日本最大の地図メーカー・ゼンリンが運営する地図の博物館「ゼンリンミュージアム」(北九州市小倉北区)において、道路地図やカーナビゲーションの歴史に焦点を当てた企画展『クルマの地図 大集合!!〜68年の軌跡〜』が5月20日からスタートしました。

 

この企画展は、日本初の道路地図誕生や、世界初のカーナビゲーションの実機などを集めたもので、知られざる“クルマの地図”の歴史を貴重な資料とともに紹介するものです。今回はその見どころを取材してきました。

 

「道路地図」と「カーナビ」の貴重な資料や実機を数多く展示

ゼンリンミュージアムは、かつて「ゼンリン地図の資料館」として運営されていたスペースを2020年6月に一新してリニューアルオープンしたものです。展示される内容が大幅に増加したことに加え、選任の解説員「Z(ズィー)キュレーター」による、より詳細な説明も受けられるなど新たなサービスも用意されました。『クルマの地図 大集合!!〜68年の軌跡〜』は、そうした常設展の特別展として開催されるものです。

 

会場は常設展が展開されている奥の特設会場。展示内容は大きく道路地図とカーナビゲーションに分けられ、そこでは貴重な資料や実機を数多く見ることができるようになっています。

 

なぜ地図上に砂利道が表示? 高度経済成長期の初めにあった不思議な表記

入口から入って真っ先に目にするのが、今から68年前の1955年に日本で最初に道路地図として使われた20万分の1地形図・地勢図です。戦後、高度経済成長期を迎えた日本では、道路インフラの整備が進み始めていました。そんな中で求められていたのは道路地図でしたが、当時はそれに該当するものがなく、1955年に登場したのが、20万分の1地形図・地勢図を使った道路地図でした。

↑1955年当時、道路地図として使われていた20万分の1地形図・地勢図

 

ここから日本の道路地図の歴史は始まったのです。

 

現在の道路地図らしいスタイルで登場するのはそれから3年後の1958年のことです。1958年と言えば、政府の国民車構想の下で“てんとう虫”こと「スバル360」が誕生した年。時代は本格的な高度経済成長期に入り、この頃から日本でもモータリゼ−ションの波がいよいよ押し寄せ、道路地図への需要が急速に高まっていったのです。それにともない、各地図会社が数多くの道路地図を出版するようになり、クルマ1台に必ず道路地図が1冊常備される時代へと向かっていきました。

↑1958年、建設省道路局監修の下、地図会社の武揚堂が日本初の道路地図として発行

 

興味深いのは、この時代の地図を見ると“砂利道”の表記があることです。実は、1958年当時の日本の道路はほとんどが砂利道で、幹線道路でも舗装率はわずか8%しかありませんでした。砂利道を走ればクルマが痛むのはもちろん、速度が遅くなるうえに燃費にも悪影響を及ぼします。できるだけ砂利道を走らないようにするためにも、この表記は欠かせなかったのです。

↑地図凡例には舗装路/砂利道の区別がしてあるのが興味深い

 

1964年に開催された東京オリンピックを迎えるにあたって、その前年には日本初の高速道路となる名神高速道路が一部区間で開通。そこから日本はいよいよ高速道路を使った本格的なハイウェイ時代に入っていきます。それにともなって移動ニーズが多様化し、地図会社もさまざまな種類の道路地図を用意。道路地図はドライブを楽しむのに欠かせない必携アイテムとなりました。会場ではこうした道路地図の変遷を見ることができます。

↑1970年代になると目的に応じた多彩な道路地図が、さまざまな地図会社から出版される

 

世界初のカーナビをはじめ、エポックメイキングな製品が見られる

そして、もうひとつの展示がカーナビゲーションです。その目玉となっているのが、1981年に登場した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」。この機種はまだGPS衛星による測位がなかった時代に、ガスレートセンサーで車両の動きを検知して現在地を測位することに成功した世界初のカーナビゲーションです。2017年にIEEEによって“世界初の地図型自動車用ナビゲーションシステム”として認定されました。

↑1981年に登場した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」。世界初のカーナビゲーションとしてIEEEに認定された

 

会場ではカーナビの歴史を築き上げた、この貴重な現物を見ることができるのです。

 

実はこの開発で培った経験を活かし、ホンダは“地図データを光ディスクに収録する”特許を取得しています。そして、その特許をホンダはなんと無償公開。これが後に始まるカーナビの進化に大きな功績を残すことにつながるのです。

 

その功績はすぐに花開きました。1985年に開催された東京モーターショーで三菱電機は、地図のデジタル化に成功したゼンリン製CD-ROMを使い、GPSカーナビの実現を目指すコンセプトを紹介したのです。この技術は1990年に登場したユーノス・コスモに搭載された世界初のGPSカーナビ「CCS(カーコミュニケーションシステム)」の開発へと引き継がれます。さらに市販カーナビでもパイオニアがサテライトクルージングシステム「カロッツェリア・AVIC-1」を発売し、GPSカーナビ時代が到来するのです。

 

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そのほか、ルート案内機能を初めて搭載することで、名実ともに“カーナビゲーション”となった「ボイスナビゲーションシステム」が1992年にトヨタ・セルシオに搭載。さらに、カーナビの普及に貢献した1993年登場のソニー「NVX-F10」、初のポータブル型カーナビとして世に出た三洋電機「ゴリラ・NV-P1」、通信機能を搭載したパイオニア「エアーナビ・AVIC-T1」などと続いていきます。そんな時代のエポックメイキングとなったカーナビの数々を目の当たりにできるのも、この企画展の醍醐味と言えるでしょう。

↑カーナビの普及に大きく貢献したソニー「NVX-F10」(左)。ナビソフトも目的に応じた多彩なラインナップをそろえた

 

↑ディスプレイやGPSアンテナなど、カーナビに必要なすべてを一体化した三洋「ゴリラ」初号機。初のポータブル型ナビでもある

 

有料入館者全員にオリジナルチケットホルダーをプレゼント

会期中は有料入館者全員に、1970年に日地出版が発行した道路地図の表紙をモチーフにした、オリジナルデザインのチケットホルダーがプレゼントされます。私も実物をいただきましたが、個人的にはチケットだけでなくマスクホルダーとして使ってもいいのではないかと思いました。

↑有料入館者には、昭和45年に道路地図の表紙をモチーフにしたオリジナルデザインのチケットホルダーがもらえ↑

 

『クルマの地図 大集合!!〜68年の軌跡〜』の開催期間は、2023年5月20日(土)〜9月3日(日)まで。ゼンリンミュージアム内多目的展示室で開催されています。開催時間は10時〜17時(最終入館16時30分)で休館日は毎週月曜日(祝日が重なった時は翌日に変更)。入場料は常設展示も含め、一般1000円です。

 

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