「全体的には悪かった試合だったが、勝ちきることができてよかった」

 キャプテンのMF松木玖生がそう語ったように、決して見栄えのいい試合ではなかった。

 だが、身体能力に勝る相手の猛攻に耐え、若い選手たちが力を尽くして手にした勝ち点3である。目標とする世界一への第一歩としては、上々のスタートになったと言っていいのだろう。

 U−20ワールドカップの初戦となるグループリーグ第1戦、日本はセネガルに1−0で勝利した。


チームの勝利に大きく貢献した松木玖生(写真中央)

 選手個々のスピードとパワーで劣る日本は、立ち上がりからアフリカ王者の速い寄せに苦しんだ。選手たちには大会初戦の硬さもあったのか、自分たちの間合いや距離でプレーさせてもらえず、パスをつなごうにもすぐに囲まれ、行く手をさえぎられた。

 しかし、そんな嫌な空気を無視するかのように、ひと振りで試合を動かす救世主が現れる。キャプテンの松木である。

 前半15分、「あそこは勇気を持って、みんなでラインを上げた」と振り返るDF高井幸大が敵陣で拾ったルーズボールが、MF永長鷹虎、MF福井太智と細かくつながれ、最後はペナルティーアーク付近に入ってきた松木の足下へ。

 その瞬間、松木がわずかな躊躇も見せずにシュートモーションに入ると、力強く左足で叩かれたボールは、相手GKの指先をかすめるようにゴール右隅に飛び込んだ。

 殊勲の背番号7が振り返る。

「太智から横パスがきた時、もうゴールのことしか考えていなかった。(シュートが)うまくコースに入ってくれてよかった。(あの距離は)常にシュートレンジだし、もう一個遠くからでも狙えるような自信はある。思いきりよく振れてよかった」

「こういう大舞台に強いのが自分」と言い放つ、頼れるキャプテンが決めた先制ゴール。硬さの見えた日本の選手たちに、多少なりとも気持ちの余裕が生まれたのは間違いないだろう。

 とはいえ、これで日本が試合の主導権を握れたわけではなかった。

 前半20分には、結果的にVARによるオフサイド判定で取り消しとなったものの、あわや同点ゴールかという大ピンチもあったように、その後はセネガルがボールを保持して、日本陣内で試合を進める時間が増加。後半に入ると、その流れはさらに顕著となり、時間とともに日本は敵陣に入ることすらままならなくなった。

 松木が語る。

「完全に相手の雰囲気に持っていかれたというか、前半は結構ビルドアップができたと思うが、後半になってちょっと自分たちがビビってしまって、ボールをつなげなかった」

 日本のDFライン、さらには中盤も次第に後退。セネガルの猛攻に耐える時間ばかりが長くなった。DFラインを完全に破られながら、相手のフィニッシュワークの拙さに助けられたシーンもなかったわけではない。

 しかしながら、劣勢だった日本が、それほど多くの決定機を作らせなかったこともまた、確かな事実である。

 とりわけ奮闘が目立ったのは、日本から見て右サイドの守備。すなわち、セネガルの10番、FWサンバ・ディアロを中心とするスピーディな攻撃に対抗し続けた右SBの高井、そして右CBのDFチェイス・アンリの活躍である。

「ボールを取りきることが一番いいが、中に(CBの)アンリと(DF田中)隼人がいて、身長もあるので、最悪クロスを上げられてもいいという対応でやっていた。(自分が)抜かれて、アンリが(相手選手に)ついてきて、というのが一番よくない形だと思っていたので、まずは抜かれないようにやっていた」

 高井が試合後にそう語っていたように、セネガルのスピードやコンビネーションにも振りきられることなく、日本の最終ラインは粘り強く対応。相手の武器である(セネガルから見て)左サイドの攻撃を封じることに成功した。

「ラインの上げ下げがちょっと曖昧になって、相手もどんどん押し込んできた。最後の10分とかは結構苦しかった」(チェイス)

「背後のところをちょっと気にしすぎて、ラインも低かったし、間延びしてセカンド(ボール)も(相手に)取られた」(高井)

 ふたりがそんな言葉で振り返った試合最終盤の時間帯には、トップ下で先発していた松木も「セカンドボールが拾えていなかったので」と、実質3ボランチの一枚となってスペースをカバー。「クロスの時に隼人とアンリだけが下がって、その(ボランチとの)間に下がっている人がいなかったので、そこを自分が埋めようと思った」と、自らの判断でチームの危機を回避した。

 松木が続ける。

「(セネガルの)クロスが多かったので、(自分も加わって)"偽5バック"じゃないが、中でクロスでやられないように、しっかりスペースを埋めることができたのでよかった」

 はたして、日本は虎の子の1点を死守。大会初戦を無事に勝利で飾った。

 チームを率いる冨樫剛一監督も、頼もしい戦いを見せた選手たちを称える。

「1勝するのが、これだけ難しいということを感じた。(セネガルサポーターが多かった)スタジアムの雰囲気、(荒れた)ピッチ状態を含めて、本当に選手たちはこの試合に集中して、目の前の瞬間、瞬間をしっかり戦ってくれた」

 大事な大会初戦で、しかも、アフリカ王者として今大会に臨んできた難敵を下す、大きな1勝である。松木も、「今日だけしっかり喜んで、明日からは次の試合に向けて、またコンディションを整えていきたい」と、すでに次のコロンビア戦へと視線を向けつつも、「全員が90分間戦い抜いての勝利なので非常にうれしい」と笑顔を見せた。

 世界基準のスピードやパワーを体感し、適度に苦しみながらも勝ち点3という最高のご褒美を手にした大会初戦。決して国際経験豊富とは言えない若い年代の選手たちにとっては、上々どころか、最高のスタートになったのかもしれない。