに抜き返されはしたものの、その後もタイヤのバイブレーションに苦しむオコンの背後について、タイヤをいたわりつつチャンスをうかがった。

 オコンのペースが上がらないためトレイン状態になり、やがてうしろの周冠宇も0.8秒ほどのギャップまで追いついてきた。だが、角田は毎周DRS(※)を使われてもストレートエンドで仕掛けさせない距離はしっかりと保って、巧みに状況をコントロールしていた。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 だが、ピットストップで一時後退したフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)がこの3台を抜いていくなかでパワーバランスが微妙に崩れた。そのわずかな隙を突いて、55周目の最終コーナーから56周目のターン1でDRSを使い、角田の背後に迫ったのが周冠宇だった。


問題となった角田裕毅と周冠宇のバトル

 ターン1でアウト側に並びかけサイドバイサイド状態で飛び込んだ周冠宇は、イン側の角田が譲らないと見るや、アウト側にステアリングを切ってランオフエリアに逃れた。深追いすれば接触のリスクがさらに高まるうえ、タイムロスも大きくなるのだから、それ自体は妥当な判断だ。

「僕は彼にスペースを残しました。彼はかなり早い段階で(ターンインするのを)あきらめて急にランオフエリアに飛び出していって、押し出されたように振る舞ったように感じました。

 もちろん、僕も彼に対してプレッシャーはかけていきましたが、でも、間違いなくアウト側にはまだスペースがありましたし、コース上にとどまることはできたと思うので、なぜこれでペナルティが科されるのか理解できません。非常にアンフェアで厳しすぎる裁定だと思います」

 あまりに早い段階での回避に、角田はサッカーで言うところの「シミュレーション」を疑った。だが、周冠宇の立場からすると「僕が避けなければ当たっていた」となる。コース外に出たドライバーが「押し出された!」というのは決まり文句であり、特別なことでもない。

【同じ案件は何度も起きていた】

 現在のF1のルールに照らし合わせれば、ターン1のエイペックス(頂点)で2台が並んでいた場合は、その先もお互いに1台分のスペースを残しながらバトルをしなければならない。しかし、角田の車載映像を見れば、ステアリングを切ってもそれ以上曲がっていけず、走行ラインはコーナーのアウト側ギリギリまで行ってしまっている。

 これは、ルール上は「アウト」だ。周冠宇がシミュレーションをしていようといまいと関係なく、並んだ相手にスペースを残さなかったことに変わりはない。

 このペナルティ自体は、ルールに照らし合わせれば妥当なものだと言える。ただ問題は、このターン1で同じようなインシデント(審議案件)が何度も起きており、それらは見逃されていたということだ。

 スタート直後のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)も、カルロス・サインツ(フェラーリ)に対してスペースは残していない。4周目のオスカー・ピアストリ(マクラーレン)もケビン・マグヌッセン(ハース)を押し出している。F2のレースでも同様のインシデントは多数あった。

 審議対象となればペナルティが科されるはずなのに、審議の対象とならずに見逃されているものが多数ある。トラックリミット違反の見落としと同様に、問題は「ジャッジの一貫性」ではなく「取り締まりの不十分さ」だ。

 もちろん、「ほかの人もやっているから」という理由で角田のドライビングを正当化することはできない。FIAに求めるべきは、一貫した取り締まりの強化による公平性の向上だ。

 角田にも言い分はあり、もっと奥まで周冠宇が粘ってきたらスペースを残すつもりだったかもしれない。しかし、あの映像だけではそれを証明することはできないし、スチュワードはその映像だけを見てペナルティの裁定を下した。

「そのペナルティを撤回するために、チームとして抗議できないのかという気持ちもあります。いずれにしてもFIA(スチュワード)は何の議論もなく5秒ペナルティを科してそのままレースが終わってしまっているので、当事者と議論はすべきです。その点はアンフェアだと思います」

【入賞のチャンスを捨てた?】

 第3戦オーストラリアGPのサインツに対するペナルティ裁定しかり、こうした当事者の証言という「最も重要な証拠のひとつ」を無視した欠席裁判も、最近のスチュワード審議の問題だと言える。レース後にペナルティによる順位変動を忌避するがあまり、レース中に当事者の見解を聞かずに下す裁定が拙速になってはいないだろうか。

 アルファタウリ側にも問題があった。

 このインシデント確認の通知後、37秒でスチュワードは審議を開始している。前述のように通常なら見逃されていたターン1でのこうした押し出しを「審議不要」ではなく「審議対象」としたこの時点で、ペナルティが科される可能性は高かった。ルールに照らし合わせれば、そのドライビング自体は違反であることは確かだったからだ。

 であれば、この時点で周冠宇にポジションを譲って審議を回避し、一旦10位に下がってから再び周冠宇をオーバーテイクし9位を取り戻すことを考えるべきだったかもしれない。

 もしくは、角田にタイヤの限界までプッシュするよう伝え、後方で争ってペースが下がっているピエール・ガスリー(アルピーヌ)とシャルル・ルクレール(フェラーリ)に対して5秒のギャップを広げて10位を確保するべきだった。

 審議開始から、たったの2分30秒で5秒加算ペナルティの裁定が下されている。そして、何も知らなかった角田は9位でフィニッシュし、5秒加算されて1.886秒差で入賞圏からこぼれ落ちた。

 つまり、ペナルティの可能性があったにもかかわらず、アルファタウリは何もアクションを起こさず、みすみす入賞のチャンスを捨てたことになる。

 とはいえ、終わったことを悔やんでも過去は変えられない。重要なのは、自分たちの何がいけなかったのか、何をどうしていればもっといい結果が得られたのか。それを考え、改善し、成長することだ。

 マシンパッケージは、決勝ではアルピーヌと互角に戦えるまでに進化してきた。あとは予選パフォーマンスをさらに改善できれば、もっと上位で安定して戦える。角田自身は、あいかわらずマシンの力をすべて引き出し、毎戦入賞圏を争ってこれ以上ないレースを見せている。そしてすでに、次のレースでの雪辱を期し前を向いている。

 レース直後の大きな落胆から、角田は立ち上がって前を向いた。

 そんな角田とアルファタウリに対し我々ファンがすべきは、ネガティブなエネルギーを引きずり続けることではなく、前向きな挑戦を応援することしかない。