【グループリーグの相手は強豪ぞろい】

 5月20日に幕を開けたU−20ワールドカップ。2年に1度開催される20歳以下の世界一を決める戦いだが、コロナ禍の影響で前回大会が中止となったため、今回は4年ぶりの開催となる。


5月15日にアルゼンチンと練習試合を行なったU−20日本代表。チームの成否は松木玖生が握っている

 アルゼンチンを舞台に繰り広げられるなか、3大会連続11度目の出場となる若き日本代表は、冨樫剛一監督の下で初の優勝を目指している。過去最高成績は小野伸二(現・北海道コンサドーレ札幌)らを擁した1999年大会の準優勝。以降は2003年大会にベスト8に入った一方で、出場した大会はすべてベスト16で姿を消している。

 まずはグループステージで2位以内、もしくは、3位のなかの上位4チームに与えられるノックアウトステージ進出の権利を掴むことが最初の目標となる。

 2003年生まれ以降の選手で構成されるチームは、最終予選を兼ねて行なわれた今年3月のU−20アジアカップでベスト4。そして今大会は、一筋縄ではいかない組に入った。グループCの日本は、21日の初戦でアフリカ王者のセネガル、24日の第2戦で南米3位のコロンビア、27日の最終戦で欧州2位のイスラエルと対戦する。いずれの相手も強敵で簡単ではない。戦術的にも肉体的にも精神的にも逞しさを持っているからだ。

 初戦で対戦するセネガルは欧州組3名を要し、フィジカルの強さと個人技の巧さを兼ね備えた好チーム。ベルギー1部のSVズルテ・ワレヘムでプレーするMFパプ・ディオプは予選で5ゴールをマークしており、10番を背負うFWサンバ・ディアロもディナモ・キエフで技を磨く左のサイドアタッカーだ。彼らを中心に予選は勝利を重ね、6試合を14得点0失点で勝ち上がってきた。「アフリカNo.1で、個の戦いになれば、ものすごくレベルが高い」と冨樫監督が話すとおり、侮れない相手だと言える。

 2戦目で対戦するコロンビアは南米らしい個人技を持つチーム。イングランド2部のワトフォードで今季37試合に出場したMFヤセル・アスプリージャはすでにA代表歴があり、ドイツ2部のニュルンベルグに籍を置くMFグスタボ・プエルタは、長短織り交ぜたパスが武器の司令塔だ。

 予選ではウルグアイに敗れたものの、アルゼンチンに勝利し、ブラジルには引き分けており、チームの完成度は高い。日本は昨年6月のモーリスレベロトーナメントで対戦しており、その際は1−2で敗れている。「カウンターが鋭いし、前線の選手たちの個のクオリティーも高い」と冨樫監督も警戒を強めており、昨年の戦いを踏まえた上で相手のストロングポイントをいかに封じるかが肝となる。

 初出場となるイスラエルも、強豪が揃うヨーロッパ予選を2位で勝ち上がっており、不気味な存在だ。予選を現地で観戦した冨樫監督が「コレクティブでテクニックもある」と称するチームだが、予選後にあまり活動をしておらず、最も情報が乏しい。だが、PSVのU−21チームに所属するMFアベド・タイを中心にまとまっており、予選では準決勝でフランスに2−1で勝利。実力は本物だ。

【日本は現状のベストメンバー】

 そうした強豪国と対峙する日本は、現状でベストメンバーと呼べる選手たちを揃えた。Jリーグのルーキーイヤーだった昨年からレギュラーとして活躍するMF松木玖生(FC東京)や、予選で得点王に輝いたFW熊田直紀(FC東京)といった有望株はもちろん、FW福田師王(ボルシアMG)、MF福井太智(バイエルン)、DF郄橋仁胡(バルセロナ)、DFチェイス・アンリ(シュツットガルト)と、欧州でプレーする4名がメンバーに入った。

 海外組4名の招集は過去最多。いずれもアンダーカテゴリーやセカンドチームでプレーしているとはいえ、ポテンシャルは一級品だ。しかも、この年代の選手はコロナ禍の影響で海外勢との対戦経験が乏しいだけに、彼らの存在は心強い。

 12日から現地でトレーニングを積み、15日にはアルゼンチンと練習試合を実施。1−2で敗れたものの、手応えはあった。「(1年前のモーリスレベロトーナメントで対戦した)アルゼンチン戦と比べ、差が埋まっている」とMF佐野航大(ファジアーノ岡山)も成長を感じたと話す。

 ケガ人もなく、順調に調整を進めるなか、今大会を戦う上でポイントになりそうなのが松木の起用法だ。チームの中心人物でキャプテンを務める大黒柱は、攻守で替えがきかない存在。幅広い役割を担える松木に対してチームメイトも一目置いており、頼りにしているという。

「守備面で変わってくる。松木は守備のスイッチを入れる役割を担うことが多いので、前で起用された時のやりやすさはある。でも、逆にボランチに入れば試合を落ち着かせてくれるし、試合の支配もできる」(佐野)

 アジアカップでは複数のポジションで起用され、いずれもハイレベルにこなして勝利に貢献した。4−2−3−1ではトップ下と中盤の底、4−4−2ではダブルボランチの一角と最前線、3−4−2−1ではシャドーと3列目で起用されている。

 予選の起用法を紐解くと、相手の出方次第と戦い方によって松木のポジションが変わるのは間違いない。チームの戦術として高い位置からプレッシングをかける場合は、4−2−3−1のトップ下か4−4−2の2トップの一角で起用するのが最適解。じっくりボールを動かす展開や中盤で守備の強度を保ちたい場合は、ボランチで起用する策がハマるだろう。

【1試合でいくつものタスクをこなす松木玖生の能力】

 松木の能力を考えた場合、最も理想的な起用法がアジアカップのサウジアラビア戦だ。この試合はグループステージの最終戦で、順位を決める上で重要な一戦だった。しかも、相手は1勝1敗の3位。あとがない状況で、積極的に攻撃を仕掛けてくる可能性が高かった。

 そこで松木が2トップの一角に配置され、ファーストディフェンダーとして高い位置から相手にプレスをかける役割を担った。松木は見事に期待に応え、強度の高い守備でショートカウンターの起点として機能。攻撃面でも高い決定力を発揮し、前半の早い段階で先制点を決めた。

 同点に追いつかれた後半の終盤にもセットプレーから決勝点を叩き込み、圧倒的な存在感を示したのは記憶に新しい。だが、この試合はこれだけで終わらない。リードを奪うと、残り10分はボランチに下がって、クローザーの役割を担ったのだ。

「試合に出ている以上、これがベース。もっと自分がやらないといけないと感じている」と涼しい顔で言いきった松木だが、最も疲れている時間帯にあれだけの強度でプレーしたのは流石の一言。1試合でファーストディフェンダー、ストライカー、クローザーの役割をハイレベルに務め、その存在を知らしめた。

 状況に応じて、1試合でいくつものタスクを担う――。今大会でも松木の能力を最大限に生かすのであれば、この起用法がベストだろう。

 セネガルとの初戦は21日の18時キックオフ(日本時間22日の6時)。悲願の初優勝を目指す冨樫ジャパンの戦いから目が離せない。